鳥追(読み)トリオイ

デジタル大辞泉 「鳥追」の意味・読み・例文・類語

とりおい【鳥追】[曲名]

地歌箏曲そうきょく。南枝作詞、松浦検校作曲。謡曲鳥追舟」の詞章を取り入れた手事物てごともの
謡曲「鳥追舟」の宝生流における名称

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精選版 日本国語大辞典 「鳥追」の意味・読み・例文・類語

とり‐おい‥おひ【鳥追】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 田畑の作物をあらす害鳥を追い払うこと。また、そのしかけ。鳥おどし。
    2. 農村小正月の行事の一つ。正月一四日の晩と一五日の暁、または、一四・一五・一六日の早朝に、田畑の害鳥を追い払うため、若者や子どもたちが、ささら杓子(しゃくし)、槌(つち)、棒などを打ち鳴らし、鳥追歌をうたって家々を回り歩く。稲穂の実るころに行なう地方もある。鳥追遊び。鳥追祭。《 季語・新年 》
      1. [初出の実例]「その中にささらをすりてうたふもの数人あり。〈略〉鳥追(トリオヒ)と云者也とぞ」(出典随筆・本朝世事談綺(1733)四)
    3. 新年に人家の門に立ち、扇で手をたたきながら祝歌をうたって米銭を乞うた乞食。京都悲田院に住む与次郎の始めたものという。たたき。たたきの与次郎。《 季語・新年 》
      1. [初出の実例]「千秋万歳ともまた鳥追(とりおひ)ともいふかや、家毎に歩きて慶賀をうたふに」(出典:咄本・醒睡笑(1628)一)
      2. 「鳥追や春をもってなる口拍子〈久友〉」(出典:俳諧・桜川(1674)春一)
    4. 門付(かどづけ)芸の一つ。江戸時代、新年に女太夫が新服に日和下駄、編笠姿で、三味線をひき鳥追歌をうたって人家の門に立ち米銭を乞うたもの。《 季語・新年 》
      1. 鳥追<b>[ 一 ]</b><b>④</b>〈石川豊信画〉
        鳥追[ 一 ]〈石川豊信画〉
      2. [初出の実例]「鳥追ひは笠を一寸一寸とばちで上」(出典:雑俳・柳多留‐三(1768))
    5. とりおいうた(鳥追歌)」の略。
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] 地唄・箏曲。南枝作詞。松浦検校作曲。謡曲「鳥追舟」の一部を取り入れた手事物
    2. [ 二 ] 謡曲「鳥追舟」の宝生流での名。

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改訂新版 世界大百科事典 「鳥追」の意味・わかりやすい解説

鳥追 (とりおい)

小正月行事の一つで,田畑を荒らす害鳥を年の初めにあらかじめ追い払っておこうとする呪的儀礼。長野県,新潟県や関東・東北地方の諸県を中心に分布している。正月飾などで作った仮小屋(かりごや)や雪室(ゆきむろ)を中心にして子どもたちが集まり,〈俺らが裏の早稲田の稲を,なん鳥がまぐらった。雀,スワドリ立ちやがれ。ホーイ,ホーイ〉とか,〈頭切って尾を切って,俵につめて海へ流す〉などという鳥追歌を歌いながら,拍子木を鳴らしたり,棒で地面をたたいて村々を一巡するものである。しかし,おとなが行う所,家単位で行う所,道祖神祭や小正月の火祭(左義長)等と習合したものなど,細部にわたっては土地ごとに相違がみられる。子どもたちが各家を回って祝言を述べ賽銭(さいせん)を集めて歩くという〈小正月の訪問者〉的例も少なくなく,都市部の門付(かどづけ)芸としての鳥追はこれらと関係があるものと思われる。また,鳥追と同じ意味をもつ小正月の行事に,西日本に多い土竜(もぐら)送り,狐狩りなどがある。
執筆者: 〈鳥追〉は田遊(たあそび)のなかの大事な演目であり,〈これは誰が鳥追い 何某殿の鳥追〉などと歌い,鳥を追うさまを演じる。江戸時代には敲(たたき)与次郎,女太夫などと呼ぶ新年の門付の祝福芸人の風俗を生んでいる。能に,母と子が鳥追舟に乗って群雀(むらすずめ)を追う《鳥追舟》の曲があり,地歌,箏曲の《鳥追》は,この《鳥追舟》を原拠とし,ともに二上りの調子で箏は平調子である。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「鳥追」の意味・わかりやすい解説

