早産とは満期産には至らないが,胎外生活が可能と考えられる時期の分娩をいい,時代により国によってその定義は異なるが,現在日本では〈妊娠22週以後から37週未満の分娩〉と定義されている。早産の頻度は全妊娠に対して3~5%と推定されている。また母体の年齢が高くなるほど,早産の頻度が高くなる傾向にある。
早産の原因は流産と同様多種多様であり,多くの因子により早産が起こる。母体の年齢もその一つであり,高年齢妊娠になるにしたがい早産の頻度も増し,経産婦のほうが初産婦より早産しやすいともいうことができる。母体に合併症があれば早産の頻度も高くなり,心疾患,胃疾患,糖尿病等はその例である。このように母体合併症は早産の原因となりうるが,このほか子宮頸管無力症,妊娠貧血,前期破水,妊娠中毒症,子宮筋腫,子宮奇形等が母体側原因と考えられ,骨盤位,多胎妊娠,羊水過多症,子宮内胎児死亡等によるものもあるが,原因不明の場合も少なくない。
早産の主症状としては,子宮収縮による下腹痛ないし陣痛様疼痛と子宮出血であるが,これらの症状のないまま破水により羊水の流出を主症状とする場合もある。
早産は大別して切迫早産(早産切迫)と進行早産に分けることができる。切迫早産の場合には,治療により妊娠継続が可能な場合があるため,早期に対処する必要がある。
前述の症状により早産の程度を把握することは,その後の治療に大きく関与するので,的確に行われるべきであり,通常,(1)子宮収縮の有無あるいはその程度,(2)破水の有無,(3)出血の状態,(4)子宮頸管の開大の程度の4項目を主眼として判断される。これらの項目は早産の進行程度を知るうえで重要であるが,治療方法を選択するうえでは胎児の状態が基本になることは当然である。
早産の程度により異なるが,胎児が死亡している場合には,できるだけ速やかに娩出を図るのがよい。切迫早産で,破水もなく,頸管もまださほど開大していなく,子宮収縮も軽度の場合には安静を第一とし,子宮収縮抑制薬を投与し,できるだけ妊娠を継続させるように努めるのがよい。また子宮頸管が開大していても,破水もなく子宮収縮がなければ,頸管無力症として子宮頸管縫縮術を行う。前期破水の場合には感染に十分注意し,できるだけ妊娠を継続させて胎児の成熟を少しでも図るようにする。すでに胎児が死亡していたり,感染が疑われたり,出血が多く,治療効果がないと判断された場合には,積極的に娩出を図るほうがよい。
母体に対しては早産の原因となった要因によりそれぞれ注意すべきであるし,生まれた児に対しては早産未熟児の管理を十分に行う必要がある。
→未熟児
執筆者:八神 喜昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
妊娠22週以降37週未満で分娩(ぶんべん)に至ること。日本の全出生の5~6%を占める。妊娠22週未満での分娩は「流産」、妊娠37週以降42週未満での分娩は「正期産」である。流産との境界となる妊娠22週は、児(じ)が母体外で生育可能な限界を根拠として定められ(別項「流産」を参照)、正期産との境界の妊娠37週は、胎児が十分に成熟し、母体外で呼吸補助などの治療を要しない状態の目安である。早産の期間をさらに分け、妊娠32週未満のものを「極早産」、妊娠28週未満のものを「超早産」とよぶこともある。早産で生まれた児は「早産児」という。新生児に対しては生下時体重による定義も存在し、生下時に2500グラム未満の児を「低出生体重児」、1500グラム未満の児を「極低出生体重児」、1000グラム未満の児を「超低出生体重児」という。低出生体重児と早産児とはかならずしも一致するわけではない。
早産とみなされる妊娠齢の時期に、分娩に進行する所見や症状を呈しているものの、いまだ早産に至っていないものを「切迫早産」という。切迫早産の診断は、陣痛に至るような子宮収縮があることや、子宮口開大、子宮頸管(けいかん)熟化の進行、性器出血、破水など分娩進行の徴候がみられることにより下される。
[久具宏司 2024年5月17日]
感染に由来する絨毛膜(じゅうもうまく)羊膜炎などの炎症、多胎妊娠や羊水過多、子宮筋腫(きんしゅ)などによる子宮内圧の上昇、子宮頸管無力症など、子宮自体の器質的(きしつてき)疾患や、妊娠高血圧症候群(旧、妊娠中毒症)やさまざまな母体合併症など、母体の全身にかかわる妊娠中の異常が早産の原因となりうる。
[久具宏司 2024年5月17日]
切迫早産の段階で、安静を保ったうえで子宮収縮抑制剤の使用、明らかな炎症を有するものに対する抗菌薬の使用により分娩の進行を止めて、早産に至らないようにする。多胎妊娠や、過去に早産や切迫早産の既往のある妊婦は早産になりやすいので、とくに注意が必要である。
回避に努めたにもかかわらず早産に至った場合には、新生児への治療が主体となる。新生児に対する治療は出産時の妊娠齢により大きく異なる。超早産、なかでも妊娠22~24週で出生した超低出生体重児に対しては、新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:NICU)内で保育器に収容して、人工呼吸器の装着、輸液と経管栄養を行うなど集中管理が必要となる例が多いのに対し、正期産に近い早産児は正期産児と発育に差がないことも多い。したがって、正期産に近い時期の切迫早産に対しては、あえて早産回避の処置を行わないことも少なくない。
[久具宏司 2024年5月17日]
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出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
…まれにではあるが,子宮内と子宮外に別々の胎芽が着床したり,複数個の胎芽が子宮外に着床することもあるが,一般に多胎と呼ばれているのは子宮内妊娠に限られる。 多胎の妊娠,分娩の最大の問題点は早産である。複数以上の胎児によって,子宮は妊娠週数に比して過大に伸展され,陣痛が早期に発来しやすい。…
…妊娠中絶には,自然に分娩に至る自然妊娠中絶と,人工的に分娩に至らしめる人工妊娠中絶とがある。妊娠中絶の時期が妊娠24週未満の場合は流産といい,37週未満から24週以上の場合は早産といっている。24週未満の流産では胎児が母体外に娩出されても未熟で小さく生命を保持することができないので,人工妊娠中絶(人工流産)はこの期間内のみに実施される。…
※「早産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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