戦時に戦争遂行のために必要とされる立法。この種の立法は、実際に戦時になってからでは遅いということで、平時の段階から制定され、または制定の検討がなされることが少なくない。いわゆる有事立法も、この意味で、その実質は戦時立法といってよい。
第二次世界大戦前の日本には、膨大な戦時立法の体系が存在していた。まず、明治憲法(大日本帝国憲法)自体、天皇の統帥大権(11条)、宣戦講和の大権(13条)、戒厳大権(14条)、国民の兵役義務(20条)などを規定し、また軍人勅諭(明治15年陸達乙2号)は、軍人の天皇への絶対服従義務などを定めていた。そして、これらを根拠として、国民の兵役義務を具体的に定めた兵役法(昭和2年法律第47号)、国民の軍事負担を定めた徴発令(明治15年太政官(だじょうかん)布告第43号)、人的・物的資源のいっさいを戦争目的のために統制運用することを定めた国家総動員法(昭和13年法律第55号)、国防・軍事上の機密の保護を定めた軍機保護法(明治32年法律第104号)、国防保安法(昭和16年法律第49号)、軍規律違反に対する刑事制裁とその裁判手続を定めた陸・海軍刑法(明治41年法律第46号、第48号)、陸・海軍軍法会議法(大正10年法律第85号、第91号)、戦時における民事、刑事裁判の特例を定めた戦時民事特別法(昭和17年法律第63号)および戦時刑事特別法(昭和17年法律第64号)、戦時事変に際して行政権・司法権を軍司令官にゆだねることを定めた戒厳令(明治15年太政官布告第36号)、さらには戦争遂行のための最高統帥機関について定めた大本営令(昭和12年軍令第1号)などが存在していた。これら戦時立法は、結局のところ、戦争・軍事目的のために、政治・経済・社会など国家・国民生活の全般にわたって強い統制を加え、国民の権利や自由を制限・停止するものであった。
第二次世界大戦後は、いっさいの戦争を放棄した日本国憲法の下で、戦時立法が存在する余地は論理的にはなくなったはずであるが、現実には防衛二法(自衛隊法、防衛省設置法)や日米安全保障条約などが存在している。さらに、いわゆる有事立法の検討という形で、戦時立法の整備確立が防衛当局によって進められてきた。なかでも1963年(昭和38)の三矢研究(みつやけんきゅう)は、戒厳令や徴兵制をはじめとして総合的に戦時立法の検討を行っただけでなく、「第二次朝鮮戦争」の勃発(ぼっぱつ)をきっかけとして日本に戦時体制を敷き、2週間以内に77~87の戦時立法を一挙に制定するといった想定をしたことで、問題とされた。有事立法研究は、その後、1978年以降は政府の指示の下で公然と行われてきたが、1997年(平成9)には日米防衛協力のための指針(日米新ガイドライン)が新たに策定された。これに伴って「周辺事態」における対米防衛協力に関する有事法制の制定が具体化されることになり、1999年5月に周辺事態法が成立した。さらに、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を契機として、同年10月にはテロ対策特別措置法が制定された。そして、2003年6月には、武力攻撃事態等に対処するための武力攻撃事態法など有事関連の3法が改正・制定され、2004年6月には、国民保護法など有事関連7法が制定・改正された。さらに、2006年12月には防衛二法が改正され、防衛庁から防衛省への組織変更がなされるとともに、自衛隊の本来任務のなかに周辺事態に対応する活動等が加えられた。
[山内敏弘]
『小森陽一・辻村みよ子著『有事法制と憲法』(2002・岩波ブックレット)』▽『水島朝穂編著『世界の「有事法制」を診る』(2003・法律文化社)』▽『森本敏・浜谷英博著『有事法制――私たちの安全はだれが守るのか』(2003・PHP新書)』▽『内外出版編、西修監修『詳解有事法制――国民保護法を中心に』(2004・内外出版)』▽『山内敏弘著『立憲平和主義と有事法の展開』(2008・信山社)』
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新