家庭医学館「関節リウマチ」の解説
かんせつりうまち【関節リウマチ Rheumatoid Arthritis】







◎関節炎を主症状とする
関節リウマチとは、全身の免疫の異常にともなって関節に炎症がおこり、関節の腫(は)れや痛みが生じるとともに、徐々に進行して、長い年月ののちには、関節が変形して重大な機能障害をひきおこす病気です。
関節リウマチは、家事や育児に忙しい年代の女性に多く、社会的な影響も大きい病気です。
「リウマチ」というと、からだのふしぶしが痛む病気というふうに、漠然ととらえられることが多いようです。実際に、そういう病気をまとめてリウマチ性疾患といいますが、多くの種類があります。
このなかで、関節リウマチは代表的な病気であり、狭い意味でリウマチともいわれる病気です。また慢性関節リウマチと呼ばれていましたが、2002年改称されましたので、関節リウマチに統一して呼び、解説します。
関節リウマチは、全身の関節がおかされる病気です。(図「正常な関節とリウマチにおかされた関節」)の左上に示したように、関節は2つの骨を連結する部分ですが、骨と骨の間には軟骨(なんこつ)と関節液(かんせつえき)があって、クッションの役目を果たしています。
この関節は、関節包(かんせつほう)という膜のようなものでつつまれていて、その内側は滑膜(かつまく)という線維性の組織になっています。滑膜は、洋服の裏地のような組織ですが、関節リウマチでは、この滑膜がおかされます。
滑膜炎(かつまくえん)が生じると、白血球(はっけっきゅう)などの細胞が集まり、滑膜の細胞そのものも増えて、滑膜はヒダ状に増殖し、パンヌス(図「正常な関節とリウマチにおかされた関節」の左下)という組織を形成します。
このパンヌスが、さまざまな物質を分泌(ぶんぴつ)しながら周囲の組織を溶かし、侵食します。軟骨を溶かし、骨を侵食し、ついには関節を変形させます(図「正常な関節とリウマチにおかされた関節」の右)。これが関節リウマチです。
●どのような人に多いか
関節リウマチは、女性のほうが男性よりも3~4倍もかかりやすい病気です。20~70歳代までのどの年代でも発病しますが、もっとも発病しやすいのは、40歳代です。
出産後や更年期(こうねんき)の前後に発病する場合も多く、発病には女性ホルモンのバランスが関係している可能性もあります。また、冬の発病が多いようです。
受診した患者さんの20%ほどは、近親者に関節リウマチの人がいますが、高血圧や糖尿病などと比べても、関節リウマチでは遺伝の関与は明らかに弱く、はっきりした遺伝性はないと考えるべきでしょう。

◎さまざまの症状が生じる
◎どんな経過をたどるか
◎進行経過の分類
◎さまざまの症状が生じる
●関節の症状
多くの場合、初めは関節の痛みや腫れがみられます。手や指の小さな関節からおこって、手首、肩、膝(ひざ)、足首などの関節に痛みや腫れが現われます。
指の関節は、PIP関節、MP関節という、指先から2番目と3番目の関節がおかされやすく、紡錘状(ぼうすいじょう)に腫れてきます。
また、「朝のこわばり」と呼ばれる症状が現われます。これは、朝、目がさめたとき、手をにぎろうとしても、手指の関節がこわばっていて、曲げるために力がいるのですが、しばらく動かしていると治ってしまう症状です。
よく手を使った翌朝は、健康な人でも少しこわばりますが、とくに使ってもいないのに、こわばる、しかも起床後30分以上こわばりが続く場合は、「朝のこわばり」である可能性が大きくなります。
関節の腫れと痛みは、慢性的に続いて、治療しないと、しだいに変形して関節の機能が失われていきます。
関節の周囲の筋肉は、関節が動かしにくい結果として、萎縮(いしゅく)します。
●関節以外の症状
病気のいきおいが激しい関節リウマチでは、リウマトイド結節(けっせつ)というかたまりが、皮膚の下にできることがあります。肘(ひじ)の突端(肘頭(ちゅうとう))から3~4cm先の、伸ばすほうの側によくみられますが、とくに痛みはなく、処置は不要です。寝たきり状態の患者さんでは、後頭部(こうとうぶ)や仙骨(せんこつ)のあたりにできることがあります。
