文化財保護法(1950)によると、無形文化財とは「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの」と定義づけられている。これは建造物、絵画、彫刻、工芸品などの有形文化財に対して無形文化財と命名しているのである。有形文化財が「物」をさしているのに対し、無形文化財は芸能や工芸技術などのように演技や制作技術など、特定の個人や集団が相伝し、体得している無形の「技(わざ)」そのものをさしている。その技を体得している「人」や「人の集団」をさしているものではない。
無形文化財のなかでとくに重要なものを文部科学大臣は重要無形文化財として指定することができる。この場合には重要無形文化財に指定される無形の「技」の存在を具体化するため、その技を高度に体現できる人、またはその技に精通している人、または前記の人や集団を保持者または保持団体として認定しなければならない。この保持者のことを「人間国宝」といっているが、俗称である。指定保持者が死亡したとき、または指定保持団体が解散等により保持が適当でなくなったときは、指定が解除される。
なお、1975年の文化財保護法の改正で、従来の「民俗資料」は「民俗文化財」という名称に改められ、民俗芸能はそれまで無形文化財の芸能部門に属していたが、以後は無形の民俗文化財として取り扱われ、無形文化財の範疇(はんちゅう)には入れていない。
保持者の認定は、以下のものが対象となっている。
(1)指定された技を高度に体現・体得している者。
(2)指定された技を正しく体得し精通している者。
(3)芸能の場合で、2人以上のものが一体となってそれらの技を高度に体現できる者(歌舞伎(かぶき)、雅楽など)。工芸技術の場合で、共通の特色を有する高度な技術を体得している2人以上の者が構成する団体の構成員。
(4)芸能または工芸技術の性格上、保持者とすべき者の技に個人的特色が薄く、かつ保持者とすべき者が多数である場合(手漉(てすき)和紙、結城紬(ゆうきつむぎ)など)において、これらの者が主たる構成員となっている団体。
(1)(2)は個人を保持者とし各個認定といい、(3)は総合認定、(4)は保持団体認定という。2019年(令和1)11月時点で、各個指定は76件でその保持者は117(実員116)人、総合認定は30件、保持団体認定は30団体である。
重要無形文化財保護のため、国は保持者に重要無形文化財保存特別助成金を交付し、保存を適当と認める団体が行う保存事業に補助金を交付し、また国自ら記録の作成、資料・作品の購入などを行っている。さらに、重要無形文化財以外の無形文化財のうち、貴重なものを選択し記録保存等の措置を講じている(選択無形文化財)。
なお、無形の技術のうち文化財の保存のために欠くことができない伝統的技術または技能で、保存の措置を講ずる必要があるものを「選定保存技術」として選定し、選定された技術の保持者または保存団体を認定している。この「技」も無形文化財の一つである。2019年11月時点で保持者56人、保存団体は39である(「個人・団体」として認定されている5件は個人、団体それぞれに加算)。
[榎本由喜雄 2019年1月21日]
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能楽・文楽・歌舞伎・音楽などの芸能や,陶芸・染織・金工などの工芸技術,その他の無形の文化的所産のうち,歴史上および芸術上価値の高いもの。2015年(平成27)6月現在106件で,個人112人と団体27件が国の重要無形文化財に指定されている。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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[文化財の種類]
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※「無形文化財」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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