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ロシア・ソ連の作家ゴーリキーの四幕戯曲。1900年に発想、1902年脱稿、同年12月モスクワ芸術座初演。強欲な軍人あがりの男が経営する木賃宿に寝泊まりする零落者たち――自称男爵、泥棒、売春婦、役者くずれ、錠前屋(じょうまえや)夫婦らの希望のない生きざまがまず示され、そこへいわくありげな過去をもつ巡礼ルカーが現れ、ひとりひとりに「慰め」の説教をする。売春婦の嘘(うそ)の恋物語の聞き手になってやり、死にかけている錠前屋の女房アンナを「死は安息だよ」と慰め、アル中の役者くずれには「無料療養所がある」と更生を勧め、泥棒ペーペルには「シベリアだって極楽さ」と慰め、いつの間にか姿を消してしまう。しかし彼の慰めはむなしく、役者は首を吊(つ)り、アンナは死に、売春婦は行方不明、泥棒は木賃宿の主人を殺してシベリア送りとなる。飲んだくれのサーチンだけが慰めを否定し「人間、こいつは、なんて豪勢な響きだ!」と叫ぶ。劇のテーマは「真実がいいか、同情がいいかを提起することだ」(作者のことば)。全体に暗鬱(あんうつ)な劇だが、台詞(せりふ)が生き生きとして迫力がある。日本ではモスクワ芸術座の演出を模した小山内薫(おさないかおる)の演出(1910、1924)で一定の型ができ、新劇の重要レパートリーの一つとなっている。
[佐藤清郎]
『神西清訳『どん底』(『グリーン版世界文学全集Ⅰ 37』所収・1962・河出書房新社)』▽『中村白葉訳『どん底』(岩波文庫)』
ロシアの作家ゴーリキー作の4幕の戯曲。1902年10月モスクワ芸術座によって上演され大成功を博し,続いてベルリンをはじめヨーロッパ各地で翻訳上演され,ゴーリキーの名は世界中に知られるようになった。〈かつて人間であった人々〉,元旅役者,元男爵,泥棒,浮浪者など社会の下層の人間たちが住みついている簡易宿泊所が舞台である。ここに姿を現した巡礼ルカーは,生きる希望もない零落した人々に同情し,ひとりひとりに安らぎの言葉を与え,救済の幻影で慰める。若々しい希望を実らせるかに見えた泥棒ペーペルと非道な経営者の妻の妹ナターシャとの愛は破滅し,ルカーが去った後,一同はまたもとの虚脱におちいる。浮浪者サーチンがルカーの慰めの偽りを暴いて,真実を直視する勇気と人間の尊厳を説くが,彼とてもこのどん底の生活から脱け出すあてはない。1936年,フランスで映画化(監督J. ルノアール)されたほか日本においては1910年小山内薫の自由劇場が《夜の宿》と題して上演して以来,新劇の最も人気のある出しものの一つとなった。黒沢明の映画《どん底》(1957)も,ゴーリキーの原作を翻案した作品である。
執筆者:川端 香男里
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…チェーホフやコロレンコはこれに抗議して会員を辞任した。この年,戯曲《どん底》を発表,その上演を通して文名を内外に高めた。05年の革命に積極的に参加,逮捕されるが,国の内外の激しい抗議でまもなく釈放された。…
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