江戸中期の浮世絵師。通称源八。芳月堂,丹鳥斎,文角,梅翁,親妙などと号した。菱川師宣,鳥居清信の画風を模倣することから始めて,すでに10歳代から浮世絵師としての生活に入る。確認される最初期の作品は,前年刊行の清信の絵本を模写した《娼妓画牒(けいせいえほん)》(1701)である。以後,墨摺絵,丹絵,紅絵,漆絵,紅摺絵と浮世絵版画の初期の発達段階をすべて経験し,終始中心的な人気絵師として活躍,錦絵時代に入る前の年に没している。得意とした画域は美人画,役者絵,武者絵,花鳥画,風景画と広く,西洋画の透視遠近法を応用した浮絵(うきえ)を工夫,あるいは極端に縦長な画面の幅広柱絵という判式を創案して,〈浮絵根元〉〈はしらゑ根元〉などと自称した。こうした自己宣伝の癖は,享保(1716-36)の中ごろから自ら絵草紙問屋奥村屋を経営したことと無縁ではない。立羽不角に江戸座の俳諧を学び,京都の浮世絵師西川祐信の画風を慕って,俳諧的抒情に富んだ優雅な美人風俗画を得意とし,後進の石川豊信,鈴木春信らに大きな影響を及ぼした。肉筆画にも優れ,《小倉山荘図》(東京国立博物館)などがある。門人に奥村利信(生没年不詳)がおり,享保から寛延(1716-51)にかけて紅絵や漆絵の美人画・役者絵を多く描いた。柔らかな線と鮮やかな配色によって,優美艶麗の度は時に師をしのぐものさえあり,近年とみに評価が高い。
執筆者:小林 忠
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江戸中期の浮世絵師。元禄(げんろく)期(1688~1704)から錦絵(にしきえ)誕生直前まで約60年の長期間活躍し、前錦絵時代を代表する絵師だが、生没年については異説もある。俗称源八。芳月堂(ほうげつどう)、丹鳥斎(たんちょうさい)、文角(ぶんかく)、親妙(しんみょう)などと号す。菱川師宣(ひしかわもろのぶ)、鳥居清信風を基調に一流を確立。壮年期、版本を通じて京の西川祐信(すけのぶ)の影響も受ける。自負心が強く、晩年に至るまで研究心、開拓心を失わず、自身通塩町(とおりしおちょう)で版元奥村屋を経営した関係もあって、さまざまなくふうを試み、自ら版行した。ことに柱絵(はしらえ)、浮絵(うきえ)を創製したことは高く評価されている。美人画、役者絵、花鳥画、武者絵と幅広く活躍、肉筆画、版本も多いが、初期の丹絵(たんえ)時代の美人画はとくに優れ、生動感を抑え、柔和でふっくらとした優しさを感じさせる。代表作は『遊女張果郎』『遊色三幅つい』『七夕(たなばた)』など。門弟に奥村利信(としのぶ)がいる。
[浅野秀剛]
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(大久保純一)
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…近景が浮き出て見えるところからこの名が生まれたが,逆に遠景がくぼんで見えるところから〈くぼみ絵〉とも呼ばれた。1740年(元文5)の作と推定される奥村政信の《芝居狂言舞台顔見世大浮絵》などが早期の例で,寛保・延享年間(1741‐48)の第1次流行期に政信と西村重長が,また明和~天明年間(1764‐89)の第2次流行期に歌川豊春が多作している。浮世絵風景画の発展に寄与するところが大きかった。…
…ことに江戸歌舞伎特有の荒事の演技を活写する鳥居派の〈瓢簞足蚯蚓描(ひようたんあしみみずがき)〉と称される描法は,役者絵独特の描法として現代にまで踏襲されている。享保年間以降の18世紀前半,紅絵・漆絵期には奥村政信が版画の,宮川長春が肉筆画の中心画家として活躍した。ともに描写は繊細の度を加え,詩的(文学的)情趣を伝えることに意が注がれるようになってくる。…
…東川堂里風,伯照軒(松野)親信,梅翁軒永春,滝沢重信,西川照信らの名が知られる。また宮川長春,奥村政信らも強い影響を受けた。【小林 忠】。…
…また,師宣には《北楼及演劇図画巻》(東京国立博物館)という肉筆画巻もあり,遊里とともに二大悪所と目された芝居町の風俗を多様な角度からとらえているが,木版画の一枚絵を主たる表現手段とした以後の浮世絵師は,個々の役者の姿絵に芝居絵の範囲をほぼ限定していくようになる。 そうした中で,西洋画の遠近法を採り入れた〈浮絵〉の手法により劇場の内部を統一的に描いた奥村政信(1686‐1764)や,三都の芝居町の楽屋内の模様をそれぞれ大判三枚続きの大画面に精細に報告した歌川国貞(1786‐1864),あるいは土壁への釘による落書になぞらえて滑稽な役者似顔の戯画を生んだ歌川国芳(1797‐1861)らの,異色の画業が特筆されるであろう。さらには,幕末の土佐に出て,奔放な筆致と原色的な色彩を用い,地方土着の激情を台提灯絵(だいちようちんえ)の芝居絵に発散させた絵金(1812‐76)の活躍も注目に価するものがある。…
※「奥村政信」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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