回し(読み)マワシ

デジタル大辞泉 「回し」の意味・読み・例文・類語

まわし〔まはし〕【回し/×廻し】

回すこと。回転させること。「皿―」「ねじ―」
人や物、また物事を、順に移したり送ったりすること。「患者のたらい―」「返済を翌月―にする」「後―」
からだに巻いたり、まとい着けたりするもの。
㋐ふんどし。特に、力士が腰に着ける締め込み。
㋑「化粧回し」に同じ。
㋒「二重回し」に同じ。 冬》
遊女が複数の客をかけもちでとること。
金銭のやりくり。また、利益の上がるように金銭を運用すること。
「米の売り様、金銀の―をだに心得たらば、召し抱へられん」〈仮・浮世物語・一〉
会合などを輪番で行うこと。
「言ひ合はせて随意講の―始まれり」〈咄・醒睡笑・六〉
上方で、私娼である白人はくじんの元締め。
「元は牢人衆の娘御達とやら、と早偲ばしく詞残して、―が方へ走り行き」〈浮・禁短気・三〉
回し方」の略。
「あっちらの大尽がやけを起こして、やり手や―を呼んで」〈黄・艶気樺焼
[類語]下帯締め込み

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精選版 日本国語大辞典 「回し」の意味・読み・例文・類語

まわしまはし【回・廻】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「まわす(回)」の連用形の名詞化 )
  2. [ 一 ] 物をまわしたり、めぐらしたりすること。また、物事をそのように取り扱うこと。
    1. 金銭の融通、やりくり。また、金銭を運用して、利益のあがるように計ること。
      1. [初出の実例]「Mauaxino(マワシノ) ヨイヒト」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    2. 会合などを輪番で行なうこと。
      1. [初出の実例]「老僧・小僧・児・若衆いひ合はせて、随意講のまはし始まれり」(出典:咄本・醒睡笑(1628)六)
    3. 罪人を引き回すこと。
      1. [初出の実例]「この兇状は廻(マハ)しの上三日晒しの板附と」(出典:歌舞伎・夢結蝶鳥追(雪駄直)(1856)三幕返し)
    4. 回り舞台の、回転する部分。
      1. [初出の実例]「三成は下手廻(マハ)しの外に佇み居る」(出典:歌舞伎・関原神葵葉(1887)五幕)
    5. 人や物を必要とするところへ動かし送ること。また、予定などをあとへずらすこと。
      1. [初出の実例]「休日を翌日廻しと云ふことにして貰はう」(出典:海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉三三)
    6. 謡曲の節の一つ。一音の母音をとくに長めに変化をつけて謡う節。まわし節。
  3. [ 二 ] 身にまいたり、まとい着たりするもの。
    1. ふんどし。下帯(したおび)。また特に、相撲の力士が腰につける布帛。
      1. [初出の実例]「藤布は柳こしにもまはし哉〈友清〉」(出典:俳諧・鸚鵡集(1658)一)
      2. 「『〈略〉まわしは出来たか』『〈略〉此秋角力(すもう)の間にあはせたふござります』」(出典:洒落本・通気粋語伝(1789)三)
    2. 着物の上に引き回して着る袖のない男性用外套。二重まわし。《 季語・冬 》
      1. [初出の実例]「まはしの立派なるは〈略〉多くは二重外套に代へぬ」(出典:風俗画報‐二二号(1890)器財門)
  4. [ 三 ] 遊里で用いられる語。
    1. 一人の遊女が、二人以上の客をかけもちにすること。また、その客。まわし客。
      1. [初出の実例]「廻(マア)しといふ所かいの」(出典:洒落本・道中粋語録(1779‐80頃))
    2. まわしかた(回方)」の略。
      1. [初出の実例]「あまり度々なるゆへまはしもはらを立て」(出典:咄本・かの子ばなし(1690)中)
    3. 上方で、私娼である白人(はくじん)の元締。客があれば人繰りをして白人を茶屋へまわし、送り迎えをする者。
      1. [初出の実例]「衣類等の入目、廻(マハ)しと申男が手前より取替ぬれば」(出典:浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)四)
    4. 江戸吉原で専用の部屋を持たず、一つの部屋を入れ替わって使った遊女で、多くは、新造の期間中のもの。
    5. 三味線などを持って、芸者に従って行く男。箱。箱回し。箱屋。回し男。
      1. [初出の実例]「オオこの彌助が廻(マハ)しこそして居れ」(出典:歌舞伎・五大力恋緘(1793)三幕)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「回し」の意味・わかりやすい解説

回し
まわし

力士が相撲(すもう)をとるときに腰にまとう専門用具で、これを「取り回し」といい、土俵入りに使うのは「化粧回し」という。回しは、日本人および東南アジア、南洋系諸民族の風俗である「ふんどし」で、古代からそのまま相撲取組の格闘技に用いられたのが、日本人独特の相撲形態に定着した。近年まで日常生活の風俗であったふんどしも、欧風化によって廃れ、もっぱら相撲だけの用語になった。平安時代相撲節会(すまいのせちえ)で相撲人(すまいびと)は「たふさぎ」(音便で「とうさぎ」)といい、犢鼻褌(とくびこん)を当て字にしたが、腹部に広く当てた白麻の回し前部の折り目が仔牛(こうし)の鼻に似ているためである。

 江戸勧進相撲に移ると、麻のほかに緞子(どんす)を用いるようになり、生地(きじ)の端を25センチメートルぐらい前に出して垂らし、この前垂れに切付紋で模様をつけ、元禄(げんろく)時代から色地紋に動物や花鳥を刺しゅうで描いて華美になった。宝暦(ほうれき)~明和(めいわ)(1751~72)のころ、職業相撲が盛んになり、取り回しの前垂れ飾りがじゃまになるため、土俵入り専門の飾り回し(化粧回し)が考案された。回しの前垂れは陰部を隠す儀礼から生じたので、戦闘用の取り回しには、回しの端をほぐして「さがり」の紐(ひも)を垂らし、明治になってさらに取り外しのできる別個のさがりが考案された。化粧回しが独立したとき、初めは膝(ひざ)までの短さだったが、しだいに長くなり、10年後の天明(てんめい)期(1781~89)の谷風(たにかぜ)、小野川(おのがわ)時代には、現在と同様になった。

[池田雅雄]

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