デジタル大辞泉 「褌」の意味・読み・例文・類語
ふんどし【×褌/犢=鼻=褌】
2 女子の腰巻。
「女は襷がけで、裾をまくって…鼠色になった―を出している」〈鴎外・青年〉
3 相撲の化粧回し。
4 将棋で、桂馬が相手の駒二つを同時に取りに行く手。盤上で丁の字形になるのでいう。
5 カニの腹部の生殖器の蓋板。
[類語]下帯・回し・締め込み
男性の腰部をおおう長い帯状の布で,これを股間(こかん)から腰部にかけて巻きつけ,下半身を保護し,かつ清潔にするために着装する。古くは,犢鼻褌(たふさき)/(たふさぎ)/(とうさぎ)とも呼ばれた。《延喜式》巻十四では,褌の字を〈したのはかま〉,袷褌を〈あわせのしたのはかま〉と訓じており,袴を意味していた。室町時代ころは,手綱(たづな)と呼び,江戸時代には,下帯(したおび)とも呼んでいる。〈ふんどし〉の語は,江戸時代の初めころからという。《守貞漫稿》によれば,〈貴人は白羽二重,土民は白晒木綿を本とし,長六尺呉服尺なり〉とある。また美を好むものは大幅あるいは小幅織のちりめんを用いたとある。さらに越中ふんどしというのは,布が少なくてすむ経済性がある。現行の越中ふんどしは,並幅36cmの晒木綿90cmを用いて作る。方法は,片いっぽうを細く袋に縫い,それに紐を通し入れるか,あるいは別紐を縫いつけるかする。これは着装が簡単で,紐のついた部分を後ろにして布を股間にくぐらせ,あまった布を前面に垂らして,紐で固定する。越中ふんどしは現在もわずかながら用いられている。
越中ふんどしをさらに簡略にしたものを,もっこふんどしという。これは運搬用具のもっこに似た形状で,股間をおおう長さの布を用い,上下の両端を細く袋状に縫い紐を片端から通し入れる。着装は片足を通し紐を脇で結ぶ。ふんどしに用いる布には,古くは麻が用いられたが,江戸時代には一般に木綿が用いられ,貴人や通人は上質の布を用いたとある。色はほとんど白であるが,古くは茜(あかね)色など色物も用いられた。ごく最近まで水泳の際には赤,黄,黒などの色物の六尺ふんどしを用いた。
執筆者:日浅 治枝子
温帯,熱帯の民族には,女子のスカート状の腰蓑(こしみの)あるいは腰巻と対応した男子のふんどし1枚の姿が見られる。ペニス・ケースと同様性器の保護を目的とするが,装飾的な要素もきわめて強い。ふんどしというよりは腰帯といったほうが適切なものが多い。たとえば西部ニューギニアでは長さ90cmくらいの樹皮布を用いてふんどしにしているが,白地に黒や褐色で曲線や幾何学的文様の描かれた華やかなものである。ニューギニアでは女も締めている地方がある。アマゾン流域の原住民の中には,樹皮をちょうど相撲取りのまわしのように,分厚くぐるぐる巻きにした異様に大きなふんどしをしている種族がいる。性器を誇張するとともに,敵を脅かすという意味あいも含まれるようだ。ミクロネシアのヤップ島では,樹皮布や布のふんどしを用いるが,年齢により色や締め方が異なる。また広く東南アジアでは,ふんどしと半ズボンの中間のような形で,巻型の腰巻衣を股をくぐらせて装うものがある。腰に巻いた布のあまりを股をくぐらせて背の後ろにはさむのである。これは日常の作業に適した着装法として,古くから男女ともに用いられた。
執筆者:鍵谷 明子
ふんどしの起源の一つは,紐衣の前部または背部から吊るした飾り布を股間にくぐらせ反対側でとめたもので,紐衣から吊るす短い布で腰全体をおおえば腰布に,その布が長ければ腰巻にもなる。これは非日常的な装飾的な装いが日常化してふんどしになったといえる。いま一つは,女性の生理帯から起こったふんどしがあり,日常生活の必要から作られたものといえよう。日本では,女性がふんどしを用いるのは海女(あま)のほかは,ほとんど生理用であったが,女性用はもっこ型のふんどしで,江戸時代には歌舞伎の女形もこれを用いていたという。男女がふんどしをともにする民族では,多くの場合,男性が布を前面に垂らし下げるのに対し,女性はもっこ型のふんどしのように,それをしない形をとることで性差を表すようである。
