質量作用の法則(読み)シツリョウサヨウノホウソク(その他表記)law of mass action

デジタル大辞泉 「質量作用の法則」の意味・読み・例文・類語

しつりょうさよう‐の‐ほうそく〔シツリヤウサヨウ‐ハフソク〕【質量作用の法則】

化学反応における重要な法則の一。化学平衡が成立しているとき、反応物質の各濃度の積と生成物質の各濃度の積との比は、一定温度もとにおいては一定であるという法則。

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改訂新版 世界大百科事典 「質量作用の法則」の意味・わかりやすい解説

質量作用の法則 (しつりょうさようのほうそく)
law of mass action

化学平衡において反応に関与する物質の量の間に成り立つ一般的な関係で,化学平衡の法則とも呼ばれている。物質A(amol),B(bmol),……が反応して,M(mmol),N(nmol),……を生成する次のような反応

 aA+bB+……⇄mM+nN+……

が化学平衡に達したとき,各物質ii=A,B,……)の濃度Ciの間に次の関係が成り立つ。

ここでKは温度,圧力に依存するが,濃度にはよらず,平衡定数と呼ばれる。化学平衡において一般に成り立つこの関係(1)を質量作用の法則という。この関係は,1867年ノルウェーのC.M.グルベルグとP.ボーゲにより,正反応および逆反応速度がそれぞれ,

 vkCAaCBb…… ……(2) 

 v′=kCMmCNn…… ……(3) 

で与えられ,正反応と逆反応の速度が等しくなったとき化学平衡に到達するとして導かれた。彼らは濃度に相当する量を活性質量と呼んだ。その後,彼らが用いた反応速度式(2),(3)は一般的には成り立たないことが明らかになったが,(1)の関係がつねに成り立つことは熱力学により証明された。(1)式でより厳密には濃度の代り活動度(活量)が用いられる。活動度は物質の活性を表す熱力学的濃度とみなされる量で,十分希薄な溶液では活動度は濃度に等しい。
化学平衡
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「質量作用の法則」の意味・わかりやすい解説

質量作用の法則
しつりょうさようのほうそく
law of mass action

化学反応に関与する物質の質量(濃度)が、その平衡にどのように作用するかを示す法則。1864年ノルウェーのC・M・グルベルとP・ボーゲが提出した、もっとも重要な化学法則の一つ。たとえば、均一系の次の可逆反応
  aA+bB+cC+……
   lL+mM+nN+……
が平衡に達したときには、それらの濃度([ ]で示す)の間には、

で、この比が一定値になるという関係が成り立つ。Kは温度が一定ならば各成分の濃度には依存しない一定値で(濃度)平衡定数という。反応系が気体の場合には、濃度のかわりに分圧を用いるとまったく同じような式で表され、そのKを(圧)平衡定数という。厳密には、各成分の活動度の比をとったときにKが一定値になる。グルベルとボーゲは、反応速度の研究からこの関係をみいだしたが、理想溶液理想気体について、熱力学、統計力学から理論的に証明される。

[戸田源治郎]

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百科事典マイペディア 「質量作用の法則」の意味・わかりやすい解説

質量作用の法則【しつりょうさようのほうそく】

均一系の可逆反応について,1867年グルベルグとその義弟ボーゲによって見いだされた法則。物質A,B,…が反応して物質M,N,…を生成する反応とその逆反応との間で化学平衡に達したとき,A,B,…,M,N,…のモル濃度をそれぞれa(/A),a(/B),…,a(/M),a(/N),…とすると,(式1)という関係が成り立つ。この関係を質量作用の法則あるいは化学平衡の法則という。Kは温度と圧力に依存するが,濃度にはよらず,平衡定数と呼ばれる。反応系が理想気体のときには各成分の濃度の代りに気体の分圧を用いる。
→関連項目ファント・ホフ

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化学辞典 第2版 「質量作用の法則」の解説

質量作用の法則
シツリョウサヨウノホウソク
law of mass action

均一系における化学反応の速度は,反応物質の濃度の積に比例するという法則.C.M. Guldberg(グルベル)とP. Waage(ウォーゲ)(1867年)により見いだされた.この法則は必ずしも一般的には正しくないが,多くの化学反応で成り立つ.とくに可逆反応

の平衡状態で正反応と逆反応の反応速度を等しいとすれば,

kcAcBkcCcD

(kおよびk′は速度定数)となる.したがって,

(K平衡定数)となり,平衡定数を与える式が導かれる.この式を質量作用の法則とよぶことも多い.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「質量作用の法則」の意味・わかりやすい解説

質量作用の法則
しつりょうさようのほうそく
law of mass action

均一系を構成している物質の質量が,その系の平衡にどのように作用するかを示す法則。 1867年 C.グルベルと P.ウォーゲによって反応速度の研究から帰結された。A,B,C,Dの各物質の活量aAaBaCaD とするとき,αA+βB⇔γC+δD という化学平衝に対しては,次の式が成立つ。

aCγaDδ/aAαaBβK

K は温度が一定であれば定数である。この関係を質量作用の法則という。活量の代りに系が理想気体に近い場合は分圧,また理想溶液に近い場合は濃度を使っても前の関係は成り立つ。 K を一般に平衡定数という。この法則は熱力学や統計力学によって導かれる。実用上は不均一系平衡にも適用されている。

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法則の辞典 「質量作用の法則」の解説

質量作用の法則【law of mass action】

化学平衡においては,反応系の物質の濃度の乗積と,生成系の物質の濃度の乗積の比は条件定数となり,一定の温度一定の圧力のもとでは不変である.この比のことを平衡定数(化学)*という.ノルウェーのグルベルとウォーゲによって1867年にはじめて導かれた.

なお,和訳が「質量」作用の法則となっているのは明治・大正時代の先人の誤訳であり,この「mass」は質量の意味ではなく「大量」の意味であるが,当時はまだ「マスコミ」も「マスプロ」も存在しなかったために,一語一訳方式で定められた訳語が定着してしまったのである.

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世界大百科事典(旧版)内の質量作用の法則の言及

【化学反応】より


[化学親和力の意味]
 グルベルグ,ボーゲの考えにはニュートンの力学の影響がみられ,化学親和力も一種の力と考えられ,化学反応が起こるためには反応体が相互に力の及ぶ範囲にまで接近することが必要であり,活性質量とはこの力の及ぶ範囲(作用球)にある量で,濃度にほぼ対応する。この考えは質量作用の法則として定式化され,J.H.ファント・ホフによって精密化され現在に至っている。 これらの努力にもかかわらず,化学親和力の本性はなお十分には理解されなかった。…

【化学平衡】より

…これを平衡定数という。この関係は〈質量作用の法則〉と呼ばれ,1864年C.M.グルベルグとP.ボーゲにより反応速度に基づく考察から提出され,J.H.ファント・ホフにより一般化され,熱力学に基づいて証明された。熱力学第2法則によれば,定温・定圧で反応系のギブズの自由エネルギーが減少する方向に反応が進む。…

【反応速度】より

…このとき,反応に関与する各物質の平衡濃度の間に次の関係が成り立つはずである。この関係を質量作用の法則という。
[反応速度式]
 一般に,次の化学反応式 aA+bB+……⇄mM+nN+……で与えられる化学反応の右向きの反応速度vは,多くの場合,の形に表される。…

※「質量作用の法則」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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