生没年不詳。中国、五代(南唐)の画家。董元とも書く。巨然(きょねん)とともに南唐・北宋(ほくそう)初期を代表する山水画家である。鍾陵(しょうりょう)(江西省)の人。字(あざな)は叔達(しゅくたつ)。南唐の李璟(りえい)(在位943~961)に仕えて後苑(こうえん)副使(後苑造作所の次官か)となり、後苑は北苑ともいったので董北苑ともよばれる。『図画見聞志(とがけんもんし)』に「水墨は王維(おうい)に類し、着色は李思訓(りしくん)の如(ごと)し」と伝え、董源の描いた山水には水墨と着色の2種類があったらしい。また『夢渓筆談』には「江南の真山を写し、奇峭(きしょう)(厳しくそびえるさま)の筆をなさず」「その用筆甚だ草々」といわれ、湿潤な江南の風土に即した山水画が初めて董源によって描かれたと考えられている。その画風は弟子巨然に受け継がれて以降は、江南の地方様式として細々と継承されたらしいが、北宋末の文人画家の米芾(べいふつ)が董源・巨然を絶賛し、それは元末に至り四大家(呉鎮、黄公望、倪瓚(げいさん)、王蒙(おうもう))の学ぶところとなって、董源は巨然とともに南宗画風の祖となった。その作風を伝える伝称作品として『寒林重汀(じゅうてい)図』(兵庫・黒川古文化研究所)、『瀟湘(しょうしょう)図巻』(北京(ペキン)故宮博物院)などが知られる。
[星山晋也]
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中国,五代南唐の山水画家。董元ともかく。生没年不明。字は叔達。鍾陵(江西省進賢)の人。南唐の中主李璟に仕えて後苑(北苑)副使となり,宮廷画家として活躍した。山水画は水墨と着色をかき,北宋末期の米芾(べいふつ)が並びなき神品と絶賛して以来,名を高め,後世,南宗画(なんしゆうが)の事実上の開祖とされた。その画風は,江南の水気豊かな自然を,披麻皴(ひましゆん)(皴法)などにより柔らかく平淡にとらえ,伝称作品の《瀟湘図巻》(北京故宮博物院)にその一端がうかがえる。
執筆者:曾布川 寛
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…南唐二陵の墳墓をみればわかるとおり唐風によっているが,絵画界では後世に巨大な影響を与えることになる試みが行われていた。花鳥画における徐熙,その孫徐崇嗣,山水画における董源,巨然の存在がそれである。徐熙は唐風の左右相称的構図の装飾画を制作する一方で,墨彩を中心とする新傾向をもみせた。…
…伝統的に絵画以上に高い評価を受けてきた書・文学が唐の滅亡と五代の戦乱のなかで,わずかな例外を除いて,ともに見るべき成果を生みださなかったのに対して,絵画においては唐末五代から宋時代にかけて一貫して巨匠が輩出し,後に六朝の書,唐の詩,宋の画と称されるようになる中国絵画の黄金時代が開かれる。その軸となったのが山水画であり,山水画の英雄時代を開いた巨匠が華北の荆浩,江南の董源である。彼らは唐末五代の戦乱の中,それぞれの地方性を踏まえた大様式を築きあげ,荆浩に学んだ李成,董源の弟子巨然らが引き続いて北宋における総合の時代を導きだす,先駆としての役割を果たした。…
… 南宗画という命名の由来は,当時流行の禅宗趣味(董其昌はかなり禅学に没頭している)から,五祖弘忍(ぐにん)の後が,神秀(じんしゆう)の北宗禅の漸修と,慧能(えのう)の南宗禅の頓悟とに分かれ,慧能が六祖を継いでから簡略を旨とする南宗禅が栄えたことになぞらえて,画にも北宗,南宗の別があるとし,その起源も禅宗と同じく唐にまでさかのぼり,北宗は細密な輪郭線によって着色山水を描く李思訓に始まり,南宗は渲淡によって李思訓らの鉤斫(こうしやく)(輪郭でくくる)の法を一変した王維に始まり,画でも禅の頓悟に比せられる南宗画が栄えたという。莫是竜によれば,北宗は李思訓,李昭道,趙幹,趙伯駒,趙伯驌,馬遠,夏珪とつながり,南宗は王維,張璪,荆浩,関仝,郭忠恕,董源,巨然,米芾(べいふつ),米友仁,元末四大家(黄公望,呉鎮,倪瓚(げいさん),王蒙)と続くとするが,董其昌,陳継儒のいう系譜とはやや異なる。この南北の系譜については,伝統的な線描を骨格とする職業画家李思訓と,破墨山水を描いて初期水墨画家の一人に数えられ詩人を本職とする王維とをそれぞれ北宗,南宗の祖とするのは理解できるが,二人につづく南北画人の系譜は歴史的事実と整合させがたく,董其昌らの無理な作為が目だつ。…
※「董源」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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