日本大百科全書(ニッポニカ) 「MRSA感染症」の意味・わかりやすい解説
MRSA感染症
えむあーるえすえーかんせんしょう
抗生物質が効かないMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による感染症。感染症予防・医療法(感染症法)で5類感染症に指定されている。日本では1980年代後半からその院内感染が深刻な問題になっている。この菌はメチシリンをはじめ、ほとんどの抗生物質に抵抗力をもつ。抗生物質を乱用していると普通のMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)が死に、この菌だけが残りやすい。黄色ブドウ球菌はもともとは傷の化膿(かのう)菌で、皮膚や鼻、のどなどにおり、MRSAをもっていたとしても健康人にはほとんど影響はない。しかし、MRSAが患者同士や、手術現場や医師、看護師などを通じて抵抗力のない老人や幼児、重症者や手術直後の患者などに感染し体内で繁殖すると、腸炎や肺炎、敗血症などを起こし、ときには死につながる。抗生物質の乱用をやめ、病室を十分に消毒し、医師、看護師が手洗いを励行すれば、院内感染を抑えることができる。
[田辺 功]
『横田健編『MRSA感染症』(1994・新興医学出版社)』▽『小林寛伊編『MRSA――病院感染を克服するために』(1996・真興交易医書出版部)』▽『島田馨・村尾裕史著『MRSA感染症と薬物治療のコツ』追補改訂版(2001・ミクス)』