関節以外にも、肺、腎(じん)、心臓、神経、目などがおかされることがあります。
肺の病変としては、間質性肺炎(かんしつせいはいえん)(「間質性肺炎とは」)や肺線維症(はいせんいしょう)が、5~10%の患者さんに現われます。とくに、比較的高齢の男性で、リウマトイド因子が高い関節リウマチの患者さんに多くみられます。
リウマトイド因子(リウマチ因子)とは、免疫グロブリンという抗体(こうたい)をつくるたんぱく質の一部を抗原(こうげん)として攻撃する抗体のことです。
この肺の病変は、発病して長い関節リウマチの患者さんの予後を左右するものです。また、胸膜(きょうまく)の肥厚(ひこう)や胸膜炎(きょうまくえん)をおこすこともあります。
腎臓に生じる病変としては、たんぱく尿や血尿(けつにょう)がよくみられますが、リウマチの薬によって生じる障害が多いようです。発病して長い関節リウマチの患者さんでは、アミロイドという物質が腎臓に蓄積して、腎不全(じんふぜん)になることもあります。
そのほか、多発性神経炎(たはつせいしんけいえん)、心外膜炎(しんがいまくえん)、上強膜炎(じょうきょうまくえん)、皮膚の血管炎などをおこすことがあります(悪性関節(あくせいかんせつ)リウマチ(「悪性関節リウマチ」))。
◎どんな経過をたどるか
図「関節リウマチでよくおかされる関節の分布」に、関節リウマチでよくおかされる関節を示しました。少数の関節の痛みや腫れから発病した場合でも、しだいに多くの関節がおかされます。
関節の痛みや腫れが続いている間は、滑膜という組織が増殖し、軟骨や骨を溶かしているのです。
したがって、十分な治療をしないと関節はしだいに変形します。だんだん動きが悪くなり(可動域制限(かどういきせいげん))、最終的には変形したり、固まって動かなくなったり、逆にぐらついて力が入らないようになったりします。
手の指の変形は特徴的で、スワンネック変形図「指の関節の変形」、ボタンホール変形、尺側偏位(しゃくそくへんい)などと呼ばれます。
足の指は、親指が内側に曲がる外反母趾(がいはんぼし)変形、指先がハンマーのように下に曲がる槌趾(ついし)変形などがおこります。
手首の関節は、動く範囲が狭くなって、第4指(薬指)、第5指(小指)を伸ばす腱(けん)が切れて、伸ばせなくなることがあります。
肘関節(ちゅうかんせつ)の動く範囲が狭まると、顔に手が届かなくなり、日常生活がたいへん不自由になります。
股関節(こかんせつ)や膝関節(しつかんせつ)も動きが悪くなり、足の関節や足趾(そくし)(足の指)の変形も加わって、歩くのが困難になります。
関節リウマチは、脊椎(せきつい)はあまりおかしませんが、第1頸椎(だいいちけいつい)、第2頸椎(だいにけいつい)の間の環軸関節(かんじくかんせつ)という部分がおかされて、脊髄(せきずい)を圧迫することがあります。
これは進行した関節リウマチにみられ、くびが痛み、不安定になります。変形が進むと、脊髄まひや呼吸まひをおこす可能性があります。
このように、関節リウマチの患者さんの関節は、病気が進むと変形しますが、ムチランス型といって、滑膜の増殖によって関節包(かんせつほう)や靱帯(じんたい)が機能しなくなり、関節がぐらぐらする場合もあります。
なお、関節リウマチが長期にわたると、先に述べたような関節以外の症状が増えます。なかでも、肺線維症による呼吸困難、アミロイドの蓄積による腎臓の障害は要注意です。
関節リウマチは、難病の1つとされ、治療法はないといわれてきました。現代においても、そのはっきりした原因は、まだ不明であり、完全に治す方法はありません。
しかし、関節リウマチの活動をかなり抑え、ほとんど病気を忘れさせるほど効果のある治療法も多く開発されています。楽観はできませんが、悲観すべきでもない医学の現状を、ご理解いただきたいと思います。
