覚醒剤(読み)カクセイザイ

デジタル大辞泉 「覚醒剤」の意味・読み・例文・類語

かくせい‐ざい【覚醒剤】

強い中枢神経興奮作用をもち、疲労感や眠けがなくなり、思考力活動力が増す一群の薬物。塩酸メタンフェタミンヒロポン)など。習慣性があり、慢性中毒になると幻覚や妄想が現れる。覚醒剤取締法により製造・販売・所持・使用などは規制される。
[類語]ヒロポンしゃぶスピードエスアイス

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精選版 日本国語大辞典 「覚醒剤」の意味・読み・例文・類語

かくせい‐ざい【覚醒剤】

  1. 〘 名詞 〙 大脳皮質を刺激する興奮剤の一つ。狭義にはヒロポンによって代表される覚醒アミン類をいう。薬理学的には、脳神経を興奮させる作用と交感神経の刺激作用をもっている。大量に用いると中毒症状を起こし、連用によって習慣性となる。

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改訂新版 世界大百科事典 「覚醒剤」の意味・わかりやすい解説

覚醒剤 (かくせいざい)

覚醒剤は俗称ないし法律用語であって,薬理学では中枢神経系興奮薬に入れる。日本の覚せい剤取締法ではアンフェタミン(商品名ベンゼドリン)とメトアンフェタミン(商品名ヒロポン,ペルビチン)とを指す。これら覚醒作用をもっているアミンを,ドイツ学派は覚醒アミンと呼ぶが,英米学派ではとくに命名をしていない。
向精神薬
執筆者:

覚醒剤はいったん使用すると容易に依存・中毒を生じ,幻覚妄想などの精神病的症状や性格変化を生じうる。1930年代からヨーロッパではアンフェタミン精神病があった。第2次大戦中には,一時的な精神昂揚作用のために軍隊関係で用いられ,終戦後,民間人に覚醒剤依存が流行した。日本ではメトアンフェタミンが用いられ,戦後の45-55年の約10年間に覚醒剤乱用と中毒が多発した。この第1次乱用期は敗戦後の社会混乱期であり,使用経験者200万人,中毒性精神病者20万人といわれ,注射薬が多く,1951年の覚せい剤取締法制定をへて54年の取締法罰則強化後に激減した。その後約15年間は少なかったが,70年から第2次流行が始まり,その後覚醒剤中毒が多発漸増している。この第2次乱用期においては,暴力団の資金源として韓国,香港などから密輸入された粉末剤が多い。中毒患者は20~30歳代の男性が多く,暴力団関係者,風俗営業関係者などに多い。アルコールその他の薬物との多剤乱用もある。

 覚醒剤は多くの場合は水溶液として静注され,注射痕を残す。1回静注(20~30mg程度)すると,多幸感,気分昂揚,活動性増加があり,疲労感や眠気がとれるが,その効果は数時間しか続かず,その後に強い疲労倦怠感,無気力,抑うつ気分が生じて長時間持続する。そこで再度,覚醒効果と多幸感を得ようとして覚醒剤を使用するが,耐性が強まり依存を生じて使用量や回数が増加する。数週~数ヵ月の連用で(ときには1回使用でも)幻覚妄想を含む中毒性精神病症状を生じる。慢性中毒になると,一方で幻覚妄想のような派手な症状を示すが,他方では無気力,意欲低下,抑うつ気分,過敏性,心気症状を生じ,意志薄弱,気分易変,爆発性といった性格偏倚も顕著になる。幻覚妄想などの中毒症状は覚醒剤を中止すれば1~2週で消失するが,焦燥感,過敏性,易怒性,不眠は約1ヵ月続き,その後も無気力,意欲減退がある。覚醒剤を中止して数年間経過した場合でも,覚醒剤を再使用せずなんらの誘因もないのに,あるいは飲酒,心理的ストレスにより,容易に幻覚妄想が再発しうる。これはフラッシュバックflash back(再燃現象)と呼ばれ,一種の過敏現象と考えられる。覚醒剤中毒による幻覚妄想に基づく粗暴犯罪(殺人,放火,傷害)が生じることがあり,対策が問題となる。覚醒剤中毒による幻覚妄想が出没しながら,無為自閉的生活が何年も続く場合には統合失調症との鑑別が難しいこともある。覚醒剤を用いて動物に実験精神病のモデルを作って研究することもできる。
執筆者:

