北海道南西部、石狩(いしかり)平野の西部を包括する近代的総合都市。道庁・石狩振興局所在地。1922年(大正11)市制施行。当時の人口12万7000。1941年(昭和16)円山(まるやま)町、1950年(昭和25)白石(しろいし)村、1955年琴似(ことに)町と札幌、篠路(しのろ)の2村、1961年豊平(とよひら)町、1967年手稲(ていね)町を編入した。市域の拡大とともに人口も編入時ごとに、1941年21万、1950年31万、1955年40万、1961年62万、1967年88万と増加した。1972年川崎・福岡両市とともに政令指定都市となり、人口は104万となった。それに伴って中央、東、西、南、北、豊平、白石の7区に区分された。さらに1989年(平成1)には白石区から厚別(あつべつ)区、西区から手稲(ていね)区が分区し、1997年豊平区から清田区が分区、現在10区からなる。面積は1121.26平方キロメートル、人口197万3395(2020)。中央部は人口漸増。
[奈良部理]
札幌市の背後を構成する山地は主として第三紀安山岩系の手稲山(1024メートル)、藻岩(もいわ)山(531メートル)、円山(225メートル)など市街に接するものと、その背後の余市(よいち)岳、無意根(むいね)山など1000メートル級のものがある。これらの山地を切って流れる豊平川、発寒(はっさむ)川などが形成する扇状地群と、それに続く沖積平野が市の生活舞台になっている。さらに、南東部の支笏(しこつ)泥流の末端である石山凝灰岩層や、表面に降下火山灰層をかぶる月寒(つきさむ)台地、野幌(のっぽろ)丘陵の洪積台地面もその利用が進んでいる。沖積平野は海退を示すいくつかの浜堤列をもち、北の境界となる紅葉山砂丘が最大である。
気候は冷温帯湿潤気候型で、年平均気温8.9℃、年降水量1106.5ミリメートルである(1981~2010年平均)。夏季は20℃以上の日が1か月以上続き、農耕や生活によい影響を与え、また冬には零下10℃以下のこともあるが、厳しい寒さの冬ごもりというよりも、平地で1~2メートル、近郊の山々で3メートル以上になる積雪を利用するスキー、市内に散在するリンクでのスケートなど、冬を楽しむ市民が多い。
[奈良部理]
市名のサッポロはアイヌ語の「サト・ポロ」(乾いた広い土地)に由来する。明治以前にも若干の先覚者による開拓や居住はみられたが、1869年(明治2)開拓使が置かれるようになって本格的町づくりが始まった。開拓判官島義勇(よしたけ)は、人工河川創成(そうせい)川と当時の中央火防線(現在の大通)を基準に東西を丁目、南北を条にした碁盤目状の市街地を設計した。1870年苗穂(なえぼ)、丘珠(おかだま)、円山に96戸が入植し、1875年防衛と開拓のため、琴似と山鼻(やまはな)にそれぞれ屯田兵2個中隊が駐屯し開拓が進んだ。翌年、開拓指導者育成機関である札幌農学校(現、北海道大学)が設置され、一方、札幌麦酒(ビール)醸造所など食品、木材、亜麻(あま)に関する官営工場が創設され、しだいに都市的構造を明確にしていった。1886年北海道庁が置かれ、市制施行後から昭和初年にかけて都市としての機能増進のため、1927年(昭和2)市電、1930年市バスが運行、ガスや水道事業も図られ、他方、企業誘致や公共施設の整備などが進み、人口の流入も増大した。
[奈良部理]
屯田兵による開墾から始まった札幌も都市化が進むにつれて都市型産業へと移行してきた。1995年(平成7)の産業別人口をみると、総従業員数84万5800の構成比は第一次産業0.5%、第二次産業20.3%、第三次産業77.9%となっている。
農業では、都市化により水田や畑地の減少が著しい。丘珠を中心にした北区や東区のタマネギ、手稲区山口の砂丘地帯のスイカ・メロン、南区藤野、簾舞(みすまえ)に残るリンゴなどの栽培に、かつての札幌特産の農産物の伝統が守られているが、リンゴは都市化の進展で著しく減少し、サクランボが栽培されている。ほかにホウレンソウ、レタス、カボチャなどの野菜と花卉(かき)などの都市型農業が盛んである。また隣接する北広島市、石狩市境界近くには、都市向けの牛乳・鶏卵の生産地がある。
工業では、豊平河畔や扇状地末端に立地していた木工、家具、機械修理などの中小工場は、1963、1964年に西区発寒地区に建設された木工、鉄工団地に移転した。西区は、この両団地とJR琴似駅周辺に従来からある食品、醸造、機械工場を含め、全市工業出荷額の3分の1を占めている。しかし東区苗穂駅周辺は、サッポロビール(株)、雪印メグミルク(株)など長い伝統をもつ食品工業と、JR工場とその関連工場を含め、古くからの工業地が残存している。都市型工業としての印刷、出版、自動車修理などは西区、豊平区の国道沿いに遠心移動したものが多い。厚別(あつべつ)区には地域と産業の調和を図った厚別軽工業団地がある。厚別区の札幌テクノパークにはソフトウェアなど情報関連企業約30社が立地している。
