借景(読み)しゃっけい

精選版 日本国語大辞典 「借景」の意味・読み・例文・類語

しゃっ‐けい シャク‥【借景】

〘名〙 造園技巧の一つ庭園外の山、海、森林などの風景を、庭園の景の一部としてとり入れること。また、その景。
畜生塚(1970)〈秦恒平〉四「借景がみごとな温和な庭の写真が印象鮮かだったので」 〔園冶‐借景〕

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デジタル大辞泉 「借景」の意味・読み・例文・類語

しゃっ‐けい〔シヤク‐〕【借景】

造園技法の一。庭園外の山や樹木などの風景を、庭を形成する背景として取り入れたもの。京都修学院離宮庭園などが知られる。
[類語]光景情景シーン場景全景パノラマ前景近景遠景後景背景バック

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「借景」の意味・わかりやすい解説

借景
しゃっけい

日本庭園の一様式。庭園の背後あるいは横の部分の、美しい山や山脈海洋湖沼社寺の建築(とくに塔)などを背景として扱い、その庭園の中に溶け込ませる技法で、一般の庭園愛好家に好まれている。

 従来からあった借景の方法を個別にみると、次の種類に分けられる。

(1)近山を借景にしてそれを庭に接続する。

(2)近山を別の景観として取り扱う。

(3)背景の森林を庭に接続しているようにみせる。

(4)背景の森林を別個の存在のようにみせる。

(5)遠景と近景を庭園に接続させる。

(6)遠景と近景を別個の景観として取り扱う。

(7)中景および遠景を庭園の背景とする。

(8)上の方法で古建築や古塔などを意識的に庭園景致に導入したもの。

(9)湖沼および遠山を絵画的に庭園に導入する。

(10)内海あるいは湾を、庭園から俯瞰(ふかん)することによって別個の景観を構成する。

(11)一般近景を絵画的に庭園内に導入する。

(12)遠景の絵画的導入。

 このような借景導入の方法は平安期ころから扱われていたが、もっとも流行したのは江戸初期と、明治・大正・昭和初期である。ただその内容は時代によって著しい差があった。江戸期のものは自然主義的傾向と象徴主義的傾向の二つがあり、それぞれ発想と表現と目的を十分理解した作品が多く、ために傑作も生まれた。明治以降のものは、借景のみに力を入れすぎて肝心の作庭内容に力がなく、借景の目的が本末転倒となっている場合が多い。

[重森完途]

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改訂新版 世界大百科事典 「借景」の意味・わかりやすい解説

借景 (しゃっけい)

造園技法の一つ。庭園外の景物をとりこんで構成の要素とする場合,これを借景という。中国明代の書《園冶》(1628)に初めて現れる言葉で,中国や日本のような風景式庭園で採用される手法である。とりこまれる景物は自然の山の場合が多いが,松並木あるいは楼閣や塔のような建造物の例もある。日本における借景は,中世まで眺望にすぐれた立地を求めたり,天竜寺庭園のように背後の嵐山と一体となるような,自然そのものと融合させることが中心であったが,近世以降は,庭内に近景,中景をおき,借景を庭園の遠景として,庭園に空間的広がりを与え,庭園そのものを中景,近景とともに絵画的に変質させる技法となった。そのため近景,中景としての灯籠,樹林などが強く意識された。複雑で変化に富み,また小規模な地形の多い日本では,借景の材料は至るところにあり,借景を生かした名園が数多く作られ,京都の修学院離宮,円通寺,無鄰庵,奈良の依水園などが有名である。なお,京都の庭師の間では景物を生けどることから〈生けどり〉とも呼ばれた。
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百科事典マイペディア 「借景」の意味・わかりやすい解説

借景【しゃっけい】

日本庭園において,庭外の風景を景観として利用すること,あるいはその風景をさす。借景式庭園では,風景が主題となって庭自体は簡素化された例が多い。京都では比叡山を借景としてとり入れた庭が多く,修学院離宮,円通寺などの庭園がその代表例。

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