宮城・岩手両県に分布する一人立ちの獅子舞(ししまい)。シカの鹿頭(ししがしら)をかぶった者が8頭ないし12頭出て1組となり、激しく跳びはねて踊る。腹に締太鼓をつける太鼓踊系と、大きな布幕(ぬのまく)を垂らしてこれを両手に持って踊る幕踊系に大別される。岩手県奥州(おうしゅう)市江刺(えさし)区稲瀬(いなせ)鶴羽衣(つるはぎ)の鹿踊などにみるように、太鼓踊系は背に細い白紙で飾った腰竹あるいはササラとよぶ神籬(ひもろぎ)を負う。幕踊系は岩手県遠野(とおの)・下閉伊(しもへい)地方に限られる。盆や寺社の祭りなどに寺社の庭や家々の庭に練り込み、中立(なかだち)という指揮役の踊り手を中心に雌鹿(めじし)・雄鹿(おじし)が陣形をさまざまに組んで踊る。曲目は「雌鹿隠し」「案山子(かかし)舞」「鉄砲踊」「土佐(とさ)」など多数ある。このほか岩手県遠野市附馬牛(つくもうし)や上閉伊(かみへい)郡大槌(おおつち)町徳並(とくなみ)の鹿踊などには回向(えこう)(仏供養)のための墓踊(墓獅子)があり、盆に位牌(いはい)の前や墓地で踊る。なお、愛媛県宇和島(うわじま)地方に分布している八つ鹿(やつしか)、五つ鹿(いつしか)は、1615年(元和1)宇和島藩主伊達秀宗(だてひでむね)が仙台から移封の際、仙台から移入したものという。仙台市以南の鹿踊と歌詞や旋律などに共通点が多い。
[渡辺伸夫]
民俗芸能。獅子舞の一種で,岩手県を中心に青森県,宮城県などに分布する。鹿頭(ししがしら)をかぶり,一人立ちで多頭式(八人立てが多い)で踊る。岩手県和賀,稗貫以南は太鼓踊式で,頭に本物の鹿の角をつけ,背には3.6mほどの〈腰ざし〉〈やなぎ〉〈ささら〉などと呼ばれる,紙片で飾られた割竹の幣を差し,大きな腰鼓を打ち鳴らし,踊り歌を歌いながら仲立(なかだち)(中心になる鹿),雌鹿(めじし)(1頭),側(がわ)鹿(雄鹿)6頭で円陣または隊列を組んで重厚に踊る。紫波郡や上・下閉伊地方は幕踊り式で,板製の鹿の角と30cmほどの腰ざしをつけ,全身を覆う幕を大きく翻して,跳躍するように軽快に踊る。おもに盆や彼岸,雨乞いなどに踊る。鹿の扮装をする芸能のことは《万葉集》《古事記》にも見えている。踊りの起源についてはさまざまな説があり,鹿を土地の守護神として霊獣視した修験や,また念仏の俗聖(ぞくひじり)が唱導した可能性もある。仙台藩との縁で愛媛県南予地方に八鹿(やつしか)踊が伝承されている。
→獅子舞
執筆者:西角井 正大
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…頭上に獅子頭をいただき,腹に羯鼓(かつこ)や腰鼓をつけた立ち姿勢のもので,基本的には東日本にのみ見られる。三匹(頭)獅子舞と鹿踊(ししおどり)があり,三匹獅子舞は関東地方や福島県,奥羽山脈の西側に若干散在し,3匹が1組を形成する。鹿踊は岩手県を中心に奥羽山脈の東側に分布し,8頭1組が多い。…
…室町時代後期の風流踊を支えた層と,当時の能・狂言を享受した層とは共通で,風流踊の趣向には能の曲が転用され,その入破(いりは)(キリ)が踊りの中で演じられたことも多い。
[民俗芸能の風流]
京都の祇園会の山鉾,日立市神峰神社の〈日立の風流物〉に代表される作り物の風流はもとより,風流踊の系譜を引く太鼓踊・羯鼓踊(かつこおどり)・花踊・雨乞踊,囃子物の伝統である鷺舞などの動物仮装風流,胸に羯鼓をつけた一人立ちの獅子舞・鹿踊(ししおどり)をはじめ,念仏踊(踊念仏)や盆踊など,全国の民俗芸能には風流の精神を受け継いだ芸能が多い。民俗芸能を分類する場合,それらを一括して〈風流系芸能〉と称するが,その芸態は一様ではない。…
…念仏にゆかりのものでは,聖衆来迎の信仰を野外劇化した菩薩来迎会や,念仏信仰を黙劇でえがいた京都の壬生(みぶ)大念仏狂言(壬生狂言)などがある。西日本に広く分布する太鼓踊は田楽と念仏踊を習合した勇壮な集団舞踊で,雨乞い,虫送りなどに踊られるが,東日本では鹿頭(ししがしら),竜頭(たつがしら)をいただいた踊り手が3人とか8人など,組をつくってこれを踊る(鹿踊(ししおどり))。いわゆる風流獅子舞である。…
※「鹿踊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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