日本の律令制時代における田地・園地の賃貸借の制度。平安期にみえてくる請作(うけさく)や後世の小作と比較的類似している。日本古代では,今日と違って売買と観念される行為には2種類あり,1年を限る売買と長期間にわたる永年を限る売買があった。田地・園地などの不動産では,前者を律令用語で賃租といい,賃租と対比される後者をふつう永売と呼んだ。ただし詔勅や文書史料には両者とも売買と表現され,賃租の語はほとんど使用されていない。律令によると,所部官司の承認を経て田地・園地が賃租される。賃租の語は養老令に存在するが,大宝令には存在した明証がない。養老令の注釈書によれば,春時の耕作以前に借田主が価を払う方式を賃といい,秋の収穫後に支払う方式を租という。賃の場合は前年の秋に,翌年の賃貸借関係を結ぶこともできる。賃租は売買の一種なので,郷土估価(地域の売買価格)と関係しているが,租田直は賃田直に利子を加えたものなので,賃方式が本来的なものと思われる。公田・私田ともに賃租の対象となる。公田は乗田のことで,賃租料は太政官に送られ,雑用の費用にあてられる。公田の場合は,租の方式から派生した地子制が普及し,田品による公定の穫稲(上田は500束,中田は400束など)の5分の1を地子として納める。私田には,有主田としての口分田,位田,職田や墾田があり,初期荘園もほとんど賃租によって耕営された。私田の賃租料は,郷土估価との関係があるので一定しないが,秋に支払う租田直はおそらく公田地子とほぼ同じであろう。賃租と永売には密接な関連が想定されるが,賃租料の2,3年分が永売の土地価値である。永売といっても長期間にわたる売買のことで,買戻し条件付売買的な性格が強いと推定される。土地永売は,不動産質的な機能を有しているとする考えもある。戸婚律によれば,年限を過ぎて田を賃租すれば処罰され,田地は本主にもどされる。
執筆者:吉村 武彦
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日本古代の田地・園地の1年間限りの賃貸借制度。養老令(ようろうりょう)では、田令の賃租条に「田ヲ賃租セムコトハ、各(オノオノ)一年ヲ限レ。園ハ任(ホシイママ)ニ賃租シ及ビ売レ」と定められ、公田条には、太政官(だいじょうかん)の運営財源の公田の賃租による運用が定められている。日本古代の「売買」は賃租と永代売買を含む概念であり、賃租の語は1年限りの売買(貸借)を明確にするために律令に採用された。賃は耕地貸借時の春に価直(かちょく)(賃租料)をとる方式、租は秋の収穫後に価直をとる方式。賃租料率は耕地価値の3分の1から2分の1(出挙(すいこ)利率と同率)であり、賃租は耕地の用益・収穫権の「出挙」にほかならないとみる説もある。
[石上英一]
『井上光貞他編『律令』(1976・岩波書店)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
古代における田地経営法の一つ。1年を限った小作契約で,春に小作料を前払いする方式が賃,秋の収穫後に支払う方式が租で,租価のほうが高い。ふつう支払いには稲を用いるが,畿内周辺では銭貨やそれに準じる米・絁(あしぎぬ)などで支払われた例もある。その額はさまざまであったが,公田賃租や初期荘園の賃租は公定収穫高の5分の1にほぼ一定しており,地子(じし)とよばれて区別された。畿内周辺では数年先の賃租契約を結ぶ例も知られるが,契約期間そのものは1年間で,それをすぎた場合には戸婚律により罰せられた。なお一般に「売」と表記される行為は賃租であり,「永売」の表記は売却であった。また園地には賃租の年限の制約はなかった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…請作者の請作地に対する占有用益権を〈作手(つくて∥さくて)〉と呼んだ。請作は,令制下で口分田を班給した残りの公田を年ごとに農民に割り当てて耕作させ地子をとった賃租に系譜を引くもので,契約は1年ごとに更新されるのを原則とした。したがって,請作により請作者の領主に対する身分的隷属などは生じないかわりに,その作手は本来弱く不安定で,請文を提出せず地子の未進などをおこなえば,改易されることがつねに起こりえたのである。…
※「賃租」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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