金属表面処理(読み)きんぞくひょうめんしょり(英語表記)metal finishing

日本大百科全書(ニッポニカ) 「金属表面処理」の意味・わかりやすい解説

金属表面処理
きんぞくひょうめんしょり
metal finishing

金属材料の表面に加工を施して、金属の耐食性などを向上させたり、新たな性質や機能を与える方法の総称。金属材料の化学的あるいは物理的性質はその表面の状態に大きく依存しており、表面の状態を変えることによってこれらの性質を大きく変えられる。このため、表面処理技術により、単独の材料では望めない高い耐食性や耐熱性、美しい外観、あるいは特殊な機能を材料に付与することが行われる。工業的表面処理技術には、表面清浄化、研摩、エッチングetching、電着、化成処理蒸着、溶融被覆、拡散浸透、ライニングlining(品物の面に他材料を張り付けること)、コーティングなどの技術が含まれる。

[杉本克久]

表面清浄化

あらゆる表面処理の前処理としてなされる。除錆(じょせい)のためには酸洗い(ピックリングpickling)や溶融塩浴浸漬(しんし)処理などが行われる。脱脂のためには有機溶剤アルカリエマルジョンなどによる洗浄、アルカリ水溶液中での電解脱脂、有機溶剤中での超音波洗浄などがある。

[杉本克久]

研摩

材料表面の平滑化と光沢化とのために行われる。研摩機と研摩材とを用いる機械的研摩、電解液中で金属を陽極にして電解する電解研摩化学薬品溶解作用を利用する化学研摩などがある。

[杉本克久]

エッチング

金属表面の一部分を化学的に溶解除去するために行われる。機械加工で生じた変質層を除いたり、あるいは表面に特殊な図案を描くためになされる酸による浅い食刻がこれに相当する。深い食刻によって成形品をつくる場合にはケミカルミリングchemical millingとよばれる。

[杉本克久]

電着

電解液中から金属を電析させて金属被覆を形成する方法。外部電源を用いてめっき浴を電解し陰極上に金属を析出させる電気めっき法と、めっき浴中に還元作用の大きな薬剤を添加し、これによって金属イオンを還元し金属を析出させる化学めっき法とがある。

[杉本克久]

化成処理

化学的あるいは電気化学的反応を利用して金属表面に非金属被覆を形成する処理法。各種の酸溶液中でアルミニウムを陽極にして電解し厚い酸化アルミニウム皮膜を形成させる陽極酸化処理、鉄鋼をリン酸塩溶液中に浸漬してリン酸塩皮膜を形成させるリン酸塩処理、亜鉛やアルミニウムをクロム酸塩溶液中に浸漬してクロム酸化物皮膜を形成させるクロメート処理などがある。

[杉本克久]

蒸着

金属あるいは非金属物質の蒸気から目的物質を析出させて金属あるいは非金属の被覆を得る方法。真空蒸着、スパッタリングspattering、イオンプレーティングionplatingなどの物理的な手法を使う物理蒸着法(PVD法)と、気体状物質どうしあるいは気体状物質と金属基板との化学反応を利用して被覆を形成する化学蒸着法(CVD法)とがある。

[杉本克久]

溶融被覆

溶融金属浴中に鉄鋼を浸漬して被覆を形成する溶融めっき法と、溶融金属を鉄鋼表面に吹き付けて被覆を形成する溶射法とがあり、亜鉛、スズ、アルミニウム、鉛などの溶融被覆が行われている。

[杉本克久]

拡散浸透

鉄鋼を他の金属の粉末中あるいは気体中で加熱し、その金属を鉄鋼中に拡散、浸透させて表面に耐熱性、耐食性、また耐摩耗性に優れた合金層を形成する方法。アルミニウム、クロム、亜鉛などの拡散浸透が行われている。

[杉本克久]

ライニングとコーティング

金属表面に板状の非金属物質を張り付けたり、液状の非金属物質を薄く塗り付けて被覆を形成する方法。ゴム、プラスチック、ガラス、ほうろう、セラミックス、無機質および有機質の塗料などの被覆がこの方法でつくられている。

[杉本克久]

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改訂新版 世界大百科事典 「金属表面処理」の意味・わかりやすい解説

金属表面処理 (きんぞくひょうめんしょり)
metal finishing

金属材料の表面に母材とは異なった皮膜もしくは表面変質層を形成する技術をいう。意味,内容,範囲はいろいろ異なって解釈されているが,その目的は,装飾,防食,表面硬化,機能性付与の四つに大別される。

 装飾は,人間の目にふれるところで使われる材料や製品の商品価値を高めるための方法で,表面皮膜の光沢,色調,模様などが関心事である。近年の傾向としては,見た目の美しさに加えて,感触,風合い,耐擦傷性(こすっても傷がつかない性質)などが加味される。防食は,使用環境中に存在する化学物質によって材料が腐食されるのを防止する技術である。最も多く使用される金属材料は炭素鋼であるが,この材料は,空気と水が共存する環境では腐食し,さびることが避けられない。最も普通の防食手段としては塗装が行われるが,ほかにも種々の防食のための表面処理法が使われている。表面硬化は,材料どうしが接触するような場合の対策として,耐摩耗性,耐疲労強度特性などを向上させるために使われる技術である。機能性付与とは,上記3者以外の種々の表面性質の付与をいう。基本的な材料特性である密度(重さ),熱伝導度,電気伝導度などは表面処理で改良するわけにはいかないが,表面機能への要求は多種多様である。多孔性皮膜による潤滑のための保油性向上,金属や高分子材料に混ぜる複合材料素材の界面における接着性の向上,短波長の光の吸収率を大きくし長波長の光の放射率を小さくした光選択吸収性向上(太陽熱利用機器材料に応用),光の反射やまぶしさを防止する反射防止性の付与など,それぞれ特殊な用途をもった機能に対するニーズが多く存在する。

 最終目的の処理に至る過程での研削,清浄,研磨,活性化,下地処理なども,次の工程の仕上がりをよくするという目的のための機能性処理といえる。要求される機能を満足すべき表面処理技術としては,多くの方法が互いに競合もしくは補完する形で存在する。塗装,有機被覆,めっき化成処理陽極酸化化学蒸着イオンプレーティング浸炭窒化拡散被覆溶射ライニングなど多くの技術がある。炭素鋼材料への表面処理を例にとって,どの程度の厚みの皮膜が形成されるのかを表に例示した。
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百科事典マイペディア 「金属表面処理」の意味・わかりやすい解説

金属表面処理【きんぞくひょうめんしょり】

耐食・耐熱性や美観の向上を目的に金属製品表面に行う処理の総称。浸炭・窒化などの表面硬化法は除く。金属による被覆(めっき拡散被覆溶射など),無機物による被覆(ホウロウライニングなど),塗装,プラスチックライニングなどの方法がある。→グラスライニング
→関連項目防食

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