調和型の湖に分類され、窒素、リンなどの栄養塩濃度が高く、生物生産力の大きい湖。一般に、浅く、湖棚(こだな)の幅は広く、多くの場合、湖棚崖(がい)はない。湖底堆積(たいせき)物は湖内で生成された骸泥(がいでい)または腐泥が多い。表水層に比べて深水層の容積が小さい。栄養塩類の濃度は1リットル中に全窒素で0.2ミリグラム以上、全リンで0.02ミリグラム以上とされている。温帯の湖の場合、水温成層の生じる夏期には表層と底層の溶存酸素量は極端に異なり、表層はしばしば過飽和となる。一方、底層の飽和度は低く、ときには貧酸素層を生じる。理由は、この時期増殖する植物プランクトンの活発な光合成作用によって、表層水には多量の酸素が供給され、底層では有機物が微生物によって分解され、一方的に酸素が消費されることによる。結果として、表層水の水素イオン濃度(pH)はアルカリ性を増し、pH10を超えることもある。プランクトンやその死骸など、濁りの原因となる多量のセストンseston(懸濁物質)と水中の溶存物質などによって光が吸収され、透明度は低く、5メートル以下となる。
植物プランクトンの大量発生によって水色の変わる「水の華(はな)」現象を生じる場合が多く、さらに富栄養化が進むと、夏期に藍藻(らんそう)による「アオコ」現象(藍藻が水面に集積し、緑色のペンキを流したような状態になること)が生じる。自然状態の富栄養湖であれば、沿岸から沖合に水生植物帯が広く形成される。その生育限界は植物の純生産量がゼロとなる深度である。この深度を補償深度といい、富栄養湖ほど浅い。
動物プランクトンは甲殻類では枝角目が多く、富栄養化の進行に伴って輪虫綱や原生動物が増加する。底生生物としてはシジミなどの二枚貝をはじめ、タニシなども生息するが、酸素条件の悪い部分では低酸素に耐性のあるイトミミズ、ユスリカ幼虫などが多くなる。魚類はコイ、フナなどの雑食性の魚種が増加し、マスなどの冷水性の魚種は減少する。しかし、全体としての漁獲量は高くなる。とくに、表層をおもな生活の場とするワカサギなどにとっては良好な生息環境ともいえる。
日本の代表的な富栄養湖としては茨城県の霞ヶ浦(かすみがうら)、長野県の諏訪湖(すわこ)があげられる。一般に、温帯地方の平地にある浅い湖は富栄養湖である。人間活動の活発化に伴って人為的に富栄養化される湖が多くなっている。その原因は人間活動による諸排水を通しての窒素、リンの流入である。結果として貧酸素層の出現による魚類の斃死(へいし)や植物プランクトン、放線菌類の増殖などによる上水道水の異臭など社会的な問題をおこしている。そのような、人為的に過度に富栄養化の進んだ状態の湖を区別して、過栄養湖とよぶ場合もある。
[沖野外輝夫]
『飯田貞夫著『やさしい陸水学――地下水・河川・湖沼の環境』(1997・文化書房博文社)』▽『宝月欣二著『湖沼生物の生態学――富栄養化と人の生活にふれて』(1998・共立出版)』▽『沖野外輝夫著『湖沼の生態学』(2002・共立出版)』
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…なお,湿原の有機酸による酸性湖では,せいぜいpH4までの弱酸性のものが多い。湖水のpHは,昼間植物プランクトンの炭酸同化に伴う溶存の炭酸ガス,重炭酸イオンの利用により上昇し,とくにラン藻の水の華が発生する富栄養湖では夏季表面近くの水は,pH10近くまで上がる。(b)溶存酸素 湖水中の溶存酸素は水中の各種生物の生活とともに,各種化学物質の酸化的変化を支配する重要因子である。…
…元来は陸水学の用語。長い年月の間に貧栄養湖oligotrophic lakeが富栄養湖eutrophic lakeに移り変わっていく現象をいう。現在はより広義に,水域の種類にかかわりなく,水中の栄養塩濃度が増加し,水域の植物の生産活動が高くなっていく現象,いいかえると,貧栄養的水域が富栄養的になっていく現象を指す。…
※「富栄養湖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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