離宮八幡宮(読み)りきゆうはちまんぐう

日本歴史地名大系 「離宮八幡宮」の解説

離宮八幡宮
りきゆうはちまんぐう

[現在地名]大山崎町大山崎

天王てんのう山南麓、旧西国街道に面して南面する。神域東門横に、「従是西八幡宮御神領守護不入之所」の石碑が立つ。祭神は酒解さかとけ大神・応神天皇、田心姫たごりひめ命ら姫三神。旧府社。「油の神様」として著名。当社の歴史は大きく二つに分れる。付近の住民がよど川を隔てた対岸山城石清水いわしみず八幡宮の神人として、とくに油座を結成して活躍した室町時代までの時期と、離宮八幡宮としてしだいに石清水から独立していった戦国時代以降とである。

〈京都・山城寺院神社大事典〉

〔大山崎神人〕

石清水八幡宮は貞観元年(八五九)行教が豊前国宇佐うさ(現大分県宇佐市)から勧請したが、宇佐より上京の途中「山崎離宮之辺」に寄宿し、示現を受けておとこ山の地へ奉安された(石清水八幡宮護国寺略記)。こうして勧請の当初から石清水八幡宮と深い関係をもつが、内殿灯油を調進していた神人が平安時代後期以降山崎を本拠に、その身分によって関所勘過などの特権を受けしだいに商業活動を始めるに至った。正治二年(一二〇〇)一二月二三日、後鳥羽上皇水無瀬みなせ殿(現大阪府島本町)へ伺候した藤原定家はその夜は「山崎油売小屋」に泊まり(明月記)、以後定家は「例の宿所」とよんで定宿としているが、油屋はすでに著名となりつつあったのであろう。貞応元年(一二二二)一二月美濃国司および六波羅探題は、「八幡宮寺大山崎神人」の美濃国不破ふわ(現岐阜県関ヶ原町)関料免除を認めている(離宮八幡宮文書)。現存文書ではこれを最初として、応長元年(一三一一)には伏見上皇院宣をもってよど(現京都市伏見区)河尻かわじり(現兵庫県尼崎市)渡辺わたなべ(現大阪市中央区)兵庫ひようご(現兵庫県神戸市)以下諸関津料の免除を認め、以後鎌倉幕府・室町幕府も神人の特権を保証した(同文書)。この結果神人は灯油の原料である荏胡麻を播磨・備前・阿波・伊予・肥後などから優先的に仕入れ、海路・陸路とも津料・関料を取られることなく山崎に搬入し、油器(油木)とよばれる独自の製油器で油に搾り、京都・山城・近江・丹波・摂津・美濃・尾張・和泉・河内など一〇ヵ国に独占的な販売権をもった。そうした特権の代償は日々の内殿灯油を納入するほか、石清水八幡宮の重要な神事の一つである毎年四月八日の日使神事の頭役を勤仕するなど奉仕を行った。

大山崎神人は鎌倉後期から京都に進出して居住したほか、右の営業権に属する地方にも大山崎神人がおり、日使神事頭役を勤めている(蜷川家古文書)

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「離宮八幡宮」の意味・わかりやすい解説

離宮八幡宮
りきゅうはちまんぐう

京都府乙訓(おとくに)郡大山崎(おおやまざき)町に鎮座。応神(おうじん)天皇、酒解神(さかとけのかみ)、姫三神(田心姫(たごりひめ)、市杵島姫(いちきしまひめ)、湍津姫(たきつひめ))を祀(まつ)る。社地付近が嵯峨(さが)天皇の河陽(かや)離宮であり、石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)勧請(かんじょう)のとき、その神霊が離宮にとどまったことにより、社殿が造営されて社名の由来となった。この社地は軍事的要地であったこと、油座(あぶらざ)の特権を得た神人(じにん)が活躍したことで知られる。旧府社。例祭日の4月3日と9月15日には油立(ゆたて)の行事がある。社蔵の文書は多く、油座の遺物もある。

[二宮正彦]

『魚澄惣五郎著『離宮八幡宮史』(1933・星野書店)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「離宮八幡宮」の解説

離宮八幡宮
りきゅうはちまんぐう

大山崎離宮八幡宮とも。京都府大山崎町西谷に鎮座。旧府社。祭神は応神天皇・酒解(さかとけ)神・田心姫(たごりひめ)神・市杵島姫(いちきしまひめ)命・湍津姫(たぎつひめ)命。859年(貞観元)宇佐から八幡神が勧請されたとき最初に鎮座した場所に祭られたのが創祀と伝える。八幡自体は式内社ではないが,山上の天王社と摂社の酒解社は式内社で,両社は八幡宮が勧請される以前から信仰されていた。陸上河川交通要衝として信仰を集めた。中世には油座が組織されて奉仕を行うとともに,油座の特権を得て荏胡麻(えごま)の仕入・製造・販売などを独占する大山崎神人(じにん)の拠点となった。例祭は9月15日。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の離宮八幡宮の言及

【大山崎[町]】より

…工場の進出も著しく,日立製作所,サントリーなどの工場がある。油の神様として知られる離宮八幡宮,妙喜庵,宝積寺など古社寺が多い。東海道本線,阪急京都線,国道171号線,名神高速道路が通る。…

【大山崎油座】より

…大山崎の地(現,京都府乙訓郡大山崎町)を本拠地として,鎌倉から室町時代を中心に繁栄した大山崎油神人(あぶらじにん)の座。現在の離宮八幡宮に油座関係文書である《離宮八幡宮文書》が所蔵されている。それによると,1222年(貞応1)のものが初見であるが,《明月記》正治2年(1200)の条に藤原定家が山崎の油売の小屋に宿泊したことが見え,平安時代後期の作とされる《信貴山縁起絵巻》飛倉の巻は,校倉に米俵を多く蓄え,問丸の業務を務め,油搾りの締木とかまどを持ち,エゴマ油を製造販売する〈石清水八幡宮の大山崎住神人〉である〈山崎長者〉の姿を伝えている。…

※「離宮八幡宮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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