英語のキャラバンcaravanの訳。キャラバンはペルシア語のカールワーンkārwān(またはカイラワーンQairawān、カイルワーンQairuwān)からきたものである。ただし、アラビア人もペルシア語からこのことばを借りたので、ヨーロッパへはアラビア語を通して広まったのであろう。
隊商は通商と聖地巡礼などを目的とするが、一つの隊商で二つの目的を兼ねた場合も多かった。アラビア語で隊商のことをカーフィラQa-filaというが、アフリカの西スーダンのニジェール川流域で産する黄金と、サハラ砂漠、ことにタガーザー地方の岩塩とを交易する隊商は、アラビア人によってアザライまたはタガラムとよばれ、中世から20世紀初めまで続いた。アジアやアフリカの荒野を旅する商人は、さまざまな危険を覚悟しなければならなかったので、多数で団体をつくり、これらに備える必要があった。隊商はきわめて古い時代から行われていた風習に違いないが、文献では『旧約聖書』「創世記」に、ヨゼフが兄たちによって空井戸に投げ入れられたとき、ラクダに香物、乳香、没薬(もつやく)などを負わせてエジプトに行く途中の一群の商人に救われた、とあるのなどが最古の記録であろう。
隊商は地方によって一様ではないが、ラクダ、ウマ、ヒツジ、ラバ、トナカイ、イヌなどを運搬や乗用に利用し、モンゴリアでは牛車をも使った。また隊商路に沿って、その宿泊の施設もかつては多数あった。これらをキャラバン・サライとよぶが、サライsarāyもペルシア語で、家とか宿などの意味である。隊商宿は、周りに防壁を巡らし、中庭に井戸を掘り、それを囲んで多数の小室のある2、3階づくりの建物を巡らしたもので、必需品を売る商店も、防壁にあけられた大門の内側に並んでいた。隊商に従事した民族として有名なのは、アラビア人、ギリシア人、シリア人、ペルシア人、ソグド人(中国では胡(こ)人とよんだ)、トルコ人、モンゴル人、漢民族、ユダヤ人など多数で、隊商路も四通八達していた。そして、その上を往来する無数の隊商の活動によって、東西の物資が交流し、文化も伝播(でんぱ)された。隊商路のなかでもっとも有名なものは、地中海岸から中央アジアを経て東アジアに至るシルク・ロードであろう。交通機関の発達とともに、現在では、もはや昔のような隊商はほとんどみられなくなった。
[前嶋信次]
ドイツの作家ハウフの創作童話。『1826年度童話年鑑』として発表された。砂漠を旅する隊商に1人の男が途中から加わり、休息の折々に彼と5人の商人が順番に物語をする、いわゆる枠物語の作品で、『千一夜物語』の影響がうかがえる。「こうのとりになったカリフの話」「幽霊船の話」「切り落とされた手の話」「ファトメの救出」「小さなムックの話」「にせ王子のメルヘン」の六編からなるが、「カリフの話」と「ムックの話」はしばしば独立した童話として扱われる。しかし六編のうち二編に、途中から仲間になる男、義賊オルバサンが登場し、「カリフの話」はほかならぬこのオルバサンが物語るのだから、本来はまとまった一つの作品として読むべきである。豊かな空想と伝奇的要素、異国趣味がみごとに一体となって作品の効果を高めている。
[関 楠生]
『高橋健二訳『隊商』(岩波文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ラクダや馬などの家畜に荷を積んで移動する商人や巡礼,旅人の隊列。語源はペルシア語。西アジア,中央ユーラシアをはじめとする内陸部では,近代に至るまで行路の安全と効率を図るための主要な移動手段であった。隊商は草原や砂漠,山岳を越え,都市やオアシスを結びつけるルートを縫って縦横に行き交った。ルート沿いの集落や都市には隊商宿(キャラヴァンサライ)が設置され,そこが地域間貿易の拠点となり,それらがつらなって内陸遠距離貿易や文化交流を成り立たせた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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…ペルシア語カールバーンkārvānに由来し,隊商を意味する。アラビア語ではイール‘īr,カーフィラqāfila,キタールqiṭārという。…
※「隊商」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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