改訂新版 世界大百科事典 「貸出政策」の意味・わかりやすい解説
貸出政策 (かしだしせいさく)
日本銀行の民間金融機関への貸出し(日銀貸出し)に際し,適用される金利(公定歩合)および貸出量を操作する政策をいう。このうち金利操作の政策は,公定歩合政策または金利政策という(広く金利操作の政策一般を金利政策ということもある)。貸出政策は,手形・債券売買操作,支払準備率操作,市中貸出規制(窓口規制)等の政策手段とともに,通貨供給量(マネー・サプライ)や市中金利を操作しようとする金融政策の重要な一政策手段である。すなわち日銀貸出しの量と金利を操作することにより,民間金融機関の支払準備あるいは短期資金の量とコストに影響を与え,民間金融機関の民間非金融部門(企業,家計等)への貸出行動,ひいてはマネー・サプライに変化をもたらす政策である。
貸出政策が民間金融機関の支払準備あるいは短期資金の量とコストに影響を与えるルートは,貸出政策が公定歩合の操作を中心とし貸出量は需要に応じて供給する方式によっているか,あるいは貸出量の操作を中心とし需要が供給を上回る場合については信用割当てを行う方式によっているか,に大きく依存する。前者の方式によれば,民間金融機関の支払準備あるいは短期資金の過不足を相互に調整する短期金融市場(コール市場,手形売買市場等)の金利(コール・レート,手形売買レート等)が公定歩合を下回っている場合には日銀貸出しへの需要は発生せず,短期市場金利が公定歩合に一致したときはじめて日銀貸出しへの需要が発生する。このとき貸出政策としての公定歩合の変更は,民間金融機関の支払準備のコストに影響を与えることにより,民間金融機関の行動を変化させる。一方,後者の方式によれば,日銀貸出しに対する需要が供給を上回っている場合には,信用割当てが行われ,貸出政策としての日銀貸出しの量の変更は直接に民間金融機関の支払準備の量に影響を与えるとともに,日銀貸出しによっては満たされぬ資金需要が短期金融市場にシフトし,短期市場金利を公定歩合より高く押し上げることによって,民間金融機関の短期資金コストにも影響を与えうる。しかし信用割当てにはある種の恣意性が伴うことも否定しえない。以上のルートの検討においても明らかなように,貸出政策は,手形売買操作等の短期金融市場への介入政策と併用されることによって,より強力な政策効果を発揮しうる。貸出政策は,手形売買操作等とともに日銀貸出市場をも含めた広義の短期金融市場への介入を通じて民間金融機関の行動に影響を与え,ひいてはマネー・サプライ等のコントロールを目指す政策として,日本銀行の金融政策手段の中心に位置づけられている。
執筆者:落合 仁司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報