行路病死ともいい,路上で病気や飢えや疲労などにより倒れ,あるいは死ぬこと。またその人をいう。行路病者の多くは飢餓によるものと考えられ,古くは《日本書紀》《万葉集》にも散見される。近世になっても行路病者はあとを断たず,村役人監督下に処理された。これらのことは往時の〈旅は憂いもの辛(つら)いもの〉といったありさまをよく反映している。行路病死者の霊魂は,正常の人間として生を全うし,祖霊化の過程をとって,帰るべき家をもつ霊(本仏)に対して,無縁仏として差別される。それゆえにたたりがおそれられ,無縁供養が行われる。無縁仏の遊魂が水辺にいるという観念は広い地域にわたっている。無縁仏の供養の方法として,盆にミズタナをつくったり,ミズノミと呼ばれる刻み野菜を供えるところもある。要するに,本仏とは異なった供養の仕方をするのが一般的である。
執筆者:北見 俊夫
いわゆる行倒れ(人)に関する法律としては,1899年公布の〈行旅病人及行旅死亡人取扱法〉がある。本法は,当時,全国的な窮民層の存在とその流動にともなう行倒れ人の増加が深刻な問題となっていたため,その救済を図ることを目的として制定されたが,今日においてもその役割は終わっていない。本法は,行旅病人に対する応急保護としての救助と行旅死亡人の取扱い,さらにそれらに要する費用負担について定めており,今日では憲法25条(生存権)にもとづく社会保障立法のひとつとして位置づけることができる。〈行旅病人〉とは,歩行にたえない行旅中の病人であって療養の道をもたずかつ救済者のない者をいう。この場合,そこの市区町村長に応急の救護,扶養義務者への通知と引取り要求の義務がある。引取人がない場合には救護地の都道府県または指定都市が引き受ける。救護費用は市区町村がとりあえず支払うが,最終的には救護された者(あるいは扶養義務者)の負担とされ,引取人がない場合または弁償が得られない場合には都道府県または指定都市が負担する。〈行旅死亡人〉とは,行旅中死亡し引取者のない者をいう。この場合,そこの市区町村長に本人の認識に必要な事項を記録したうえで死体を埋・火葬,身元不明者については告示するなどの義務がある。費用は本人の遺留金品でまかなうが,不足分は相続人,扶養義務者,市区町村所在地の都道府県の順位で負担する。
執筆者:神長 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…この神に憑かれると急に空腹を覚え,冷や汗がでたり,手足がしびれて足腰が立たずに一歩も進めなくなるという。ヒダル神の実体は非業の死をとげたり,行倒れなどしてそのまままつられずに山野をさまよっている死霊だとされる。これに憑かれる場所はほぼ一定していて峠道などが多いが,このほか火葬場付近や海上で憑く例もある。…
※「行倒れ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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