◎進行経過(しんこうけいか)の分類
関節リウマチによって生じる関節の破壊の進行には、かなりの個人差があります。病変の進み方から、以下の3つの型に分類されます。
●急速進行型
発病後、急速に炎症が進行し、発病後1年でもう、関節の変形がみられます。早いうちから強力な抗リウマチ療法が必要です。全体の約10%がこの型です。
●多周期型
よくなったり悪くなったりをくり返しながら徐々に進行する型で、全体の約70%を占めます。
●単周期型
発病後しばらくは、関節炎がみられますが、半年から1年ぐらいで症状が軽くなる型です。関節の破壊はほとんどおこりません。全体の約20%を占めます。

◎原因不明の病気
どうして滑膜に慢性的な炎症がおこるのかは、まだ十分にはわかっていません。ただ、関節リウマチの関節の中では「炎症」という現象が持続的に生じています。
炎症というのは、からだの一部が傷害を受けた場合に、それを修復しようとして、からだがおこす反応です。
たとえば、細菌が、のどの奥にある扁桃(へんとう)に感染すると、からだの防衛軍である白血球(はっけっきゅう)などが扁桃に集まり、外から進入してきた細菌を殺し、除外しようとします。その結果、扁桃は赤く腫れあがり、痛みます。これが扁桃におこった炎症、扁桃炎(へんとうえん)です。
また、包丁(ほうちょう)で指を傷つけて出血した後にも、傷ついた組織を修復しようとして、白血球や線維芽細胞(せんいがさいぼう)などが集まります。これも炎症です。
つまり炎症という反応は、人のからだを守ってくれるはたらきの1つです。
関節が腫れ、熱をもって痛むのを関節炎(かんせつえん)といいますが、これは、関節に炎症反応が生じている状態です。関節炎は、加齢(かれい)とともに軟骨が変成しておこる変形性骨関節炎(へんけいせいこつかんせつえん)、細菌が感染しておこる化膿性関節炎(かのうせいかんせつえん)、尿酸(にょうさん)の結晶がひきおこす痛風(つうふう)など、その原因はさまざまです。
ただ、問題の関節リウマチの関節炎がなぜ生じるのかは、まだわかっていません。からだの外から進入してきた何かを排除しようとして炎症が生じているのか、自分のからだの一部を外からの異物とまちがって、それに対して反応しているのか、それとも、それ以外のメカニズムがはたらいているのかが、わからないのです。
しかし、関節リウマチの関節の中では、なんらかの外的な刺激が引き金になって、免疫のしくみがはたらき出して炎症がおこり、滑膜の増殖がおこり、その結果として、関節の破壊や変形が生じていることは確かです。
はっきりした原因や治療法を発見するまでには至っていないのですが、関節リウマチの研究は、最近、飛躍的に進みました。近い将来に、その原因が明らかになると思います。

◎血液検査とX線検査
●血液検査
リウマトイド因子の検査 体内にあるIgGというたんぱく質に対する抗体があると、この検査の結果が陽性になります。陽性率は、関節リウマチの患者さんでは約80%です。同じ関節リウマチでも、この検査が陽性の人は、陰性の人に比べて病気が進みやすいようです。
この検査をリウマチ反応ということがありますが、この名前が誤解を生むことがあります。たとえば、結核菌(けっかくきん)は病気の原因なので、たんから結核菌が出たら肺結核という診断がつきます。しかし、リウマトイド因子は関節リウマチの原因ではありません。この検査が陽性になったからといって、関節リウマチと診断することはできません。この因子は、関節リウマチの患者さんによくみられるので、診断の助けにはなりますが、膠原病(こうげんびょう)や慢性肝炎(まんせいかんえん)でも陽性になります。まったく健康でも、5%の人は陽性になりますし、高齢者ではその割合も増えます。
また、リウマトイド因子をはかる方法にもいくつかあり、結果もちがってきます。医師の説明をよく聞いて、検査の結果を理解してください。
