6種のクォークのうち、第5番目のボトム(b)クォークを含むB中間子を大量に作り出し、物理学の基本法則、CP(拘電パリティ)対称性の破れを検証する計画。素粒子の基本的な相互作用を理解するうえで、対称性は重要な概念である。自然界が完全な対称性を基礎として記述できることは、物理学者の夢であり、対称性は理論を作り上げるための力強い指針となってきた。粒子と反粒子の対称性を表すCP対称性が破れていることはすでに実験で見つかっているが、その原因はわかっていない。われわれの宇宙がビッグバンで生まれたときには粒子と反粒子の数は等しかったはずであるが、今日の宇宙は粒子だけからできていると考えられ、ここでもCP対称性が破れている。CP対称性は第3世代のクォーク(bとトップ=tクォーク)の存在と深く結び付いており、bクォークの性質をくわしく調べることにより、標準理論を超えて、素粒子の世界や宇宙の開闢(かいびゃく)をさらに深く理解するための重要な手掛かりが得られるものと予想される。クォークは単独では存在できないので、bクォークの性質を調べるには、bクォークとダウン(d)クォーク(またはアップ=uクォーク)が結合したB中間子を生成し、その崩壊過程を精度よく測定する。実験装置は、電子と陽電子を衝突させる円形加速器と、そこでつくられたB中間子とその反粒子(反物質)、反B中間子の崩壊過程を観測する大型測定器からなる。B中間子の寿命は1兆分の1秒と短く、その観測には特殊なくふうがなされている。実験・研究は、高エネルギー加速器研究機構とスタンフォード線形加速器研究所(SLAC)で進められており、高エネ研のBファクトリーでは1999年春に電子・陽電子衝突に成功している。すでにB中間子、反B中間子の関係する事象が多数観測されているが、さらに数年のデータ収集が必要である。
[広瀬立成]
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(尾関章 朝日新聞記者 / 2008年)
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