雪祭(読み)ユキマツリ

デジタル大辞泉 「雪祭」の意味・読み・例文・類語

ゆき‐まつり【雪祭(り)】

長野県下伊那郡阿南町新野にいの伊豆神社で、その年の豊作を祈って正月14日から15日にかけて行われる祭り田楽や古風な猿楽などが夜を徹して行われる。 新年》
雪の多い地方で、さまざまな雪像や氷の彫像をつくって競ったりする観光行事。2月上旬に北海道札幌市で行われるものなどが有名。 冬》

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精選版 日本国語大辞典 「雪祭」の意味・読み・例文・類語

ゆき‐まつり【雪祭】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 長野県下伊那郡阿南町新野の伊豆神社で、毎年正月一四日、その年の豊作を祈って行なわれる祭。《 季語・新年 》
    1. [初出の実例]「雪まつり 三州北設楽の山間の村々に、行はれてゐる初春の祭」(出典:春のことぶれ(1930)〈釈迢空〉)
  3. 雪国で、雪像や氷の彫像の巧拙を競いあったりする観光の祭。特に、北海道の札幌市で行なわれるものが有名。

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改訂新版 世界大百科事典 「雪祭」の意味・わかりやすい解説

雪祭 (ゆきまつり)

長野県下伊那郡阿南町新野(にいの)の伊豆神社の祭り。1月14日から15日にかけて夜を徹して行われる。〈御神事〉とか〈田楽祭〉と呼ばれるように小正月にその年の豊作を祈願する祭りで,雪を豊年の吉兆とみて神前に供え,雪を投げる習慣などがある。1926年に折口信夫(おりくちしのぶ)がこれを見て〈雪祭だね〉と感想を述べたことから一般に雪祭と呼ばれるようになった。伊豆神社は室町中期に伊豆から移住した伊東氏がまつったものといい,祭りは領主の関氏が郷里,伊勢の〈田の神祭〉を模して1454年(享徳3)に始めたと伝える。

 祭りの内容は中世的色彩が濃く,一種の芸能祭ともいうべきもので,新野の氏子総出で行う。諸役はほぼ世襲で,演ずる曲目も役ごとに決められている。内輪衆(うちわしゆう)といわれる社人は,宗教的色彩の濃い《順(じゆん)の舞》《ろん舞》《さいほう》などを演じ,旧領主の家臣の資格で勤める上手衆(わでしゆう)は《びんざさらの舞》のような田楽踊を演じ,平(ひら)と呼ばれる一般の氏子は能がかった《翁》《天狗》《競馬(きようまん)》などを演じる。祭りに奉仕する奇数年齢の少年たちは後立(ごだつ)と呼ばれ,田楽の小鼓(しててん)を,市子(いちこ)と呼ばれる奇数年齢の少女は巫女(みこ)の役を勤める。13日に仮面の化粧(塗りかえ)などの準備をし,祭りは14日の午後から15日朝まで夜を徹して行われる。全体は神楽殿,本殿,庭の儀と3段階に分かれている。14日夕刻まで神楽殿で諸役による《びんざさらの舞》《ろん舞》《万歳楽》《順の舞》などが舞われ,次に社殿裏山にある伽藍(がらん)様の祠に参詣さんけい)するガラン祭がすむと,本殿で《中啓(ちゆうけい)の舞》《万歳楽》《神降ろし》など呪師(しゆし)の祈禱芸と思われる演目が演じられ,夜半の庭の儀は大松明(おおたいまつ)を焚きあげた神前の庭で庭能(にわのう)と呼ばれる田楽や猿楽系の能《さいほう》《翁》《松かげ》《海道下り》《神婆(がんば)》《八幡》のほか簡単な田遊などが次々に演じられる。

 なお,1950年に始められた札幌市大通公園と真駒内における巨大な雪像群の展観は雪祭と呼ばれて毎年2月に行われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雪祭」の意味・わかりやすい解説