赤血球沈降速度(せっけっきゅうちんこうそくど)(赤沈(せきちん))とCRP 2つともに、体内に炎症があると変化します。赤沈は、1時間で20mm以下が正常、CRP(C反応性たんぱく)は、1dℓあたり0.5mg以下なら正常です。
これらはどんな炎症でも値が高くなりますから、肺炎や胃腸炎などでも異常になります。関節リウマチでも、重症であるほど高い値になります。
活発な関節リウマチでは、赤沈は1時間で100mm以上、CRPは1dℓあたり10mg以上になることもあります。
そのほか、免疫グロブリン、抗核抗体(こうかくこうたい)などの免疫系の物質の検査、赤血球、白血球、血小板(けっしょうばん)などの血液検査、アルカリホスファターゼ(エネルギーの産生にかかわる酵素(こうそ))などの生化学検査(からだの物質循環のようすをみる検査)を行なうと、異常がみられることが多いものです。
●X線検査
初期には、軟部組織と呼ばれる関節周囲の組織が腫れているのがわかります。進行すると、骨が細って、骨と骨の間のすき間(関節裂隙(かんせつれつげき))が狭まり、骨(こつ)びらんといわれる虫食いのような骨の変化がみられます。
骨びらんは、滑膜が増殖して骨を侵食し始めたときにみられ、発病後1年で約60%の患者さんにおこります。
◎関節リウマチの診断
複数の関節、それも左右の同じ関節が腫れて、熱をもって痛む症状が6週間以上続けば、関節リウマチが疑われます。
こわばりがあったり、血液検査でリウマトイド因子が陽性で、赤沈やCRPが高ければ、関節リウマチの可能性が高くなります。手足のX線検査で、骨びらんという特徴的な骨の変化が確認されれば、関節リウマチであることはほぼ確実です。
診断をする1つの基準として、アメリカリウマチ学会が1987年に定めた分類基準があります(表「関節リウマチのアメリカリウマチ学会分類基準(1987年改訂)」)。医師は、この基準を満たす患者さんを、関節リウマチとして扱います。
●まちがいやすい病気
複数の関節に関節炎をおこす病気 変形性骨関節炎(へんけいせいこつかんせつえん)、リウマチ熱(「リウマチ熱」)、痛風(つうふう)(「高尿酸血症/痛風」)、乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)(「乾癬性関節炎」)、ベーチェット病(「ベーチェット病」)などの病気があります。
50~60歳ころに、手指の関節が腫れ、チリチリと痛む変形性骨関節炎が、とくに関節リウマチとまちがいやすい関節炎です。変形性骨関節炎が、第1(DIP)関節の場合は、ヘバーデン結節(けっせつ)、第2(PIP)関節の場合はブシャール結節(けっせつ)と呼ばれます。
この病気は、特徴的な骨のX線像から診断は比較的容易で、とくに治療法はありませんが、ふつうは約1年で症状が軽くなります。
こわばりやしびれをおこす病気 変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう)(「変形性頸椎症(頸部変形性脊椎症)」)、腰部変形性脊椎症(ようぶへんけいせいせきついしょう)(「変形性腰椎症(腰部変形性脊椎症)」)、糖尿病(「糖尿病」)があります。とくに、変形性頸椎症では、関節リウマチの朝のこわばりと似た手指のこわばりがみられることがあります。
ふしぶしの痛みをおこす病気 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)(「骨粗鬆症」)、変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)(「変形性関節症とは」)、変形性頸椎症などがあります。
リウマトイド因子陽性の病気 全身性エリテマトーデス(「全身性エリテマトーデス(SLE/紅斑性狼瘡)」)、シェーグレン症候群(「シェーグレン症候群」)などの膠原病(こうげんびょう)、慢性肝炎(まんせいかんえん)(「慢性肝炎」)、慢性感染症があります。