第三次産業のうち、商業では卸売商が古くからの南一条通、創成川河畔に残ってはいるが、中小経営が多く、新しいものでは、札幌駅北口近くの繊維、機械、電気関係と、桑園(そうえん)駅付近に集中する繊維、衣料関係が目だっている。小売店はデパートや大型店舗の多い西4丁目を中心として、狸(たぬき)小路、西2丁目通のほかに、地下鉄に付随する地下商店街が地上の店と呼応して一大小売地域を形成している。地下鉄の延長によりそのターミナルや主要駅には大型小売店やデパートが進出し、厚別や琴似地区は副都心的な構造がみられる。札幌駅から西4丁目に至る一帯は業務中心地区で、道内外の銀行、商社、ホテル、および行政官庁の集中するもっとも活気を呈する所となっている。
[奈良部理]
北の拠点札幌と本州との連絡は、新千歳(ちとせ)空港と東京(羽田)空港間約1時間、大阪空港間は1時間半で結ばれ、JR利用でも東北新幹線経由で東京―札幌間は約8時間で達せられる。文字どおり道内の交通の中枢で、JRの函館(はこだて)本線、千歳線、札沼(さっしょう)線の各列車は札幌駅中心のダイヤが編成される。道路交通でも国道5号(函館方面)、12号(旭川(あさひかわ)方面)、36号(室蘭(むろらん)方面)、230号(洞爺(とうや)湖方面)、231号(留萌(るもい)方面)、274号(夕張方面)、275号(雨竜(うりゅう)方面)、453号(支笏湖方面)の諸線、さらに、高速道路も札樽(さっそん)自動車道(小樽(おたる)方面)、道央自動車道(千歳、苫小牧(とまこまい)方面、および岩見沢、旭川方面)がすべて札幌をそのターミナルとしている。なお、丘珠空港は道内のローカル空路の起点となっている。
市内交通では、市民の足として親しまれてきた市電は1系統を残すのみであるが、市営地下鉄東西線、南北線、東豊(とうほう)線がこれにかわってほぼ市内の人口密集地区をカバーしている。碁盤目状街路の不合理是正のため、市外郭を回る環状道路やバイパスによって自動車交通の混雑回避の方法がとられている。従来、市内交通は冬季の積雪による能率ダウンが一つの問題であったが、現在では幹線はもちろん、連絡路線に至るまで機械除雪され、長距離バスやトラックの定期便も通年運行が行われるようになった。
[奈良部理]
北海道大学構内を中心とする一帯で、4世紀の続縄文時代後半の遺物が検出され、また擦文時代9世紀後半の竪穴式住居跡が検出されている。国指定重要文化財に北海道庁旧本庁舎(通称赤れんが)、旧札幌農学校演武場(時計台)、豊平館(開拓使による洋式迎賓館)、北海道大学農学部第二農場、国指定史跡に開拓使札幌本庁舎跡および旧北海道庁本庁舎、琴似屯田兵村兵屋跡があり、明治文化の名残(なごり)をとどめている。また開拓以来の先人の努力の跡が北海道博物館に保存公開されている。1972年冬季オリンピック開催時の会場となった手稲山、大倉山、宮の森シャンツェ、真駒内(まこまない)公園屋内競技場などの諸施設はいまも利用されている。
北海道大学、北海道教育大学、札幌医科大学などの教育施設、北大附属施設の植物園や園内の博物館、三岸好太郎(みぎしこうたろう)美術館、近代美術館、札幌彫刻美術館、札幌市資料館、札幌市交通資料館、円山総合運動場、札幌オリンピックミュージアム、札幌芸術の森などの文化施設がある。円山、中島、大通、月寒の諸公園と市外に広がる緑地帯は市民の厚生、保養の場としてばかりでなく、北国行事として有名な雪まつり、北海道神宮例大祭、ライラックまつりなどの舞台にもなっている。市街西方の藻岩山原始林、円山原始林は国の天然記念物、江別(えべつ)市との境界にある野幌原始林は特別天然記念物に指定されている。南区滝野には国営滝野すずらん丘陵公園がある。円山山麓(さんろく)には札幌の奥座敷定山渓温泉(じょうざんけいおんせん)がある。
[奈良部理]
『『札幌市史』全4巻(1953~1958・札幌市)』▽『高倉新一郎著『さっぽろ物語』(1968・札幌市)』▽『『新札幌市史』8巻全10冊(1987~2008・札幌市)』