日本における覚醒剤の乱用は,第2次大戦後の混乱期に,いわゆるヒロポンの使用を中心として急増し,大きな社会問題となった。これに対処するため,1951年に議員立法によって制定されたのが覚せい剤取締法である。その後,54年,55年の2回にわたる罰則強化と厳重な取締りによって,覚醒剤犯罪は激減し,57年以降はほぼ鎮静化していた。しかし,70年以降再び覚醒剤犯罪が増加しはじめ,73年の罰則強化にもかかわらず,第2の流行期を迎え,現在に至っている。法律の規制対象とされている覚醒剤とは,中枢神経系興奮薬のうちとくに薬理作用の強い,フェニルアミノプロパン(アンフェタミン),フェニルメチルアミノプロパン(メトアンフェタミン)およびその塩類をいう(同種の覚醒作用を有するものを政令で指定できるが,現在まで指定されたものはない)。法律は,覚醒剤の使用を医療用・学術研究用に限定し,その取扱いを厚生大臣または都道府県知事の指定を受けた覚醒剤製造業者・覚醒剤施用機関および覚醒剤研究者に限って,厳しい規制のもとで認めている。それ以外の覚醒剤の製造・所持・譲渡・譲受け・使用等は禁止され,また,覚醒剤の輸出入はなんぴとに対しても禁止されている。これらの違反に対しては,無期懲役(情状により1000万円以下の罰金併科)を最高とする厳しい刑罰が科されている。さらに法律は,法で定められた覚醒剤原料の製造・取扱いに関しても,覚醒剤とほぼ同様の規制を行っている。
薬物犯罪
執筆者:

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最新 心理学事典 「覚醒剤」の解説

かくせいざい
覚醒剤
psychostimulants

「覚せい剤」は日本の法律用語である。すなわち,「覚せい剤取締法」第2条に定められたフェニルアミノプロパン(アンフェタミン)およびフェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)が覚醒剤である。また,政令によって覚醒剤原料に指定された医薬品,すなわち気管支拡張作用をもつエフェドリン,メチルエフェドリン,パーキンソン病の治療に用いられるセレルギン,デプレニールも「覚せい剤取締法」の規制対象である。英語には覚醒剤に相当する単語はなく,中枢神経系に対する興奮作用を有する薬物を総称してpsychostimulants,もしくはstimulantsという。psychostimulantsの中にはコカインメチルフェニデート,ある種の食欲抑制剤などが含まれる。コカインやメチルフェニデートの薬理作用は覚醒剤に類似しているが,日本ではこれらは「麻薬及び向精神薬取締法」によって規制されている。大麻には覚醒剤に類似した薬理作用はない。

 覚醒剤は神経伝達物質neurotransmitterのアドレナリンノルアドレナリン,ドーパミンに似た化学構造をもち,ドーパミンおよびノルアドレナリンの放出を促進し,シナプス小胞への再取り込みを阻害する。小動物に単回投与した場合は用量依存的に自発運動量を増加させ,大量では嗅ぎ回りsniffing,舌なめずりlicking,顎運動gnawingなどの常同行動を起こす。反復投与すると自発運動量の増加は徐々に亢進し,用量によっては常同行動に移行する。これを増感sensitizationという。一度増感が起こるとその状態は長期にわたって持続し,少量の覚醒剤再投与によって大量投与と同じような行動変化が起こる。そのため増感現象は,慢性覚醒剤中毒による精神病状態のモデルと考えられている。覚醒剤には精神依存形成能(強迫的な欲求を起こさせる性質)があり,小動物では静脈内自己投与実験,条件づけ場所嗜好性実験などによって強化効果(報酬効果)が示される。身体依存形成能はなく,退薬による特異的な徴候は見られない。

 ヒトでは,急性症状として血圧上昇,不整脈,悪心,嘔吐,食欲低下,発汗,悪寒,知覚過敏,反射亢進などの身体症状,不眠,不安,多幸感,気分の高揚,不穏,敵意,多動,緊張,恐慌,錯乱といった精神症状が見られる。慢性中毒症状として焦燥,易怒(怒りやすい),幻聴,猜疑心,追跡妄想,注察妄想,関係妄想などの精神病状態が見られる。慢性中毒の背景には永続的な神経化学的変化があると考えられており,覚醒剤の使用を中止した後も少量の再使用,疲労や飲酒,心的ストレスなどによって症状が再燃(フラッシュバック)しやすい状態が続く。

 覚醒剤はもともと気管支拡張作用に基づく喘息治療薬であった。しかし,その効果よりも不眠・興奮などの賦活効果が注目され,第2次世界大戦時に世界各国の軍隊で使用されるようになった。日本では終戦直後から学生や夜間の就業者などを主体とした第1次の乱用ブームが起こった。「覚せい剤取締法」が制定された1951年以後には乱用は急速に終結したが,1970年代の後半から再び増加し,第2次乱用期を迎えた。この時期には第1次に比べて30歳代から40歳代の一般市民層への浸透,有機溶剤との複合乱用,中毒性精神病像と幻覚・妄想病像の顕在化といった特徴があった。第2次乱用期も終息したが,1990年代後半から再び乱用者が増加し,若年層を主体とした第3次乱用期が起こっている。現在の乱用には,瘦身を目的とした若年女性の参入や,外国人密売人との接触に対する心理的抵抗感の希薄化といった問題がある。 →依存症 →幻覚剤 →神経伝達
〔廣中 直行〕

