〈猥褻(わいせつ)〉に関わる犯罪の総称で,犯罪学上性犯罪といわれる一群の犯罪にほぼ相当する。それは,以下のように大別できる(なお,1995年刑法の表記現代化にともない,従来の〈猥褻罪〉を〈わいせつ罪〉と改めた)。(1)公然わいせつ罪 公然とわいせつな行為を行う罪で,刑は6ヵ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料(刑法174条)。(2)わいせつ物頒布罪等 わいせつな文書,図画その他の物を頒布,販売,公然陳列または販売目的で所持する罪で,刑は2年以下の懲役または250万円以下の罰金もしくは科料(175条)。(3)強制わいせつ罪および強姦罪 前者は強制してわいせつな行為を行う罪であり(176条。くわしくは〈強制わいせつ罪〉の項参照),後者は強制的に姦淫する罪である(177条。くわしくは〈強姦〉の項参照)。両者とも親告罪である。(4)そのほか,各種の法律(風俗営業法,売春防止法,軽犯罪法など)や条例(青少年保護条例,屋外広告物条例,めいわく防止条例など)でも罰則が設けられている。
強制わいせつと強姦の罪は個人の性的自由と尊厳を保護することを目的とし,間接に社会の性的秩序の保護を図っているのに対して,公然わいせつとわいせつ物頒布等の罪は,社会の性的道徳秩序の維持を直接の目的とするから,ときには,関係者の意思に反した規制を強いることとなり,逆に,これらの罪が犯された場合には関係者は自分の意思でこれに加わっており,被害感情を持った個人がとくにいないという意味で,被害者なき犯罪とも呼ばれる。
社会の性的な道義観念を維持する法律には,単なる刑罰の威嚇だけでなく,検閲や,各種の禁止などの行政処分を定めたものも少なくない。とくに戦前の日本では,わいせつ物等に対する取締りは行政警察権限の行使が主であって,刑事罰はそれの背景となっていた。第2次大戦後には,検閲が禁止され,警察組織が分解され,行政警察から司法警察への転換が計画されたので,刑事罰が前面に出ている。また,戦前の各種の個別的な刑罰法規も数多く廃止されたので,刑法が適用される事例が多い。最高裁判所は《チャタレー夫人の恋人》事件判決中で,特別法である旧出版法,新聞紙法が廃止されたので,その部分は一般法である刑法175条を適用すると述べて,適用領域の拡大を支持した。
執筆者:江橋 崇
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