中国,清末の変法思想家。字は復生,号は壮飛。湖南省瀏陽県の人。少年のころから豪放な性格で俠気と武術を好んだ。いっぽう広く読書して学問に励んだ。とくに同郷の王夫之(船山)を慕った。さらに当時翻訳されていた外国書をも読んで外国事情にも通じていた。30歳の1894年(光緒20),日清戦争の敗北に感憤し,範を西洋に求めて変法を行う以外に中国回生の道はないと自覚した。そこで翌年夏,康有為らが強学会を創設したと聞き,北京に出て彼らの変法運動に参加した。私淑の弟子と自称するほどに康有為には心酔した。北京では梁啓超,夏曾佑らと交わり,翌年,候補知府として南京に在職中は,楊文会について仏教を学んだ。彼の名著《仁学》が完成したのは,この年のことである。97年秋,湖南に帰り,時務学堂,南学会の設立,日刊新聞《湘報》の発行など,変法維新の宣伝のために目まぐるしく奔走した。98年,光緒帝が変法の詔を発すると,四品卿(しひんけい)軍機章京を授けられ,康有為らとともに政権中枢部にあって新政を推進したが,変法が失敗すると,友人が日本亡命を勧めるのを退けて,〈変法のために血を流すこと,請う嗣同より始めん〉といって,すすんで逮捕され,処刑された。いわゆる戊戌(ぼじゆつ)六君子の一人である。その主著《仁学》は,この世界の存在と変化の根源を〈以太(エーテル)〉だとし,それはまた仁でもあって,その普遍的流通をはばんでいる〈網羅(もうら)〉,すなわちいっさいの社会的・政治的束縛を突き破ることを強調している。基本的には康有為の大同説を継承しながらも,民族主義的傾向をも含んでいる点で,革命派からも評価を受けた。著に《譚嗣同全集》がある。
執筆者:坂出 祥伸
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中国、清(しん)末の思想家。字(あざな)は復生、号は壮飛。湖南省瀏陽(りゅうよう)の高級官僚の家に生まれ、若くして秘密結社大刀会と接触し、任侠(にんきょう)王正誼(せいぎ)(1844―1900)に武術を習った。思想的には『墨子(ぼくし)』に傾倒し、明(みん)末清初の黄宗羲(こうそうぎ)、王夫之(おうふうし)の著作からも強い影響を受けた。変法運動に際しては、湖南省における運動の中心人物として精力的に活動する一方、康有為(こうゆうい)よりいっそう急進的な変法論を展開し、ある意味では革命主義に著しく接近している。主著『仁学(じんがく)』(1896)は、『墨子』、仏教および西洋の科学、政治思想などによって、儒教の道を時代にふさわしくよみがえらせようとしたもので、行動によってあらゆる抑圧、不平等を打破し、自由競争によって社会的生産力を高度に発展させようとする実践性を備えていた。戊戌(ぼじゅつ)政変クーデターで変法運動が失敗し、康有為、梁啓超(りょうけいちょう)らが亡命したとき、彼が逃亡を拒否して進んで処刑されたのは、そのような思想の実践性と関係があると考えられる。
[伊東昭雄 2016年3月18日]
『西順蔵編『原典中国近代思想史2』(1977・岩波書店)』▽『近藤邦康著『中国近代思想史研究』(1981・勁草書房)』▽『高田淳著『中国の近代と儒教』(紀伊國屋新書)』
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1865~98
清末の改新運動家。湖南省瀏陽(りゅうよう)県の人。父は湖北巡撫(じゅんぶ)。日清戦争後康有為(こうゆうい)などの変法派に共鳴して湖南で運動を起こし,1898年戊戌(ぼじゅつ)の変法が始まると招かれて新政の枢機に参画したが,戊戌の政変で処刑された。
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…彼の主著《大同書》には,このような世界改革のプランと道程が示されている。彼の大同思想は,私淑の弟子譚嗣同(たんしどう)の《仁学》にうけつがれているが,一方その反対派である孫文の三民主義や蔡元培の社会思想にも,大同思想が見られ,さらに,現代の毛沢東の思想にさえも,かすかながらその影響を見ることができる。【坂出 祥伸】。…
…後世への影響もかなり大きく,なかでも晩唐の詩人李商隠はその作品および人物に対してひかれるところが多く,みごとな詩人伝〈李賀小伝〉を書いた。近代では,清末のロマンティックな革命家譚嗣同,そして魯迅,毛沢東らが李賀にひかれた人々であった。《李賀歌詩編》4巻が伝わる。…
※「譚嗣同」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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