音義説(読み)オンギセツ

デジタル大辞泉 「音義説」の意味・読み・例文・類語

おんぎ‐せつ【音義説】

国語の各音、また五十音図の各行の音に固有の意義を認めて語義を説き、語源解釈をしようとする説。平田篤胤ひらたあつたねなどにより、主に江戸時代に唱えられた。

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精選版 日本国語大辞典 「音義説」の意味・読み・例文・類語

おんぎ‐せつ【音義説】

〘名〙 国語の各音にそれぞれ固有の意味があるとして、語義、語源を説く考え方。一音一義の説、一行(いちぎょう)一義の説などが近世行なわれた。
※日本語学史(1908)〈長連恒〉第四期国語学「此音義説、言霊説も、〈略〉学者の間には殆んど勢力を失墜し去りたれば」

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改訂新版 世界大百科事典 「音義説」の意味・わかりやすい解説

音義説 (おんぎせつ)

一音一音に固有の意義ありとして語源を説こうとする説。仏典の五十字門や四十二字門の字義説では,たとえば,アは無常の義であるという。これはa-nityaに結びつけた一種の語源俗解であるが,インド古来の伝統的手法として精緻な語源学,文法学成立の基礎となった。日本の音義説は悉曇(しつたん)学の影響によるとされるが,中国ではすでに先秦時代から独自に〈声訓〉が散見される。これは同音ないしは近似音等を借りて語義を説くものである。漢代に多用され,劉煕《釈名(しやくみよう)》はその専著である。たとえば,〈天,顕也。在上高顕也。〉のごとくである。宋代,王子韶は右文(形声文字の右旁)によって語義を説いた。たとえば,〈戔〉には小さいという基本義があり,水の小さいものは浅,金の小さいものは銭,貝の小さいものは賤であるという。この右文説は,清代の阮元焦循,黄承吉等の,漢字の字形にとらわれぬ語義研究への道を開いた。
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一例をあげれば,〈ツの音にはまどか(円)な意味があり,キには清い意味がある。そこで,まどかで清い形容をそのままツキといったのが,つき(月)の語の起りであろう〉とするなどである。この種の語源解釈は,古くから,どこにも見うけられるものであるが,断片的なこじつけの語源説と音義説との相違は,後者学問の形をとった点にある。音義説は,すべての日本語の語源を,ことごとくみずからの原理で説明しさろうとすると同時に,そうすることによってその原理の妥当性を検証しようとするわけである。しかし,前提に誤りの存することを認めず,いたずらにかってな解釈をおし進めたので,それは江戸時代の後期,単に一部の国学者によって熱心に唱えられただけで終わった。この立場の最も徹底した代表者は,富樫(とがし)広蔭と堀秀成である。秀成はその学問的生涯を音義説にささげ,これに関する多くの著述を残した。学統として秀成の跡を継ぐものはないが,語源に対する興味から,こんにちも音義説に似た議論をする人はいる。幸田露伴の〈音幻論〉のごときは一種の音義説とみなしうる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「音義説」の意味・わかりやすい解説

音義説
おんぎせつ

五十音図の各音,もしくは各行の音にはそれぞれ固有の意義があるとみて,その観点から単語の意味や語源の説明をしようとする考え。各行に意義ありとする一行一義説は平田篤胤,鈴木重胤など,各音に意義ありとする一音一義説は橘守部,堀秀成などと,おおまかに分類することができる。これらの考えは言霊 (ことだま) 思想に通じるものである。擬声語音象徴という,音と意味との間にある程度の必然性のある現象が確かに存在し,アは明るく大きなもの,イは鋭くとがったものなどという印象が,新商品の命名や詩人の言葉選びに影響を与えたりすることがある。しかし,それを過大視してすべての単語に及ぼすのは,明らかにまちがいで,音と意味との関係は,本質的に非必然的なものである。日本以外にも類似の考え方がある。

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百科事典マイペディア 「音義説」の意味・わかりやすい解説

音義説【おんぎせつ】

江戸時代に行われた語源説の一つ。語の一つ一つの音や五十音図の各行に固有の意味があるとする。悉曇(しったん)学の影響を受けて生まれた。中国では先秦時代から独自に同音ないし近似音等を借りて語義を説くことが行われていた。
→関連項目音義

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