呪師(読み)ジュシ

デジタル大辞泉 「呪師」の意味・読み・例文・類語

じゅ‐し【呪師】

《「しゅし」とも》
まじないをする職。呪禁じゅごん師。
法会に際して、加持祈祷きとうなど密教的な行法をする僧。法呪師。ずし。
法会のあとなどに2の行う行法の威力をわかりやすく演技で示す者。寺院に属する猿楽法師が担当した。呪師猿楽。のろんじ。ずし。

ず‐し【呪師】

じゅし(呪師)」に同じ。
「―の松犬と類ひせよ」〈梁塵秘抄・二〉

のろん‐じ【呪師】

じゅし(呪師)3

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精選版 日本国語大辞典 「呪師」の意味・読み・例文・類語

じゅ‐し【呪師・咒師】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「しゅし」とも )
  2. 陀羅尼(だらに)を誦して加持祈祷をした法師。呪禁(じゅごん)の師。ずし。
    1. [初出の実例]「法義が家の犬悪(わろ)し。亦、呪師有て、呪神に令打しむ」(出典:今昔物語集(1120頃か)七)
  3. 法会のあとに、さらに呪法の内容を分かりやすく、猿楽や田楽に近い形で演じた者。華麗な装束を身につけ、鼓や鈴を手に持ち、唱人の歌に合わせて敏速な所作で勇壮に舞った。ずし。のろんじ。
    1. [初出の実例]「人々相共遊東光寺、令呪師」(出典:左経記‐寛仁元年(1017)八月六日)

のろん‐じ【呪師・咒師】

  1. 〘 名詞 〙じゅし(呪師)
    1. [初出の実例]「今夜猿楽見物許之見事者。於古今有。就中咒師」(出典:新猿楽記(1061‐65頃))

ず‐し【呪師】

  1. 〘 名詞 〙 寺院で祈祷・呪法を行なった僧。平安末期ごろから華美な服装をして、仏事の余興に呪法の内容を種々の技芸で表わすようになった。じゅし。
    1. [初出の実例]「ずしのわらはの御おぼえなるに、給ひなどし給けり」(出典:今鏡(1170)六)

まじない‐しまじなひ‥【呪師】

  1. 〘 名詞 〙 まじないの術を職業とする人。まじないの術に巧みな人。呪禁(じゅごん)の師。まじないて。〔書言字考節用集(1717)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「呪師」の意味・わかりやすい解説

呪師 (しゅし)

仏教行事における僧侶の役名。旧年の罪障を懺悔(ざんげ)して穢れを払い,当年の安穏豊楽を祈願する古代からの伝統行事に悔過会(けかえ)がある。呪師はその悔過会において重要な位置を占める役柄で,密教的な局面あるいは神道的な局面などを宰領する。すなわち,法会の場への魔障の侵入を防ぎ,護法善神を勧請(かんじよう)して,法会の円満成就のための修法を行う。たとえば,悔過会の代表例にあたる東大寺修二会(しゆにえ)(通称,御水取)では,4種の重要な役割が設けられており,通常,上席から和上(わじよう),大導師(だいどうし),呪師,堂司(どうつかさ)と称する。和上は戒律を専門とし,大導師は法要全体を統括し,堂司は庶務や対外折衝にあたる。呪師は,目に見えない魔障や善神に対処する役割を持つので,その挙措動作や声量も迫力を要し,気力を欠くことができない。東大寺修二会では,連日の呪禁(じゆごん)作法に派手な所作や声高の声明(しようみよう)で活躍するが,〈水取り〉〈走り〉〈達陀(だつたん)〉などが行われる特別の日には,その行事を指揮する。悔過系の行事における呪師の役割は,いずれの場合もほぼ共通しているが,法隆寺西円堂の修二会など,節分の鬼追いに関わる行事では,鬼に魂を吹きこむ役を兼ねることもある。11世紀半ばごろには寺院に属して法会の余興を務めていた猿楽者の一部が,呪師の所作を代行するようになった。これを呪師猿楽といい,13世紀ごろまで観賞芸能として貴族層に受け入れられた。今日の《式三番》には〈呪師走り〉の名が残されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「呪師」の意味・わかりやすい解説

呪師
じゅし

「しゅし」「すし」「ずし」ともいう。僧侶(そうりょ)の勤める仏教上の呪師と、猿楽(さるがく)者の勤める呪師とがある。前者は法呪師といわれ、修正会(しゅしょうえ)・修二会(しゅにえ)において道場の結界(けっかい)や香水・護摩などの密教的行法(ぎょうぼう)をつかさどる。この法呪師の行法の威力を一般参詣(さんけい)人に対して具体的に演技化して示したのが呪師猿楽である。呪師の演技は「走り手」とよばれ、その曲は一手、二手と数えられる。10余手あったが、今日知られている曲には剣手、武者手、大唐文殊手、とりばみなどがある。呪師は寺院に属し貴族の庇護(ひご)を受け、華美な装束に兜(かぶと)をつけて、鼓の囃子(はやし)で鈴を振りながら舞った。平安時代には華やかであった呪師も、鎌倉時代に入ると漸次衰運の道をたどるようになった。

[高山 茂]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「呪師」の意味・わかりやすい解説

呪師
じゅし

平安時代から鎌倉時代にかけて行われた芸能およびその演者。「しゅし」「すし」「ずし」ともいう。大寺院の修正会 (しゅじょうえ) ,修二会 (しゅにえ) などの仏教行事の行法を司る役僧の呪師が,その行法をわかりやすくするために演技化し,これに寺院に隷属していた猿楽法師が加わり,次第に鑑賞的芸能となり,やがて呪師猿楽となった。呪師の芸は「走り」と呼ばれ,敏速軽快に動いたとされている。

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普及版 字通 「呪師」の読み・字形・画数・意味

【呪師】じゆし

呪禁師。

字通「呪」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の呪師の言及

【呪師猿楽】より

…平安時代,寺院に属し,法会の際に呪師の役を代行した猿楽。東大寺,興福寺等の大寺では,春を迎え,新しい年の太平を祈る修正会(しゆしようえ),修二会(しゆにえ)の勤行の際,法呪師(呪師)と呼ぶ役僧が,仏法守護の神々を勧請して,結界,鎮壇,鎮魔,除魔等の密教的な行法を受け持った。…

【寺事】より


[寺事と法要]
 寺事の中核となる法要は,何曲かの声明(しようみよう)と,特定の修法(しゆほう)や読経などを組み合わせて構成されている。その組合せ方によって種々の意義を表明しうるわけであり,これに礼拝行道(ぎようどう),呪法(呪師)などの所作を加えて,より意義を鮮明にし,儀礼としてのかたちを整えている。数多くの法要形式の中には,8世紀にすでに完成していたものもあり,現代の制作になる新しい法要形式もある。…

※「呪師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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