改訂新版 世界大百科事典 「邑南」の意味・わかりやすい解説
邑南[町] (おおなん)
島根県中南部,邑智(おおち)郡の町。2004年10月石見(いわみ)町,瑞穂(みずほ)町と羽須美(はすみ)村が合体して成立した。人口1万1959(2010)。
石見
邑南町北西部の旧町。邑智郡所属。1955年矢上町と日貫村など4村が合体して石見町となる。人口6484(2000)。中央部の京太郎山を中心に隆起準平原の石見高原が町域の大部分を占め,東部には江の川支流の濁川が北流,西部には日和川と日貫川が西流する。縄文~弥生時代の遺跡や古墳が多く,縄文晩期の壺や銅鐸が発見されている。鉄穴流(かんなながし)の盛んな地域で矢上砂鉄は各地の炉へ送られていた。かつて麻の生産,醸造業が行われ,矢上の七日市は大麻の集散地として栄えた。良質の矢上米の生産を中心に畜産,野菜やタバコの栽培を行っているが,山間地のため人口流出が著しい。魚もこの滝を越すことができないので名づけられたという断魚渓や千丈渓は渓谷美で知られる。
羽須美
邑南町東部の旧村。邑智郡所属。人口2078(2000)。中国山地を貫流する江の川中流西岸に位置する山村で,江の川の支流出羽川沿いにわずかに耕地がひらけ,畜産,タバコ,高冷地野菜の栽培が行われる。近世には製鉄業が盛んな地域で,現在も鉄穴流やたたらの跡が数多く残っている。阿須那の賀茂神社では古くから牛馬市が開かれていたが,近世に阿須那市見世に発展し,呉服や小間物,清酒などの取引が活発であった。市見世は大正期以降衰え,昭和初期には木炭の生産が盛んであった。江の川沿いにJR三江線,国道375号線が通じ,現在は広島県の経済圏に入っている。
瑞穂
邑南町中部の旧町。邑智郡所属。南は広島県に接する。1957年出羽(いずは)村が町制,改称。人口5304(2000)。中国山地中にあり,町の中央を江の川の支流出羽川が北東流する。出羽川の埋積盆地は古くから開け,須恵器窯跡や古墳など数多くの遺跡が発掘され,遺跡の町といわれている。鉱山開発も早くから行われ,久喜鉱山では鉛や銅を産出していた。たたら製鉄の跡も多く,この地域で生産される玉鋼(たまはがね)は出羽鋼として知られた。正宗十哲の一人である初代直綱はこの地で刀鍛冶となった。その後製鉄業は衰退し,昭和初期には県下有数の木炭産地であった。出羽川の段丘上にある中心地の出羽と三日市は久喜鉱山の拠点として発展し,中国地方有数の牛馬市が近年まで開かれていた。現在は高冷地での乳牛の飼育,野菜栽培が盛んで,広島市などへ出荷される。浜田自動車道のインターチェンジがある。
執筆者:清水 康厚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報