なお、溶連菌(ようれんきん)の感染が原因でおこり、高い割合で心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)をおこすリウマチ熱(「リウマチ熱」)は、関節リウマチとはまったく別の病気です。
関節リウマチでは、弁膜症をともなうことはめったにありません。

◎薬物と整形外科手術が中心
治療の目標、受診すべき診療科、治療法の種類の順に解説します。
●治療目標
●どの科を受診すればよいか
●薬物治療
●手術療法
●具体的な治療
●治療目標
いまのところ、関節リウマチの治療目標は、以下の点に絞られます。
①関節リウマチの炎症、免疫異常を薬剤で鎮静化する。
②関節機能を保つようにし、その変形を防止する。
③関節機能が低下すれば、手術などによって機能を再建する。
ただし、関節リウマチは人により、時期により、治療方針がちがってきます。あくまでケースバイケースであり、Aさんに効いた治療法がBさんに効くとはかぎりません。
「私はこんな治療法が効いたから、あなたもしてみなさいよ」などという親切が、あだになる場合も少なくありません。勝手な判断は禁物ですので、医師の指示をよく守りましょう。
また「痛みをとることが治療の目的ではない」ことを理解してください。痛みだけなんとかしてほしいと思われるのも無理はありませんが、痛みだけを抑えても、関節炎を抑えることはできず、関節の変形を防止できないのです。痛みの原因である関節炎を抑える治療がたいせつなのです。
●どの科を受診すればよいか
関節リウマチは、長期間にわたる関節障害があるため、整形外科医と一部の内科医がみてきました。ただし、1996年(平成8)から「リウマチ科」という診療科名を標榜(ひょうぼう)することが厚生省(現厚生労働省)から認可されたので、受診が便利になりました。
まだリウマチ科の看板を出している医療機関は多くありませんが、リウマチ科を標榜する医師の多くは、内科医か整形外科医として研修したうえで、関節リウマチや、ほかの関節疾患、膠原病を診療していた医師です。
リウマチ科が認められるようになって、関節リウマチや関連した病気の疑いがある患者さんの受け皿ができましたが、患者さんの状態によって、受診すべき科は微妙に異なります。
発病後すぐの患者さんや、いろいろな病気を合併している患者さんは、内科やリウマチ科を、関節の変形がひどくて手術が必要になると思われる患者さんは、整形外科やリウマチ科を受診されるのがよいでしょう。
●薬物治療
薬物治療は、炎症を鎮(しず)め、痛みをとる治療と、免疫異常を是正(ぜせい)する治療との2段階に分けられます。
〈炎症を鎮め、痛みをとる薬剤〉
非ステロイド抗炎症薬 「消炎鎮痛薬(しょうえんちんつうやく)」と呼ばれる薬です。非常に多くの種類があり、同じ薬でも内服用、坐薬(ざやく)、外用剤(がいようざい)や軟膏(なんこう)と、剤形(ざいけい)も豊富です。
これらは、関節の痛み、腫れ、朝のこわばりを軽くすることができますが、あくまで症状を抑える対症療法ですから、関節が変形するのを防止することはできません。はっきりと関節リウマチと診断された場合には、抗リウマチ薬の併用が必要です。
非ステロイド抗炎症薬に共通して生じる副作用として、胃腸障害があります。胃薬とともに服用するほうがよいでしょう。薬によっては、むくみや発疹(ほっしん)、光線過敏症(こうせんかびんしょう)などが現われることもあります。
最近では、鎮痛効果の強い薬、作用時間の長い薬、胃腸障害の少ない薬など、いろいろな特徴をもった薬が多く開発されています。
ステロイド薬(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬) 強力な抗炎症作用のある薬です。プレドニゾロン(商品名プレドニン)、デキサメサゾン(商品名リンデロン)など多くの種類があり、内服剤と注射剤があります。
関節炎を劇的に軽快させる薬で、発病の早期で関節炎が激しい場合には、ステロイド薬を用いて炎症を有効に抑えると、骨の破壊を抑えることも可能です。