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百科事典マイペディア 「覚醒剤」の意味・わかりやすい解説

覚醒剤【かくせいざい】

俗称,もしくは法律用語で,狭義には覚醒アミンをさす。薬理学では中枢神経系興奮薬に属す。薬理作用は,1.中枢作用。大脳の興奮をきたし精神的機能を亢進し,ねむけを除去する。2.交感神経興奮作用。心拍動の増加,血管収縮および血圧上昇をきたす。抑鬱(よくうつ)症,アルコール,モルヒネ,睡眠薬の中毒に対し用いられるが,心悸(しんき)亢進,めまい,不眠,吐き気等の副作用が現れることがある。乱用により耐薬性,習慣性を生じ,分裂症状,被害妄想(もうそう),幻聴等の中毒症状をきたす。代表的なものにフェニルアミノプロパン(商品名プロパミン等),フェニルメチルアミノプロパン(商品名ヒロポン等)があり,覚醒剤取締法で使用が制限されている。
→関連項目エフェドリンクラック暴力団薬物依存症

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「覚醒剤」の意味・わかりやすい解説

覚醒剤
かくせいざい

通例、覚醒アミンをさすが、アミン以外の中枢神経系興奮剤を含めてよぶこともある。向精神薬の一種。覚醒アミンはエフェドリンなどに類似の構造式をもち、中枢神経興奮作用のほか、交感神経興奮作用や食欲抑制作用もある。脳の機能を積極的に亢進(こうしん)させ、眠気をなくし、疲労感を軽減するほか、気分を爽快(そうかい)にして思考能力を促進させるなどの効果があるが、常用すれば習慣性となり、精神的依存から覚醒剤中毒に陥る。

 第二次世界大戦後、青少年の間で「ヒロポン」が乱用されて社会問題となり、日本では1951年(昭和26)に「覚せい剤取締法」が公布され、製造、輸入、販売、所持、使用が規制された。この法律でいう覚醒剤は、フェニルアミノプロパン(アンフェタミン)とフェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)、およびこの両者と同様の覚醒作用をもつもので政令で定めたもの、さらに以上のものをいくつか含有するものをさしている。エフェドリンも本剤の原料となることから取扱い上の規制がある。現在では、著しい入眠傾向がみられるナルコレプシーの治療に塩酸メタンフェタミンだけが「ヒロポン」として用いられている程度で、むしろ不法ルートによる乱用で中毒患者が発生し、社会問題となっている。

[幸保文治]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「覚醒剤」の意味・わかりやすい解説

覚醒剤
かくせいざい

「覚醒アミン」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の覚醒剤の言及

【アンフェタミン】より

…しだいに増量しないと効かなくなり(これを耐性上昇という),薬を用いたくなる(これを精神的依存という)が,連用を急にやめても発熱とか痙攣(けいれん)などの身体的異常はおきない。精神的依存を利用して,暴力団が覚醒剤として売りつけて資金源にしたり,薬を餌として逃亡を防ぐのに使ったりしており,社会問題となっている。30mg以上の大量を与えると急性中毒になり,不安,不眠,緊張感,錯乱,幻覚,頻脈,痙攣などが現れる。…

【興奮薬】より

…1g以上の大量では神経過敏,震えなどの症状を経て痙攣(けいれん)を誘発する。(2)覚醒剤 アンフェタミン,メタンフェタミンなどで,いずれも精神機能の亢進を特徴とする中枢興奮作用を有する。眠気を去り,疲労感を除き,精神的抑鬱(よくうつ)状態を回復する効果を示す。…

【薬物代謝】より

…薬物はおもに疾病の治療や予防の目的で服用されるが,薬物を受け入れる生体側は,薬物を異物とみなし,生体から速やかに排出しようとする。薬物のほとんどは尿中に排出されるが,糞便中や肺や皮膚などからも排出される。一方,薬物が高い脂溶性を有する場合は,腎臓の尿細管で再吸収されるので,尿中には投与した形の薬物としてはほとんど排出されない。この場合,脂溶性の高い薬物は,生体内の種々の酵素系によって腎臓から排出されやすい形,すなわち水溶性が大きくなる方向に極性化される。…

※「覚醒剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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