量子力学における運動状態(量子的状態)にある粒子のエネルギーはもっとも低いエネルギーの状態においても零ではない。また電子や中性子、陽子などフェルミ粒子のガスは絶対零度の点においても零でないエネルギーを有している。これらのエネルギーを零点エネルギーという。
量子的状態にある粒子が空間的に有限な広がりaをもつ領域で運動している場合、その運動量は不確定性原理により、平均の値を中心とするħ/a(ħはプランク定数hを2πで割ったもの)程度の幅の値を有している。したがってaが無限大でない限りその運動エネルギーはけっして零にはならない。また同様に不確定性原理のため運動エネルギーの有限な粒子は空間の一点にのみ存在することはできない。以上の結果として、量子的状態にある粒子はポテンシャルエネルギーの最低値の点にとどまっていることができず、そのエネルギーはこの最低値よりも高い値をもつ。2分子が接近すると各分子の双極子間の相互作用のため各分子の零点エネルギーの和が減少し、結果として分子間に引力的効果が生じる。またパウリの原理のため電子ガス内の各電子はエネルギーの低い順に各量子的状態に1個ずつ入っており、電子ガス全体のエネルギーは零でない大きさをもつ。この場合、電子ガスは零点エネルギー密度の3分の2の圧力を有している。これを縮退圧という。白色矮星(わいせい)が強い重力にもかかわらずその形を保っているのは電子の縮退圧のためである。
[田中 一]
振動体のエネルギーを量子化して得られる振動準位において,振動量子数
v1 = v2 = … = vn = 0,
すなわち,すべての基準振動が最低エネルギー準位にある場合でも,系の振動エネルギーは0とはならず,
E0 = hcwidi/2
のエネルギーが残る.これを零点エネルギーという.ここで,hはプランク定数,cは光の速度,wは振動の縮退度,dは基準振動の波数である.このことは,振動運動を完全に凍結することが原理的に不可能なことを意味しており,E0 に対応する振動状態を零点振動という.分子振動における零点エネルギーの存在は,エンタルピーや比熱容量などの測定からも認められている.本質的には不確定性原理に由来する事柄である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…力学的な系のエネルギー最低の状態でなお残っている運動。そのエネルギーの値を零点エネルギーzero‐point energyと呼ぶ。古典力学で扱えばエネルギー最低の状態では系の構成要素がすべて各自の平衡位置に静止することになるが,これでは位置と運動量がともに確定となり,量子力学では不確定性原理から許されない。…
※「零点エネルギー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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