雪祭
ゆきまつり

長野県下伊那(しもいな)郡阿南(あなん)町新野(にいの)の伊豆神社で1月14日から15日にかけてに行われる祭り。「新野の雪まつり」ともいう。雪祭の名は、雪を豊年の予兆とみて、かならず雪がなければならぬとされているところから出ている。もとは二善(にぜん)寺のお祭、田楽(でんがく)祭などとよばれ、明治以前は伊豆神社の別当寺である二善寺の住僧も携わった。祭りの参与者は氏子で、内輪衆(うちわしゅう)、上手(わで)衆、平(ひら)、後立(ごだつ)、市子(いちこ)という組織があって特定の役を勤める。以前は1月11~13日に、祭具や仮面を伊豆神社から諏訪(すわ)神社へ移すお面おろし、祭具の整備をする笠(かさ)張り、禊(みそぎ)をするお滝入りなどの行事があったが、現在はすべて13日に行っている。14日午後に、諏訪神社より伊豆神社へ御神幸をして、神楽(かぐら)殿や拝殿で「昼田楽(ひるでんがく)」「論舞(ろんまい)」「万歳楽(まんざいらく)」「宣命(せんみょう)」「順の舞」「中啓の舞」などがあり、次に境内の正月飾りを集めてつくった大松明(たいまつ)を立て、火をともし、庭の舞に移る。「さいほう」「本座田楽」「もどき」「新座田楽」「競馬(きょうまん)」「牛」「翁(おきな)」「松影」「しょうじっきれ」「海道下り」「神婆(かんば)」「天狗(てんぐ)」「八幡(はちまん)」「しづめ」「鍛冶(かじ)」「田遊(たあそび)」などの諸芸能が夜を徹して行われる。雪祭は、神楽、田楽、面形(めんがた)の舞、田遊などが結び付いた修正会(しゅしょうえ)風の神事で、これらの諸芸能は芸能史の貴重な史料となっている。国指定重要無形民俗文化財

[渡辺伸夫]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雪祭」の意味・わかりやすい解説

雪祭[新野]
ゆきまつり[にいの]

長野県南端部阿南町新野の伊豆神社で 1月14~15日に行なわれる祭り。中世的な田楽舞(→田楽)や翁猿楽(→猿楽)などが夜通し演じられる。14日の夕方,諏訪神社から伊豆神社へ,仮面を入れた面箱の行列があり,午後10時半頃から伽藍様(地主神)の祭りがある。15日午前0時を過ぎると,まず庁屋の板壁を棒で激しく打ちつける乱声(らんじょう)があり,恵比寿・大黒人形を乗せへさきに火をともした宝船をひもでたぐり寄せて大松明に点火する。その後,社殿から神社の庭に場所を移して,芸能が演じられる。まず始めに,右手にマツ,左手にうちわを持ち,男根型を女性に押しあてたりするサイホウが,続いてサイホウと同じいでたちで逆のことを行なうモドキが登場し,その後,張りぼてのウマを付けた競馬(きょうまん)とお牛に乗った宮司による弓射,翁,松影,正直切による翁舞,爺婆と娘役が性的所作をする神婆,太郎,次郎,三郎の天狗の鬼舞などと続く。最後は,志津目が獅子をしずめて朝を迎える。一連の演目が終わると,社殿奥では,太鼓に稲束を載せて田遊びが行なわれる。国指定重要無形民俗文化財。

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デジタル大辞泉プラス 「雪祭」の解説

雪祭

長野県下伊那郡阿南町の伊豆神社に伝わる祭り。毎年1月に行われ、古くは「御神事」「田楽祭」とも呼ばれた。雪祭の名称は大正期に民俗学者の折口信夫が当地を訪れて以来のもの。雪を豊年の予兆として神前にそなえ、徹夜で舞いや田遊びなどを演じて奉納する。1977年、国の重要無形民俗文化財に指定。

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世界大百科事典(旧版)内の雪祭の言及

【もどき】より

…たとえば御神楽(みかぐら)の人長(にんぢよう)と才男(さいのお),能の《》と《三番叟》を,神ともどきの関係としてみることができるし,舞楽の《二ノ舞》は,《安摩(あま)》の答舞の形をとって《安摩》をまねて舞われるが,これは《安摩》に対するもどきである。民俗芸能では,長野県下伊那郡阿南町新野(にいの)の雪祭に登場する〈さいほう〉という神の後に〈もどき〉という面役が〈さいほう〉の所作をおもしろおかしく演じてみせ,静岡県磐田郡水窪(みさくぼ)町の西浦(にしうれ)田楽では,《地固め》《つるぎ》《高足(たかあし)》など庭清めの演目に〈もどきの手〉があり,繰り返し前曲を演じる。もどき的性格は,芸能における役柄や演目だけでなく,祭りの行事次第にもみられる。…

※「雪祭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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