発熱や体重減少などにも効くので、全身症状や、間質性肺炎(かんしつせいはいえん)、血管炎など、関節以外の症状をともなう場合にも、ステロイド薬が必要です。
また、ステロイドの注射薬は、関節に水のたまる(水腫(すいしゅ))場合などにも非常によく効きます。パルミチン酸デキサメサゾン(商品名リメタゾン)という、炎症の強いところだけにとりこまれるように工夫された注射用のステロイド薬もあります。
ステロイド薬も、あくまで炎症を抑える薬であって、原因から治すわけではありません。ステロイド薬は両刃(もろは)の剣です。長期に必要以上の量を服用すると、ムーンフェイスといって、顔が丸くなったり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、胃潰瘍(いかいよう)、糖尿病などをひきおこしたりします。
炎症が強くないのに、痛みをとるために漫然と服用していたりすると、こうした副作用がおこりますが、関節リウマチのいきおいが激しく、必要最少量のステロイド薬を服用しているかぎり、副作用はあまりみられません。
服用量は、通常の関節リウマチの場合、プレドニンで1日1錠(5mg)です。これ以下の服用量であれば、副作用は多くありません。
全身症状がひどかったり、血管炎などの症状をともなう場合は、短期間にかぎり、2~4錠程度使用されることがあります。
服用は、朝1回が原則ですが、2回に分ける場合には、朝の服用量を多くします。
使い方しだいで、毒にも薬にもなる薬の、もっともはっきりしたものの1つですので、関節リウマチを治療するには、必要以上にステロイド薬を害悪視しないこともたいせつです。
〈免疫異常を是正する薬剤〉
抗リウマチ薬、遅効性(ちこうせい)抗リウマチ薬、DMARDなどと呼ばれる薬で、免疫調節薬と免疫抑制薬があります。
金剤(きんざい) 注射金製剤(商品名シオゾール)は、もっとも古くから使われ、かなりよく効く抗リウマチ薬です。ふつうは、10ないし25mgを2~4週間ごとに筋肉注射します。
使用を始めて3~4か月で効果が現われますが、有効例でも、5年以上すると効かなくなる場合があります。
副作用としては、発疹がもっとも多く、軽い白血球減少、血小板減少などの血液異常や、たんぱく尿、血尿などの腎臓障害(じんぞうしょうがい)もみられます。まれに間質性肺炎をおこすことがあります。
経口金剤(けいこうきんざい)(オーラノフィン、商品名リドーラ)は、1日6mg(2錠)を毎日服用します。発病の早期や、比較的炎症が弱い場合に使われます。
重い副作用はまずありませんが、消化器症状とくに下痢(げり)がよくおこります。
SH化合物 D‐ペニシラミン(商品名メタルカプターゼ)、ブシラミン(商品名リマチル)は、ともに有効な抗リウマチ薬で、使用開始後3か月で効果が現われ、有効率は約70%です。1日100mgで使用を始め、効果や副作用をみながら増量していきます。
両薬ともに副作用として、発疹、たんぱく尿があります。たんぱく尿は、ふつう、使用を始めてから6~9か月後に現われることが多く、服用を中止すれば消えます。
サラゾスルファピリジン(スルファサラジン)製剤(商品名アザルフィジンEN) 効果が出るまで比較的早く、使用開始後4~6週で効いてきますが、有効性が低下するのも、ほかの抗リウマチ薬に比べると早いようです。
ふつう1日2錠(1g)を服用します。
副作用として、開始後間もなく腹部の不快感、頭痛、じんま疹(しん)のような発疹や、発熱と黄疸(おうだん)をともなう肝炎のような症状が出ることがあります。
そのほか、免疫調節薬であるロベンザリット二ナトリウム(商品名カルフェニール)、アクタリット(商品名モーバー・オークル)、免疫抑制薬であるミゾリビン(商品名プレディニン)も抗リウマチ薬として用いられています。
重い関節リウマチに対しては、免疫抑制薬であるシクロホスファミド(商品名エンドキサン)、アザチオプリン(商品名イムラン)などが用いられることがあります。
