椎葉(読み)しいば

精選版 日本国語大辞典 「椎葉」の意味・読み・例文・類語

しいば しひば【椎葉】

宮崎県北西部の地名。耳川上流域の山地にあり、大部分林野が占める。平氏追討の源氏、那須大八郎が平氏の鶴富姫との間に残した遺児が那須姓を名乗り、この地を支配したとする平家落人伝説がある。鶴富屋敷(那須家住宅)は重要文化財。民謡「稗搗(ひえつき)節」も名高い。上椎葉に、日本最初のアーチ‐ダムとして知られる上椎葉ダムがある。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「椎葉」の意味・読み・例文・類語

しいば〔しひば〕【椎葉】

宮崎県北西部の地名。耳川上流に位置し、上椎葉ダムがある。那須大八郎と鶴富姫の伝説や民謡「ひえつき節」の地。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「椎葉」の意味・わかりやすい解説

椎葉[村] (しいば)

宮崎県北西部,熊本県境にある東臼杵郡の村。耳川上流の九州山地中心部にあり,村の周辺には市房山(1721m),国見岳(1739m)などの急峻な山々が連なる。人口3092(2010)で,1980年までの10年間に約2200人減少した。村の面積537km2は,平成の大合併以前の九州の市町村のなかでは最大であり,人口密度7.8人/km2は県内最低で典型的な過疎地である。耳川が山地を浸食し,谷底に近い部分はV字形をなすが,峰に近い標高700m付近から傾斜が緩くなっている。したがって古い道路,集落,畑などは深い渓谷の上部の緩斜面に立地している。源平の争いに敗れた平家の落人たちがこの地に逃れ住み,これを追って来た源氏の那須大八郎と平家の鶴富姫との間の恋物語の伝説は民謡《稗搗(ひえつき)節》にうたわれて,全国的に有名になった。上椎葉にある那須家住宅(鶴富屋敷。重要文化財)は19世紀前半の建築で,大家族制のなごりをとどめ,一部に寝殿造がみられる。藩政時代は肥後の人吉藩領であった。1955年に上椎葉の耳川に日本最初のアーチ式ダムである九州電力の上椎葉ダム(有効貯水量7600万m3,最大出力9万kW)が建設され,これを契機に周辺の道路,住宅,学校などの近代化が進んだ。村域の99.5%は山林で,木材やシイタケ肉牛の生産が多い。
執筆者:

耳川の水は太平洋斜面に注ぐが,政治・文化の面では山をこえた西の熊本県側と交渉が深かった。1930年代まで焼畑にヒエ,アワ,豆類を作り,いもなどにたよる生活がいとなまれ,木材,木炭,シイタケなどの林産が多くなったのは谷底に道路が開かれた比較的新しい時期である。

 住民には那須(奈須),椎葉姓が多く,平家の落武者の伝説があり,神楽や民謡の伝承されたものも多く,ことにイノシシ,シカを対象とした狩猟習俗は柳田国男の《後狩詞記(のちのかりことばのき)》(1909)に報告されて西日本の山村民俗研究の扉を開くものとなり,焼畑耕作に伴う民俗とともに稲作文化に属さない日本人の生活をあとづける上で高く評価される資料を保持してきた。しかしながら歴史的には中世末まで小土豪の内部抗争が激しかったために,江戸幕府の成立後武力討伐をうけて多くの住民が刑死または離散しているので,社会組織や信仰の面では必ずしも古い伝承がそのまま維持されてきたとは認められない。椎葉という地名の由来は明らかでないが,柳田国男は名字となっている〈ナス〉とともに,山間の特殊な地形を指す呼称ではなかったかと考えていた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の椎葉の言及

【民家】より

…棟端に〈みんのす〉と呼ばれる独得の飾りをつける。(4)椎葉の民家 宮崎県東臼杵郡椎葉村を中心とする阿蘇山の南東の山間部には,土間が狭く,3室の居室が一列に並び,前面1間通りを座敷縁とし,背面に戸棚や床の間を備えた細長い平面の民家が多い。このような平面の民家は,奈良県の十津川や静岡県の井川などにも見られる。…

※「椎葉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android