農業基本法第21条に基づき、農業構造政策(低位生産力のもとで零細な農家が担ってきた農業を、生産性の高い大規模経営が担う農業に変え、資本の高蓄積と開放経済体制に対応しうる農業構造にしようとする政策)を実現するための中心的・先駆的役割を果たすものとして農林水産省が実施してきた事業。この事業の指定を受けた市町村が、国からの補助や低利融資を受け、土地基盤整備、大型機械等の近代化施設の導入、生産の選択的拡大などを行うというもので、1962年(昭和37)に開始された。
1969年からは、総合農政の開始に対応して、第二次構造改善事業を発足させた(これに対応してそれ以前の事業を第一次構造改善事業という)。その内容は、第一次と基本的に変わりないが、大型自立経営農家の育成を中心課題として一地区当りの予算規模を増額し、稲作関連の事業については米の過剰問題と絡んで増産につながらないようにした。
こうした二次にわたる構造改善事業を中心とする構造政策の展開は、農業の機械化・省力化を大きく進め、高度経済成長の必要とする大量の労働力を農村から流出させた。その結果、農業の担い手は減少し、自立経営の育成もなかなか進まず、地域農業の衰退すらみられるようになってきた。また畜産や果樹、施設園芸などの成長農産物の生産は拡大したが、麦、大豆などの生産は衰退し、経営の専門化・単一化が異常に進展するなどの問題を引き起こした。これに拍車をかけたのが、地域性を無視した形式的・画一的な事業の実施方式であった。
そこで農林水産省は、これまでのやり方を見直し、1978年に新農業構造改善事業を発足させ、地域の農業者の創意を生かしつつ、地域の特性に即して事業を進めるという手法をとることとした。ただし、高生産性農業の確立という基本路線はそのままで、とくに重点を置いたのは、賃貸借などを通じて農地流動化を進め、中核農家に土地を集積し、土地利用型農業(稲作、麦作、飼料作など)の生産性を高めていくことであった。また米の生産調整に対応して水田転作の集団化、定着化を図ることにも力を入れた。さらに、生活環境の整備も行えるようにした。
しかし、農業・農村の衰退はとどまらず、これに対応すべく1990年(平成2)から農業農村活性化構造改善事業と名称を変え、農産物の新たな需要の創出、都市と農村の交流のための施設整備なども進めることにした。
さらに1994年からは、ウルグアイ・ラウンド農業合意によるわが国農業への打撃に対処するため、効率的・安定的な経営体の経営基盤の確立、多様な地域資源と農村空間の活用等を目ざす土地基盤、生産・流通・加工施設、情報関連施設、交流施設等の整備を中心とする地域農業基盤確立構造改善事業を展開した。
このように、構造政策を推進すべく位置づけられた農業構造改善事業は、時の政治経済や社会の要求、農業生産者の要望、地域農業の変化等に対応してその名称や内容、手法、予算規模を変えながら約40年にわたって展開されてきた。そして全国のほとんどの市町村がこの事業を導入し、市町村によっては繰り返し導入してきた。その結果、農業・農村の生産力・生活基盤はかなり整備された。にもかかわらず、わが国の食糧自給率は大幅に低下した。さらに構造政策の一つの大きなねらいであった農村からの労働力流動化の進みすぎにより、農業の担い手不足が深刻化し、過疎化が進展し、耕作放棄地までみられるようになり、農村は衰退の一途をたどってきた。
こうした事態に対応すべく、これまでの農業基本法にかわり、食料・農業・農村基本法(新農業基本法)が1999年(平成11)制定された。それに伴って農業構造改善事業もなくなり、それにかわって経営構造対策が2000年から展開されることになった。
[酒井惇一]
農業基本法は21条で〈国は農業生産の基盤の整備及び開発,環境の整備,農業経営の近代化のための施設の導入等農業構造の改善に関し必要な事業が総合的に行なわれるように指導,助成を行なう等必要な施策を講ずるものとする〉と規定しているが,この条項に基づき実施されている国の補助事業が農業構造改善事業である。現在まで4次にわたり,第1次農業構造改善事業(一次構と略称される)は1961年から,第2次農業構造改善事業(二次構)は69年から,第3次のそれは新農業構造改善事業(新農構)と称し78年から,第4次は農業農村活性化農業構造改善事業(活性化農構)と命名され90年から,いずれもほぼ10ヵ年計画の事業として実施されている。
一次構は〈農業技術の革新と農業生産の選択的拡大を図りつつ自立経営と協業の助長に資す〉ことを目標に,都市化,工業化が予想される地域を除く全国の約3000市町村で実施され,1市町村当り平均4500万円の補助(総事業費9000万円)により,農業生産基盤の整備開発,大型農業機械等農業近代化施設の導入が図られた。しかし一次構の実績をみると直接自立経営の育成に迫るものではなく,農業経営近代化の前提条件となるべき農業機械化など農業技術の革新,新作目の導入に重点がおかれた。二次構は一次構の実績を検討し〈自立経営等規模の大きく,生産性の高い農業経営を育成し,これらの経営が地域農業の中核的な地位を占める農業構造の実現を図る〉ことを重点に,事業のしくみを自立経営育成に焦点を合わせ,全国約2200地区で実施された。1地区の平均事業費は4億円で,うち補助金は約5割,融資単独事業費は1地区平均1.3億円とされ,一次構に比べ事業実施地区に集中的投資がなされた。二次構の実績を検討してみると,施設園芸,中小家畜などの施設型農業部門では技術革新や規模拡大等がみられたが,米,麦など土地利用型部門では農地流動化は進まず自立経営の育成の面では大きな成果はあがらなかった。
新農構は日本経済の安定成長への転換に対応し農産物の総合的自給力の強化を図ること,一次構,二次構の行政主導型手法を反省し〈地域農業者等の英知と創意に基づいて定められた地域農業振興の方向付けに沿って自主的に樹立された計画〉に基づき実施することが強調された。事業方式も地区再編,農村地域,広域の3種の事業に区分され,旧村単位程度の広がりの地区再編事業を重視するとともに利用権設定等農地の流動化を促進し,米,麦など土地利用型農業の規模拡大と生産の組織化に重点がおかれた。
活性化農構は,農業の国際化の進展,農産物需給の過剰基調,高齢化・過疎化の進展,消費者ニーズの多様化,自然・ふるさと志向の強まり等,農業・農村をめぐる情勢の変化を背景に,〈農業・農村の活性化--生き生きと取り組める農業の確立とみんなが住んでみたくなる農村づくり〉を目標に,地域の立地条件に即した,地域の独創的かつ内発的な取組みを支援するよう,多様な事業目的・事業内容・助成手段等が用意されていることを特徴としている。また併せて農業・農村における人材育成を重視している。
執筆者:今村 奈良臣
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