ふんどしは,股間をくぐらせる布と腰紐の2本からなるものと,1本の長い布で股間をくぐらせた上に腰に巻くというものとがある。日本では越中ふんどしやもっこ型のふんどしが前者に入り,六尺ふんどし,相撲取りのまわし,裸祭のふんどしなどは後者に入る。民族や性差によって,ふんどしの形,材料,締め方はさまざまである。たとえば,パラワン島のコノイ族やボルネオのイバン族は腰紐の前後に布を垂らすふんどしの締め方をしており,またバタンガン族の女性や南方の女性の生理用のふんどしは後部で結んだ布を前面の腰紐に通し再び股をくぐらせて背面で結ぶ締め方をしている。オセアニアでは,タパという樹皮布で作ったふんどしを六尺ふんどしと同様の締め方でつけている。またふんどしには下着用のものと,〈まわし〉や〈しめこみ〉など表着となっているものとがある。
日本では,ふんどしの方言は多く,タフサギ,ハダオビ,ヘコ,マワシ,シメコミ,タンナ,スコシ,サナギ,サナシ,フゴメ,フタノ,モッコ,シタオビ,ムコ,ドモコモ,コバカマなどと呼ばれている。古く,褌はタフサギ(犢鼻褌)と称し,褌の字は袴を意味して両者は区別されていたという。タフサギは,ふんどしの前面のふくらみが牛の鼻先に似ているからとも,手で前面をおおっていたものの代用だからともいわれる。
たとえば,《貞丈雑記》には,〈たふさぎとは手ふさぎ也。手にて前をふさぎかくすべきを,手の代りに絹布にてかくす故にたふさぎと云ふ也〉とある。ふんどしの語源は,〈踏み通し〉でふんどしに腰を低くして両足を踏み通した姿からつけられたものらしい。ふんどしの方言のうち,タンナ,タヅナは手布の意の古語でもあり,幅広い布のことで手綱からきた言葉であろうし,またフタノは2枚の布で作ったものというところから出た言葉のようである。日本で最もポピュラーなふんどしは,六尺ふんどしと,ムコやドモコモなどとも呼ばれる越中ふんどしである。越中ふんどしの命名の由来にも大坂の越中という名の遊女によるとか,越中守であった細川忠興が採用したことによるなどのさまざまな説があるが確かでない。
日本では,ふんどしを締めることは一人前のしるしとされ,成人儀礼の一つとして〈ふんどし祝〉が行われ,母の里から赤や紅白のふんどしが贈られてきた。ふんどし祝は〈ヘコ祝〉〈タフサギ祝〉とも呼ばれるが,女子の場合は〈腰巻祝〉〈湯文字祝〉がこれに相当するものといえる。関東地方では以前,腰巻をふんどしと呼ぶ所があり,また女性用のふんどしをとくにフタサギと呼ぶ地方もあった。このことはあるいは,初潮を迎えることが女の一人前のしるしとみられていたから,生理帯としてのふんどしを贈る風習があったためかもしれない。とにかく,ふんどしは成人のしるしであったから,歌舞伎で開きなおったときに,裾をまくりあげて〈みえ〉をきる演技を行うのは,ふんどしをつけている男だということを誇示するものとされている。ふんどし祝は早い所では9歳で行ったが,たいていは13~15歳くらいで行った。このほか,夫の六尺ふんどしを腹帯にすれば安産するとか,サメやフカに襲われそうになったときには赤ふんどしを解いて足に巻きつけ長くゆらゆらと引くとよいといわれている。ふんどしは,陰部(人体の穴)をふさぎ隠すことで,病気や災厄を引き起こす悪霊の侵入を防ぐ呪物でもあったことも忘れてはならない。