鳥追【とりおい】

田畑に害をする鳥や獣をささらや棒で追い払う小正月の行事。おもに子どもが行う。長野・新潟両県や関東・東北地方に多く見られ,田の中に鳥追小屋をつくって煮たきをし,翌日これを焼き払う。西日本ではモグラ,イノシシなどを追うところもある。江戸時代の鳥追女(新年の門付(かどづけ)芸)の風俗はこの農村行事が都会化したもの。
→関連項目祝棒門付かまくら

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「鳥追」の解説

鳥追
とりおい

稲などをついばむ鳥を追うまねごとをする小正月の予祝行事。おもに関東・東北地方や長野県に分布する。子供たちが田の中に仮小屋を建て,注連飾(しめかざり)などで屋根を葺いたあとそこにこもる。正月15日の夜に小屋に火をつけ,「たいと(大唐)の鳥が渡らぬ先に」などと鳥追歌を唱える。これは左義長(さぎちょう)などの火祭とも関係する型だが,夜に大人も子供と一緒に鳥追歌を唱えて地区を回る山形県西田川郡(現,鶴岡市)の例や,カマクラの雪室(ゆきむろ)を拠点に各戸を回る秋田県の例,七草の行事と習合した山陰地方の例がある。

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世界大百科事典(旧版)内の鳥追の言及

【鳥追】より

…雀,スワドリ立ちやがれ。ホーイ,ホーイ〉とか,〈頭切って尾を切って,俵につめて海へ流す〉などという鳥追歌を歌いながら,拍子木を鳴らしたり,棒で地面をたたいて村々を一巡するものである。しかし,おとなが行う所,家単位で行う所,道祖神祭や小正月の火祭(左義長)等と習合したものなど,細部にわたっては土地ごとに相違がみられる。…

【唱言】より

…信仰に起源をもつ唱言が多いため,信仰の衰退に伴い数は減じてきているが,今でも年中行事や神事の中に残っている。節分の〈福は内,鬼は外〉は代表的な例で,小正月には〈なるか,ならぬか〉〈なります,なります〉という成木(なりき)責めの問答形式の唱言や〈朝鳥ホイホイ,夕鳥ホイホイ〉と唱えながら子どもたちが村を巡回する鳥追などがあり,盆の精霊送りや雨乞いにも先祖や水神に呼びかける唱言が使われる。子どもが体を痛めた時に,親が〈チチンプイプイ……〉と唱えるのも唱言とされ,また子どもが〈蛍来い〉とか〈明日天気になーれ〉と言う童言葉なども唱言に由来するといわれ,子どもの生活に結びついたものが多い。…

【水口祭】より

…焼米を子どもたちに分け与える例も多く,千葉県君津郡では道の辻で子どもたちに分け与え,和歌山県東牟婁郡では子どもたちが田を回ってもらい歩く習俗があった。この焼米もらいを鳥追といったことから害鳥よけの行事でもあったことがうかがわれる。水口に木の小枝などを立てる例は東日本一帯に分布し,西日本でも見られる。…

【焼米】より

…そのためミノデ(水出)ヤッコメ,タネバヤシ,タナドキノヤンゴメ,トリノクチなどと呼び,順調な発芽を祈り,鳥などに荒らされぬように願う意味をこめている。この焼米を子どもたちが集団でもらって歩き,それを鳥追というところが千葉県や静岡県などにある。子どもはもらった焼米を食べるのであるが,正月の鳥追行事も子どもが行うところが多いから,その延長行事と考えることもできる。…

※「鳥追」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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