班女(読み)ハンジョ

デジタル大辞泉 「班女」の意味・読み・例文・類語

はん‐じょ〔‐ヂヨ〕【班女】

班婕妤はんしょうよのこと。
謡曲四番目物世阿弥作。恋する吉田少将の残して行った扇を持った遊女花子はなごが、物狂いとなって都へ上り、少将に再会する。
三島由紀夫戯曲モチーフとする1幕の近代劇。昭和30年(1955)「新潮」誌に発表。初演ドナルド=キーンが翻訳した英語版で、昭和32年(1957)、著者自身の演出により東京の中央公論社ギャラリーで上演された。「近代能楽集」の作品の一つ。

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精選版 日本国語大辞典 「班女」の意味・読み・例文・類語

はん‐じょ‥ヂョ【班女】

  1. [ 一 ] 中国、前漢の成帝の宮女、班婕妤(はんしょうよ)をいう。
  2. [ 二 ] 謡曲。四番目物。各流。世阿彌作。美濃野上の宿の遊女花子(はなご)は、東国へ下る途中の吉田少将と契ってから、形見に取り交わした扇を見ては引きこもりきりなので、ついに宿の長(おさ)は彼女を追い出してしまう。その秋帰洛して賀茂神社参詣した吉田少将は、来合わせた班女という狂女の持っていた扇から、彼女を花子と知り、夫婦の契りを取りもどす。

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改訂新版 世界大百科事典 「班女」の意味・わかりやすい解説

班女 (はんじょ)

能の曲名。四番目物。狂女物。世阿弥作。シテは遊女花子(はなご)(後に狂女)。美濃の野上(のがみ)の宿(しゆく)の遊女花子は,宿に泊まった吉田少将(よしだのしようしよう)と深く契って以来,互いに取り交わした扇にばかり見入って他の客の席に出ないので,女主(あるじ)(アイ)から追い出される。再び野上に来た少将(ワキ)はそのことを知ったが,花子の行方はわからない。都に帰った少将が賀茂の社へ参拝すると,若い狂女(後ジテ)が来かかる(〈カケリ等〉)。その狂女は,漢の班捷舒(はんしようじよ)の扇の故事から班女と呼ばれていた。班女は恋人の扇を胸に抱いて再会を夢み,うつつ無いていで舞を舞ったりするのだった(〈クセ・中ノ舞または序ノ舞〉)。少将が見ると,まぎれもない花子なので,従者ワキヅレ)に命じて花子を呼び寄せ,取り交わした証拠の扇を見せると狂気も去り,ふたりはもとの契りを結ぶのだった。浮き浮きと舞い戯れる一般の狂女物とは違い,恋慕の主題を一貫させて遊女のひたむきな心根を描き,濃艶な趣がある。扇が美しく筋を運ぶ役目を果たしている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「班女」の意味・わかりやすい解説

班女
はんじょ

能の曲目。四番目物。五流現行曲。漢の成帝の宮女班婕妤(しょうよ)(班女)が君寵(くんちょう)の衰えたわが身を秋の扇に例えて詩をつくったという故事を踏まえ、遊女の濃艶(のうえん)、哀切な恋を描いた世阿弥(ぜあみ)の名作。美濃(みの)国野上(のがみ)の宿の遊女、花子(はなご)(前シテ)は、恋人と愛の誓いに取り交した扇を抱いて他の客の前に出ないので、女主人(アイ)に追い出される。花子の流浪を聞いた恋人の吉田少将(ワキ)が、男女縁結びで名高い京都の糺(ただす)の社(やしろ)に参詣(さんけい)していると、捨てられた女を意味する秋の扇、中国の故事にかけて班女とあだ名される狂女となった花子(後シテ)も、祈りを捧(ささ)げにやってくる。都の男(現在の演出では少将の供の男――ワキツレ)が、班女の扇はどうしたとからかうと、花子は男の無情を嘆きつつも、会いえぬ恋のせつなさを訴えて舞う。やがてその扇が縁となって、花子は少将と再会して終わる。『隅田川』の父も吉田少将ということから、後世の文芸、演劇では、この二つをいっしょにした趣向が凝らされた。また三島由紀夫の『近代能楽集』に「班女」がある。

[増田正造]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「班女」の意味・わかりやすい解説

班女
はんじょ

能の曲名。四番目物 (→雑物 ) 。狂女物。各流現行。世阿弥作。美濃国野上の宿の遊女花子 (はなご。シテ〈若女の面,唐織,着流〉) は,東国へ下る途中に立寄った吉田少将を慕い,形見に取りかわした扇に眺め入って客席に出ないため,宿の女主人 (間狂言〈美男鬘,縫箔,女帯〉) に追出される (中入り) 。秋になり東国から帰途の吉田少将 (ワキ〈風折烏帽子,長絹または単狩衣,白大口〉) は花子をたずねるが,すでに花子の姿はない。都へ帰った小将が賀茂の社に参詣すると,おりしも班女という狂女 (後ジテ〈唐織着流脱下〉) も祈願している。少将の供人 (ワキヅレ) が狂ってみせよというと,それをたしなめながらも思慕の情が高まった花子は,形見の扇を手に狂おしく舞う (カケリ,中之舞) 。小将はその扇を見て班女が花子だと知り,夫婦の契りを結ぶ。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「班女」の解説

班女 はんじょ

世阿弥(ぜあみ)作の同名の能に登場する遊女。
美濃(みの)(岐阜県)野上(のがみ)の宿(しゅく)で,遊女花子(はなご)は都の吉田少将とちぎり,再会を約して扇を交換した。以来,扇をながめくらし,班女とあだ名される。ついに狂女となり都をさまよいあるくが,少将と再会,狂気もきえる。作品は漢の宮女班婕妤(はん-しょうよ)(班女)の扇の故事をふまえた物狂能。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「班女」の解説

班女
はんじょ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
寛文2.8(江戸・いにしへ座)

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