メトトレキサート製剤(商品名メソトレキセート) 免疫抑制薬の一種で、細胞の増殖を強力に抑えるため、抗がん剤として使われている薬ですが、非常に少ない量で関節リウマチにも効くことがわかりました。
いまのところ、もっとも有効な薬と考えられており、関節リウマチの薬物治療の中心的存在として使用されています。
メトトレキサートは、1カプセル2mgを、服用開始日から2日目にかけて12時間間隔で3回服用し、5日間は休薬する1週間のサイクルで使用します。症状や年齢、体調によって使用量を変更することがありますが、増量する場合は、1週間単位で8mgまでとし、12時間間隔で3回を守ります。
妊娠の可能性がある女性には、原則として使いません。副作用として、肝臓の障害があり、まれに発疹や間質性肺炎をおこすことがあります。
●手術療法
手術には、病気の治療として行なわれる関節滑膜切除術と、病気により破壊された骨関節機能の再建をはかる手術があります。
手術技術の向上によって関節の機能がかなり回復するようになり、患者さんの生活の質(QOL)を大きく改善させました。しかし、良性腫瘍(りょうせいしゅよう)を切除する手術とは異なり、早期に手術しても、関節リウマチが「治る」わけではありません。
また、おのおのの手術にはそれぞれ特徴があり、手術の時期にもタイミングがあります。早すぎると再手術をしなければならなくなる可能性があり、遅すぎると手術範囲が広くなり、術後の状態がよくありません。
①滑膜切除術(かつまくせつじょじゅつ)
関節で増殖した滑膜を、手術でとりのぞくことによって、関節が破壊されるのを防ぐことを目的とする手術です。
関節鏡(かんせつきょう)という内視鏡(ないしきょう)を使うと、手術によるダメージが少なくなります。膝(ひざ)などの少数の関節がひどく腫(は)れている早期から中期の関節リウマチが対象となります。しかし、滑膜は再生することが多く、根治はしません。
②骨関節機能(こつかんせつきのう)の再建術
関節の破壊や、腱(けん)の損傷などによって、日常の動作にも困るようになった身体機能を再建するために行なわれます。
人工関節形成術(じんこうかんせつけいせいじゅつ) 関節リウマチが進行し、関節軟骨がなくなって、関節の変形による痛みがひどく、日常生活の動作が著しく制限される場合に行なわれます。
膝関節と股関節が対象になることが多く、手術の成績も安定していますが、肘、肩などの関節では、まだ一般的ではありません。
関節形成術(かんせつけいせいじゅつ) 関節がはずれかかっている亜脱臼(あだっきゅう)などの変形がみられる手関節、外反母趾(がいはんぼし)変形や足指の変形などで痛みがひどい場合に、変形を是正して、痛みを軽くするために行なわれる手術です。手術方法も改良され、その成績も向上しています。
頸椎固定術(けいついこていじゅつ) 進行した関節リウマチでは、第1、第2頸椎(けいつい)の環軸関節(かんじくかんせつ)という部分に亜脱臼がおこり、脊髄(せきずい)を圧迫することがあります。変形がひどくなると、脊髄まひや呼吸まひをおこす可能性があり、脊椎(せきつい)を固定する手術が行なわれることがあります。
その他 変形による痛みのひどい関節を固定する手術、断裂した腱を縫い合わせたり移植したりする手術、変形した関節によって圧迫された神経を解放する手術なども行なわれることがあります。
●具体的な治療
関節リウマチの診断が確実で、活動性の関節炎があれば、抗リウマチ薬の服用が必要です。抗リウマチ薬によって関節炎を十分に抑えることができれば、骨が破壊されるのを防ぐこともできます。
場合によっては、ステロイド薬も併用します。抗リウマチ薬が効く場合でも、使用を完全に中止すると、また悪化することが多く、少ない量でも使用を続けるほうがよいようです。
使用した抗リウマチ薬が効かなければ、ほかの種類の抗リウマチ薬に変えます。非ステロイド抗炎症薬は、関節痛を軽くするために服用しますが、抗リウマチ薬が効くなら、その服用量を減らすか、中止します。