北海道の西部に位置する道庁所在地。1922年市制。72年に政令指定都市となり,中央,北,東,南,西,白石(しろいし),豊平(とよひら)の7区を置いたが,89年に白石区から厚別(あつべつ)区,西区から手稲(ていね)区が分区,97年には豊平区から清田(きよた)区が分区し,現在の10区となった。人口191万3545(2010)。市域面積は1121km2で人口100万人以上の大都市の中では全国で最も広い。市街地の大部分は石狩平野南西部の豊平(とよひら)川の扇状地上にあり,南・西部には藻岩(もいわ)山や手稲山が,東には月寒(つきさむ)台地や野幌(のつポろ)丘陵が連なり,北は泥炭地を含む沖積低地となっている。すでに安政年間(1854-60)には和人の移住がみられたが,本格的な集落の成立は北海道開拓使の札幌本府が建設された1869年(明治2)以降である。それに伴って豊平川と石狩川を南北に結ぶ運河創成(そうせい)川を東西の基線,防火帯として設置した後志(しりべし)通り(1881年大通りと改称)を南北の基線として碁盤目状の市街地が建設された。また周辺の平岸(ひらぎし)や丘珠(おかだま),白石などに衛星村落が配置されたほか,道内初の屯田兵村が琴似(ことに)や山鼻地区に設置された。これらの集落は東北諸藩の旧士族を中心に構成され,後に現市域に編入された。1882年に開拓使は廃止され,86年に道庁が設置された。1880年には道内最初の官営幌内鉄道(現,JR函館本線の一部)が手宮(小樽市)~札幌間に通じ,その後1905年には函館本線が,26年には千歳線,35年には札沼(さつしよう)線が全通した。鉄道網の発達につれて開拓前線は内陸へ拡大し,道内の中心地としての機能も函館市から小樽市,さらに1930年代からは札幌市へと移った。第2次大戦後は本州からの各種事業所や中央官庁の出先機関の進出があいついで,行政・経済機能が拡充された。また1951年南東方30kmにある千歳空港,86年から新千歳空港(千歳市)が北海道の空の玄関となり,61年には市内の丘珠空港が道内ローカル線の起点となって,道の中心地としての地位はいっそう強化された。また高速自動車道は道央自動車道,札樽自動車道が通じる。
現在の市街地は碁盤目状の区画のほか,中心部における都市機能の配置も当初の状況をほぼ維持しており,創成川以西では大通公園を境に北部は主に本州の商社,金融機関の支店や,道庁をはじめとする官庁が立地し,南部には中心商店街として狸小路のほか,地下商店街も形成されている。またこの南にはかつて遊郭として設定された全国でも有数の歓楽街薄野(すすきの)がある。市内の産業別人口では第3次産業が全体の78%(1995)を占めており,とくに卸・小売業,サービス業の割合が高い。一方,工業は開拓使時代に主として創成川以東に官営工業として成立したサッポロビールや雪印乳業などの食料品工業がその中心をなし,工業出荷額は全道の13%(1993)を占め,道内1位である。農業では東区の伏古(ふしこ)川の自然堤防を利用したタマネギ栽培が古くから〈札幌黄玉〉として知られたが,都市化の進展に伴い,花卉栽培などに転換している。1972年の札幌冬季オリンピック大会の開催を契機に地下鉄南北線,東西線,東豊線が開通し,市街地の整備が進んだほか,本州からデパート,ホテルが進出し,札幌の名を国際的に広めた。市内には旧札幌農学校演武場(重要文化財)の時計台や,〈赤煉瓦〉で知られる道庁旧本庁舎(史跡,重要文化財)など洋風建築の遺構も多い。中心部には草創時の札幌の都心のようすを残す北海道大学付属植物園があり,札幌農学校(1876開校)を前身とする北海道大学はポプラ並木や,W.S.クラーク博士像とともに観光名所の一つとなっている。博士のキリスト教的開拓精神は新渡戸稲造,内村鑑三らにひきつがれた。月寒の羊ヶ丘(1906開設)は農林水産省の北海道農業試験場(現,独立行政法人の農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター)に属し,ジンギスカン料理で知られる観光地で,また最近では大通公園などで2月に行われる雪祭やスキーツアーをかねた冬の観光も盛んである。円山(まるやま)原始林,藻岩原始林は,ともに天然記念物に指定されている。
執筆者:山下 克彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…面積=8万3451.59km2(全国1位)人口(1995)=569万2321人(全国7位)人口密度(1995)=73人/km2(全国47位)市町村(1997.4)=34市154町24村道庁所在地=札幌市(人口=175万7025人)道花=ハマナス 道木=エゾマツ 道鳥=タンチョウ日本の最北部に位置し,地理的には,本州に次ぐ第2の大島である北海道本島(面積7万8073km2)と奥尻島,利尻島,礼文島,歯舞(はぼまい)諸島,色丹(しこたん)島など大小の属島からなる。南は津軽海峡を隔てて本州と,北は宗谷海峡を隔ててサハリン(樺太)と対しており,北東に千島列島が連なる。…
※「札幌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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