執筆者:村下 重夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
男子の陰部を覆い隠す帯状の布をいう。形状は着装の方法によって異なり、六尺褌、越中褌、もっこ褌の3種に大別することができる。肌の帯、下の帯、下帯、下紐(したひも)ともいう。古くは犢鼻(たふさぎ)、次いで手綱とよんだ。布地は、室町時代以前は麻を用いた。江戸時代以降は白木綿を用いているが、貴人では羽二重(はぶたえ)、中流以上は白加賀絹を用い、美を好んだ者は、大幅または小幅の縮緬(ちりめん)、白い竜紋(りゅうもん)、緞子(どんす)、綸子(りんず)、綾(あや)、繻子(しゅす)などを用いた。また侠気(きょうき)のある者は緋(ひ)縮緬などを用いた。江戸時代に江戸相撲(すもう)で相撲をとるのに褌を用い、腰を二重三重に巻き、股をくぐらせて、後ろで結ぶ。一般に用いられた褌は、腰を一重巻いて後ろで結ぶ。
六尺褌は小幅物6尺(呉服尺。1尺は36.4センチメートル)の帯状の布で、着装法は2通りある。一つは、一端で陰部を覆い、他の端を腰部に巻き付けて背後中央で片結びにして留める。他の方法は、一端を前面に広げて垂らす方法である。天正(てんしょう)(1573~92)のころは麻布などを用い、4尺ほどに切り、片方を二つ割りにして全幅を腰にあて、割ったほうを腰へ回して前で結び、全幅を股(また)をくぐらせて、前で結んだ紐の下より引き出して前に垂らした。これは越中褌と同様の形態となる。越中褌は3尺の白木綿の布の一端を三つ折り縫いにし、他方を紐が通るように縫って紐を通してT字形にし、腰にあてて、紐を前で結び、布を股ぐらを通して紐の下より引き出し、前に垂らして着す。もっこ褌は形が畚(もっこ)に似ているところからその名がある。布の両端をそれぞれに紐が通るように縫い、紐を通し、片方は足を踏み通して、片方で紐を結んで着す。
色はほとんど白木綿(晒(さらし))であるが、褌祝いや水泳の際に赤、黄、黒など色物を用いることがある。大正時代、女子の水着に袖(そで)なしのメリヤスが現れたとき、男子は赤の褌を用いた。肌着としての六尺褌と越中褌は、全国的に着用されていたが、最近ではパンツが普及して、褌類の着用は減少し、一部の人に用いられるのみとなった。
[藤本やす]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その後ズボンはさまざまな形態上の変遷を重ね近代的スタイルを確立する。
[ズボンと日本人]
古墳時代,埴輪に見られるように褌(はかま)と称するズボン風の脚衣が着用されていた。南蛮文化が渡来する16世紀後半から17世紀初期にかけて,スペイン人やポルトガル人の当時の独特な脚衣を反映した,〈裁付(たつつけ)〉とか〈軽衫(かるさん)〉と呼ばれた男子袴が着用されるようになった。…
…農漁民間における男子成年式の一名称。ヘコ祝ともいう。往時の成年式にさいしては,幼年期とは異なるさまざまな服飾がほどこされ,褌祝,烏帽子祝,前髪祝などのごとく,それらの中でもきわだった服飾の儀礼にちなむ呼称が成年式名として用いられることが多かった。褌祝は,成年式のおりに親類などから褌を贈られ,初めて締めて祝うことにちなんでいる。年齢は数え年13歳ころが多く,早いもので9歳という例もある。褌の着用は性の成熟を象徴するが,オバクレフンドシと称して,伯叔母から褌を贈られる慣習には,伯叔母と甥との間に,かつて単なる象徴以上の関係があったことを推測させる。…
※「褌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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