一音一音に固有の意義ありとして語源を説こうとする説。仏典の五十字門や四十二字門の字義説では,たとえば,アは無常の義であるという。これはa-nityaに結びつけた一種の語源俗解であるが,インド古来の伝統的手法として精緻な語源学,文法学成立の基礎となった。日本の音義説は悉曇(しつたん)学の影響によるとされるが,中国ではすでに先秦時代から独自に〈声訓〉が散見される。これは同音ないしは近似音等を借りて語義を説くものである。漢代に多用され,劉煕《釈名(しやくみよう)》はその専著である。たとえば,〈天,顕也。在上高顕也。〉のごとくである。宋代,王子韶は右文(形声文字の右旁)によって語義を説いた。たとえば,〈戔〉には小さいという基本義があり,水の小さいものは浅,金の小さいものは銭,貝の小さいものは賤であるという。この右文説は,清代の阮元,焦循,黄承吉等の,漢字の字形にとらわれぬ語義研究への道を開いた。
執筆者:慶谷 寿信
一例をあげれば,〈ツの音にはまどか(円)な意味があり,キには清い意味がある。そこで,まどかで清い形容をそのままツキといったのが,つき(月)の語の起りであろう〉とするなどである。この種の語源解釈は,古くから,どこにも見うけられるものであるが,断片的なこじつけの語源説と音義説との相違は,後者が学問の形をとった点にある。音義説は,すべての日本語の語源を,ことごとくみずからの原理で説明しさろうとすると同時に,そうすることによってその原理の妥当性を検証しようとするわけである。しかし,前提に誤りの存することを認めず,いたずらにかってな解釈をおし進めたので,それは江戸時代の後期,単に一部の国学者によって熱心に唱えられただけで終わった。この立場の最も徹底した代表者は,富樫(とがし)広蔭と堀秀成である。秀成はその学問的生涯を音義説にささげ,これに関する多くの著述を残した。学統として秀成の跡を継ぐものはないが,語源に対する興味から,こんにちも音義説に似た議論をする人はいる。幸田露伴の〈音幻論〉のごときは一種の音義説とみなしうる。
執筆者:亀井 孝
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