政府が公共支出を行う場合に,租税収入によって賄うか,国債発行によって賄うかで,総需要に対する影響は異なるものと考えられる。すなわち,租税収入による場合には,家計,あるいは企業の民間部門の所得が同額だけ減少するために,総需要の純増は比較的小さいであろう。これに対して国債収入による場合には,民間部門の所得は減少しないので総需要はほぼ支出額が増えた分だけ増加する。そこでこうした赤字財政の額が大きければ大きいほど総需要のレベルは高くなり,需要と供給の関係から物価は上昇せざるをえない。これが財政インフレである。もちろん不況時に財政赤字幅が大きくても,もともと総需要が落ち込んでいたわけだから,さほどのインフレ要因とはならない。しかし完全雇用に近い経済における財政赤字や,軍備や戦費を賄うための恒常的な大幅赤字は,遅かれ早かれインフレ・ギャップをつくり出して,インフレの原因となる。これが1950-60年代において,マクロ経済学の主流を占めていたケインズ経済学の考え方であった。
これに対して,70年代に有力となったマネタリストや合理的期待形成仮説論者は,かなり異なる見解をもつ。両者とも赤字財政支出自体が総需要を押し上げる効果を疑問視するが,とくに後者は,国債発行は現在の増税に代えて将来増税をすることであると理解する。民間部門は,将来の増税による自己の純資産の減少を考慮に入れて,消費や投資を行うので,結果的には増税により財政支出を増やした場合と変りがない。赤字財政によりインフレが起こるのは,中央銀行が国債を引き受けさせられたり,国債の価格支持を求められたりして,通貨増発が起こるからである。こうした見解によれば,通貨増発を抑制しておけば,大幅な財政赤字があっても,インフレは起きないことになる。
→インフレーション
執筆者:小椋 正立
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