なお、抗リウマチ薬を服用中は、血液検査や尿の検査を1~2か月に1回は行ない、胸部X線検査も年に1回は行なうほうがよいのです。
このような治療を行なっても、関節の破壊が進んだ場合は、骨関節の機能を再建するために手術を行ないます。

◎基礎療法とリハビリテーション
養生としては、つぎのことがらに注意しながら進めます。
●全身の安静
関節リウマチは、体力を消耗する病気の1つで、病気を抑えて生活していくには、体力の低下を防ぐ努力が必要です。それには、過労を避けること、心身両面のリラクゼーションをはかること、偏食を避けることなどが重要になります。
関節が腫れて熱をもっている場合は、その関節を安静にします。微熱が続いたり、食欲がなくなって体重が減るような場合は、全身の安静も必要で、入院が必要な場合もあります。
●関節の安静と運動療法
関節の安静には、手首、肘、膝は関節を伸ばした状態、足首は直角に曲げた状態に保つよう心がけます。また、関節に無理な力がかからないような配慮が必要です。
ただし、痛い関節を長期間放置しておくと、関節が動かなくなりますので、運動療法もたいせつです。
安静と運動のバランスがたいへんにむずかしいのですが、ふつうは午後になるとこわばりもとれ、関節痛も軽くなりますので、このときに適切な運動を行なうようにします。
原則的には、関節の変形を防ぐために、つぎのようなことを、きちんと行なうことがたいせつです。
①すべての関節を、1日数回、思いきり伸ばしたり曲げたりする(関節可動域の維持、改善)。
②膝に関節痛のある人は、膝の上側にある筋肉(大腿四頭筋(だいたいしとうきん))の筋力を強くする運動を行なう(筋力の維持、改善)。
③足の関節痛のある人は、ゆったりとした靴をはくようにする。
④肥満した人は、できるだけすみやかに減量し、標準体重に近づける。
⑤関節が変形しそうになったら、曲がる方向と逆の方向の運動を行なう。
●装具療法
手指、足指の変形を防ぐために、装具が用いられることがあります。また頸椎(けいつい)が不安定になった場合は、外出時に頸椎カラーをつけるようにします。
関節の変形のため、身のまわりの動作が不自由になった場合のために、レバー式の水道栓(すいどうせん)、長柄つきのブラシなど、さまざまな自助具が販売されているので、活用できます。
しかし、早くから自助具の助けをかりてしまうと、逆に関節の機能低下を早めることもありますので、注意が必要です。
●食事療法
関節リウマチによい食品とか悪い食品というものはとくにありません。偏食を避け、バランスのよい食事をとるようにしましょう。
とくに女性は、貧血や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)(「骨粗鬆症」)になりやすいので、鉄分やカルシウムの多い食品は必ずとるようにしましょう。
◎妊娠と出産について
関節リウマチは、妊娠可能な年齢の女性に多く、妊娠や出産がしばしば問題になります。
妊娠を希望する場合は、できれば症状が安定した時期に、抗リウマチ薬を中断して、計画妊娠を行なうほうがよいと思われます。主治医とよく相談してください。
メトトレキサートなどの免疫抑制薬は胎児(たいじ)に影響がある可能性を否定できません。しかし、注射金剤など、よく使われる抗リウマチ薬で、胎児に重い障害が現われたという例はなく、妊娠がわかった時点で使用を中止すればよいと考えられます。
妊娠中は、関節リウマチの症状が軽くなるのがふつうです。多くの場合は、薬の服用がいらなくなります。妊娠中は抗リウマチ薬は飲まず、妊娠早期、晩期には、非ステロイド抗炎症薬も服用しないようにします。
妊娠中で関節炎が強い場合に、比較的安全に服用できる薬は、少量のステロイド薬です。
ただ、関節リウマチは、出産後に再燃したり、悪くなったりする場合が多いため、出産後は、できれば早くから治療を再開します。このとき使用される薬剤によっては、母乳での授乳を中止する必要もあります。