主知主義(読み)シュチシュギ(その他表記)intellectualism

翻訳|intellectualism

デジタル大辞泉 「主知主義」の意味・読み・例文・類語

しゅち‐しゅぎ【主知主義】

感情意志よりも知性理性の働きに優位を認める立場主知説。⇔主意主義主情主義
認識論で、真理は理性によって合理的に把握されるとする立場。
形而上学で、世界の根本原理を知的・理性的なものとする立場。
倫理学で、行為を律する道徳的原理を知性や理性のうちに求める立場。
心理学で、すべての心理的現象を知的な要素から説明しようとする立場。
文芸史で、知性を重んじる立場。

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精選版 日本国語大辞典 「主知主義」の意味・読み・例文・類語

しゅち‐しゅぎ【主知主義】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 一般に知性を重んじる立場。主知説。
    1. (イ) 認識論で、感覚主義や経験主義に対し、真理は理性によって得られると説く合理主義の立場。プラトンアリストテレスデカルトカントの立場。
    2. (ロ) 感情、意欲、行動よりも思惟と認識をより優位に置く立場。プラトン、スピノザのたぐい。
      1. [初出の実例]「学問の為の学問といふ立場は、〈略〉学問の価値が唯一にして最高だとすることが多い、而して此の立場が所謂主知主義(Intellectualism)と称せられるものである」(出典:学生と読書(1938)〈河合栄治郎編〉読書の意義〈河合栄治郎〉六)
    3. (ハ) 倫理学で、知性や理性によってすべての行動を導こうとする主張。ソクラテス、カントのたぐい。
    4. (ニ) 心理学で、知性が精神生活の第一義的なもので、他の精神作用はこれに基づくとする説。スピノザのたぐい。
  3. の哲学的根拠に基づいて、知性的表現に重点をおく文学、またはその運動。特に、イギリスの、一九世紀後半のビクトリア王朝時代にあらわれた女流作家ジョージ=エリオットの作品に代表される。
    1. [初出の実例]「リードさんは大体主知主義といふレッテルをはられてゐるやうだけれど」(出典:春興倫敦子(1935)〈福原麟太郎〉主知主義的会食)

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改訂新版 世界大百科事典 「主知主義」の意味・わかりやすい解説

主知主義 (しゅちしゅぎ)
intellectualism

感性・情意に認識の起源を求めず,知性ないし精神の思考にこれを求める哲学上の立場。この場合〈知性intellectus〉は感性に対立し,分析・分別する悟性,統括・直覚する理性を含む。合理主義よりも若干狭い意味で用いられ,情意とくに〈意志voluntas〉を起源とする主意主義に対立する。言葉としては19世紀初頭の成立。シェリングは対話編《ブルーノ》(1802)で唯物論に主知主義,実在論に観念論を対置した。主意主義は1883年テンニースによる造語で,パウルゼン,ブントがこれを広め,後者は主知主義の立場と論争した。主知主義,主意主義の対立が合理主義,非合理主義の対立よりも範囲が狭く,人間の知性と意志との優先をめぐるのは,こうした事情による。哲学史上,主知主義の系列はソクラテス,プラトン,アリストテレス,トマス・アクイナス,デカルト,ライプニッツ,ヘーゲルヘルバルトなど。主意主義はストア学派,アウグスティヌス,ドゥンス・スコトゥス,カント,フィヒテ,シェリング,ショーペンハウアー,ニーチェ,ブントなど。中世ではとりわけドミニコ会が主知主義,フランシスコ会が主意主義の傾向がある。日本の哲学者では桑木厳翼が主知主義,西田幾多郎が主意主義に当たると言いうる。今日の問題としては,人類の欲求,意欲,意志が知性をも操縦しているように見えるが,衝動や欲求を制御しうる知性を人類が入手できるか否か,知性は無力であってただ衝動や欲求を一時的に阻止したり阻止を解除したりするだけに留まるのかが議論の的となる。晩年のM.シェーラーが,精神と衝動との相互浸透として人類の歴史を構想したことを回想する必要があろう。
主意主義
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「主知主義」の意味・わかりやすい解説

主知主義
しゅちしゅぎ
intellectualism

人間の心は知・情・意からなるなどといわれるが、このうち知の面を、つまり知性とか理性とか悟性とかよばれる知の機能を、ほかの感情や意志の機能よりも上位に据える見方が一般に主知主義とよばれ、感情を上位に置く主情主義(情緒主義)や、意志を上位に置く主意主義に対するものとして用いられる。とくに中世のスコラ哲学では知性と意志の関係が問題になり、知性の優位を説いたトマス・アクィナスが代表的な主知主義者であるが、この傾向はさかのぼってはアリストテレスに代表されるギリシア哲学に、下ってはスピノザやヘーゲルの汎(はん)論理主義にみいだすことができる。

 また、認識が感官によってではなく知性によって生ずるとする合理論も、広義での主知主義に属する。倫理学では、感情を退け、冷静な知的洞察と熟慮に基づいて意志を規定すべきだとするのが主知主義的な立場で、これはなまのままの感情や意志の動きを重視する非合理主義に対立する。

[宇都宮芳明]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「主知主義」の意味・わかりやすい解説

主知主義
しゅちしゅぎ
intellectualism

一般には,すべての存在は原理的に,観念や真理などの合理的要素に還元しうるとする哲学上の立場 (プラトン,アリストテレス,デカルト,カント,ヘーゲルなど) 。存在と思考との区別を認めるものと,両者を同一視する立場とがある。価値の観点からは,知性の最優位を唱え,意志や感情は2次的なものであり,知性に従属するものであるとする。スコラ哲学においては善と意志とが最も根本的であるとしたボナベントゥラなどに対して,存在 (真) と知性との優位を主張したトマス・アクィナスらの立場が主知主義と呼ばれている。

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百科事典マイペディア 「主知主義」の意味・わかりやすい解説

主知主義【しゅちしゅぎ】

英語intellectualismなどの訳。一般に,意志や感性よりも知性・理性の働きを重視する思想上の立場。この場合の〈知性intelletus〉は特に〈意志voluntas〉と対照して用いられ,それゆえ主知主義はもっぱら主意主義の対とされる。知の根拠を求めてやまない西洋哲学は古来主知主義が主流。
→関連項目ブレモン

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