金融犯罪（読み）きんゆうはんざい

改訂新版　世界大百科事典

金融犯罪 (きんゆうはんざい)

金融取引をめぐって行われる犯罪。この中には，（1）金融機関の役職員が不正に貸付けをする不正融資（金融）事犯，（2）高い利子で大衆投資家の投資を誘引し，倒産などにより損害を与える出資金・預り金事犯，（3）借り手の弱い立場に乗じて暴利をむさぼる高金利事犯，（4）銀行法等の金融業に関する法規違反，などが含まれる。なお，金融機関に対するいわゆる銀行強盗や，銀行員が職務上のコンピューター端末を悪用して金銭を引き出すといった事犯は，とくに金融取引固有の問題ではないので，これに含まれない。

　これらの事犯は，いずれも，金融取引にかかわる専門家が職務の過程において犯すという特色を有し，犯罪の手口が模倣され，同時に多発する傾向も見られ，ホワイトカラー犯罪の一つに数えられる。被害は，金融機関や消費者に及ぶだけでなく，国民一般の金融秩序に対する信頼を損なうという深刻な影響を与えるから，厳正な対処が必要である。

　バブル経済崩壊に伴ういわゆる住専処理（住宅金融専門会社の不良債権による破綻処理）問題においては，公的資金の導入をめぐり，金融機関の乱脈な不正融資が厳しい世論の批判を浴びた。東京協和・安全の二つの信用金庫の破綻処理（1995）の際には，不正融資に対する金融機関の経営陣の刑事責任が追及されたが，アメリカの金融機関では，乱脈融資に対する経営陣の経営責任が厳しく問われ，1989年から90年代初頭にかけて起こったS＆L（貯蓄貸付組合）事件では，1800名以上の者が起訴され1500名以上の者が有罪となっている。

　金融犯罪の態様ならびに法の適用は，次の通りである。（1）不正融資には，回収の見込みがはっきりしないのに，情実などから特別に担保など回収確保の措置をとらずに貸し付ける不良貸付（例，吹原産業事件，1965年。大光相互銀行事件，1979年）と法令，定款，内規等に違反して貸し付ける不当貸付がある。これらは背任罪（刑法247条。信用金庫の場合）ないし商法上の特別背任罪（商法486条。会社・銀行の場合）に問われる。金融機関の役職員がその地位を利用して，貸付けの正規の手続をとらず，手元にある金融機関の資金を貸し付ける浮貸しは，めったに表面化しない犯罪であるが，出資取締法3条で禁止されている。金融機関と預金者が結託して，預金者が預金を一定期間引き出さないこと（預金の導入）の見返りに，金融機関が預金額の一部を無担保で資金を必要とする特定の第三者に貸し付けるなどの導入預金は預金等不当契約取締法（預金等に係る不当契約の取締に関する法律，1957公布）に違反する犯罪である。（2）出資金・預り金事犯とは，高利や高額の利益配当をうたい，大衆の利欲心をくすぐる欺瞞的な資金集めを指す。出資取締法（出資の受入れ，預り金及び金利等の取締りに関する法律，1954公布）は，他の法律で認められた者（銀行，長期信用銀行，信託銀行，信用金庫，信用組合，労働金庫，商工中金，農林中金，農漁協等の金融機関や郵便局など）以外の者が，広く一般大衆に，元本保証した預金や貯金等を受け入れる業務を行うことを禁止（同法1条，8条1項，2条1項，8条1項1号）して，一般大衆が出資をしたり，金銭を預けることに伴って被る被害の防止を図っている。当初から金銭を騙取する目的でなされた資金集め（豊田商事事件，1985）は，詐欺罪（刑法246条）を構成する。なお，この事件を契機として，商品預託取引業法（特定商品等の預託等取引契約に関する法律，1986公布）が制定され，いわゆる〈預金まがい＝現物まがい（ペーパー）商法〉が規制の対象となった。（3）サラ金業者による暴利，高金利事犯（出資取締法5条違反）は，かつて，出資法違反事件の大半以上を占めていたが，1976年をピークに，現在では漸次減少傾向にある。（4）銀行法等の金融業に関する法規では，無免許営業を禁ずるほか，役員等が大蔵大臣に提出する業務報告書等に不実記載，また虚偽報告，検査拒否等の行為に刑事罰をもってのぞんでいる。金融の自由化，国際化が進行し，金融制度をとりまく環境が，急激に変化している今日，金融機関の監督官庁に対する虚偽報告，検査妨害・拒否といった行為に厳しい批判の目が向けられ，重罰化が検討されている。
執筆者：沼野 輝彦

出典　株式会社平凡社「改訂新版　世界大百科事典」