朝鮮の農村で行われる伝統的な民俗音楽。〈農者天下之大本〉(農は天下の大本)と書いた農旗を先頭に立て小鉦が先導する農楽隊の行進は,現在も韓国農村でみられる情景である。農楽は農村生活と密着しており,農民のはげしい労働の疲労をいやし,また洞祭その他の村祭や各種の農耕儀礼の際に演奏される労働と儀礼の舞楽であり,農村娯楽の中心をなしている。農楽隊の構成はふつう小鉦2,杖鼓2,鉦1,太鼓2や,さらに小鼓5~8,士大夫役1,猟師役1を加え,ほかに農旗手と令旗手を含めて20名内外になる。農楽の形態は地域により,伝承関係によって左道クッ,右道クッ,中間クッの三つに分けられるが,隊員の構成,衣裳,音楽もそれぞれちがう。農楽はふつう12コリ(次)に構成されているが,コリはいわば基本楽章であり,コリがさらにカラク(リズム)に分立され,1コリはほぼ3カラクに分かれているので,農楽は12コリ3カラクだといわれる。コリの変化は小鉦手がリードし,他の隊員はこれに従う。農楽の起源については諸説があるが,稲作に伴う共同労働とともに起源の古いものであろうと思われる。豊穣を祈る祝願の音楽に発するとする説,寺との密接な関係から寺の建立のための募金の方法として寺僧らが楽器をもって家々を回ったことがもとになったという説,また戦時に農民軍を訓練する方法として戦時用の陣法を楽舞によって指揮・訓練したことから発展したとする説などがある。
→朝鮮音楽
執筆者:李 杜 鉉
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朝鮮の民俗芸能。トゥレ、乞粒(クオルイブ)、乞窮(クオルクン)、地神踏(チシンバルブキ)など十数種の呼称があり、農楽はその総称で、その囃子(はやし)も農楽という。おもに中部以南の農村で盛んであったが、現在は全国的に行われている。農楽の一隊を農楽隊といい、「農者天下之大本」と書いた農旗(ノンギ)(神竿)を中心に、歌い踊る躍動的な農民の代表的集団芸能である。隊員は花笠(はながさ)をかぶり、カラフルな襷(たすき)を掛け、少年が女装した舞童、老人に扮装した花童(フアドン)たちで構成され、規模が大きいと仮装行列を伴う。農耕作業の模擬行為や、杖鼓戯(チヤンコノリ)、舞童舞(ムドンム)、小鼓戯(ソコノリ)、法鼓戯(ボブコノリ)、象毛戯(サンモノリ)など演目は多彩で、元来は男性中心の芸能であった。三韓時代の遺風とみられ、僻邪進慶(へきじゃしんけい)、集団農耕娯楽などの際に広範に行われている。楽器は杖鼓(じょうこ)、小金、鉦(しょう)、胡笛(こてき)など。
[金 両 基]
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…(1)三国以前 《三国志》魏志東夷伝などの中国文献によると,夫余(ふよ),高句麗,濊(濊貊(わいばく))は,それぞれ年中行事として一定の時期をえらび,歌舞で祭祀を行う風習があり(例えば高句麗の東盟),それらは集団的な宗教儀式であった。馬韓では5月の種まきの後と10月の収穫の後に,群衆による歌舞を行うと伝えられており,この時代の歌舞による祭事は,いずれも,今日の農楽や〈クッ〉と呼ぶ神事と関係があると考えられている。楽器についての記録は,弁韓と辰韓に,今日の代表的な弦楽器の伽倻琴や玄琴の祖形と見られる瑟(しつ)に似たチター属楽器があったことを伝えており,これは,朝鮮民族が早くから,長方形の弦楽器を好んで使用していたことを物語っている。…
…祭官に選ばれた家庭では戸口にしめなわを張って主人は斎戒沐浴して家族ぐるみで供物の準備にとりかかり,祭りの終了後には祭官の家で村人たちの飲福(祭物を共食すること)が行われる。またかつてはむらの若者たちによって編成された農楽隊(農楽)がむらの境界,共同井戸,広場,神木のほか各戸を巡りながら,庭で厄祓いのための〈地神踏み〉を行って,各戸から布施を集めたり,あるいは他村にまで出かけて行ってその収入をむらの事業資金にあてることも行われた。このほかむらにおける組織として婦人会,青年会,4Hクラブなどの年齢,世代的な組織や,むらの振興,生活改善などの公共的な性格をもつさまざまな組織がみられ,近年ではその中でもセマウル運動の推進委員会が重要な役割を演じている。…
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