社会権(読み)シャカイケン

デジタル大辞泉 「社会権」の意味・読み・例文・類語

しゃかい‐けん〔シヤクワイ‐〕【社会権】

人間に値する生活を営むために国民国家に対して保障を要求する権利ワイマール憲法で初めて規定され、日本国憲法は、生存権教育を受ける権利、勤労権勤労者団結権団体交渉権などを規定している。

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精選版 日本国語大辞典 「社会権」の意味・読み・例文・類語

しゃかい‐けんシャクヮイ‥【社会権】

  1. 〘 名詞 〙 国民が生存するために、国家に対して一定の公共的な配慮を求めることができる権利。健康で文化的な最低限度の生活を営む権利、教育を受ける権利、勤労の権利、勤労者の団結権など。自由権、参政権とともに基本的人権の一つ。社会的基本権生存権的基本権

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会権」の意味・わかりやすい解説

社会権
しゃかいけん

基本的人権の一つで、個人の生存、生活の維持・発展に必要な諸条件の確保を国家に要求する国民の権利をいう。社会的基本権あるいは生存権的基本権などともよばれる。

[池田政章]

社会権の変遷と憲法

社会権は、人間の生存本能を基礎とするものであるから、人間社会において、いつの時代でも問題とされてきた。近代国家が成立した17、18世紀のころになると、恐怖や圧制からの解放が主張され、生存に対する危害・障害を除去するよう、国家が公共的配慮をなすべきものと考えられた。このような国家の国民に対する配慮は、今日いわれている社会権のそれとは異なり、個人の生命と身体の自由の保障であった。確かにこのような自由権の保障により、人間は物質的にも精神的にもその創意に基づく生活ができるようになった。その後19世紀後半から20世紀にかけて、資本主義に内包された矛盾が顕在化するにしたがい、自由権だけではもはや社会構成員の生存を確保することが不可能な状況の下に置かれるようになった。そこで社会主義・共産主義の思想家たちは、資本主義を制限あるいは否定することにより、個人の生存の維持・発展に関し、国家が公共的配慮をすべきであることを説いた。

 このような思想を取り入れて、社会権について規定した著名な憲法が1919年のワイマール憲法(ドイツ共和国憲法)である。この憲法は、所有権や個人の経済的自由を認めたうえで、財産権の制約、生存権の保障を目的としていた。このような社会権を積極的に承認して、自由主義の弊害を除こうとする人権体制を、普通、人権の社会化といい、その国家体制は社会国家とよばれた。

 人権の社会化の思想は、第一次世界大戦後、チェコスロバキア憲法(1920)、ポーランド憲法(1921)などに継受されたが、それが広く普及するのは第二次大戦後で、フランス第四共和国憲法(1946)、イタリア憲法(1947)、中華民国憲法(1947)などがあげられる。日本国憲法もこの範疇(はんちゅう)に属する。社会国家における社会権は、国家に一定の施設、給付の提供をなすことを義務づけた結果、それを具体化する法律によって、初めて請求権が具体化される。

[池田政章]

人民民主主義国家の社会権

ロシア革命によって成立したソビエト共和国は、1918年の憲法(レーニン憲法ともいう)において、生産手段の国有化を中心とする社会主義社会の確立を宣言し、社会権の保障を宣言した。その発展としてとらえられる1936年のソ連憲法(スターリン憲法ともいう)においては、社会権はその保障の方法その他の点で、社会国家の場合より、いっそう徹底している。これは人権の社会主義とよばれ、第二次世界大戦後の人民民主主義国家の場合も同様である。これらの国においては、社会権の保障は実質化され、国家はこの権利を現実化するために物的手段を確保し提供する義務を負い、他方、人民はそれを請求する権利をもっているとされる。

[池田政章]

日本国憲法における社会権

日本国憲法も社会権を定めており、具体的に、生存権、教育権、勤労権および勤労者の団結権・団体交渉権・団体行動権を規定している。まず、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が憲法で規定され(25条)、その保障のために、社会諸立法(たとえば生活保護法、社会福祉法、厚生年金保険法、国民年金法、雇用保険法、国民健康保険法など)によって生活福祉の増進が図られており、国民はこれらの諸法規を通じて国家の配慮を要求することができる。

 教育権については、機会均等な教育を受ける権利と義務教育の保障が規定され、小・中学校の9か年の義務教育についてこれを無償としている(26条)。生存権の実質的な保障のためには、勤労の権利の確保が必要であるが、国家は労働の機会提供について、職業安定法、雇用保険法などを制定し、労働基準法を設けて勤労条件に関する基準を定め、児童の酷使を禁止している(27条)。さらに、使用者の経済的優位に対抗して契約の実質的平等を確保するためには、労働者が団結して交渉にあたる自由の保障が必要とされるが、そのために勤労者の団結権、団体交渉権、団体行動権(労働争議示威運動など)が憲法で保障されている(28条)。

[池田政章]

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百科事典マイペディア 「社会権」の意味・わかりやすい解説

社会権【しゃかいけん】

基本的人権の一つで,生存権,教育を受ける権利,労働基本権,社会保障の権利など社会で人間が人間らしく生きるための権利全体をさす。社会的基本権または生存権的基本権とも呼ばれる。資本主義経済の高度化が生み出す富の偏在,貧困,失業などの問題の克服や自由権の形骸化を防ぎ,自由と社会的平等を保障することを国家権力に求めるための権利として,比較的新しく登場した権利概念であることから20世紀的人権とも呼ばれる。日本国憲法では前文で〈国家により欠乏や抑圧から免れる権利〉を規定し,〈労働基本権〉(第28条),〈社会保障を受ける権利〉(第25条),〈生存権〉(第25条),〈教育を受ける権利〉(第26条)などの社会権が定められている。1966年国連は,社会権を中心とする人権の国際的な保障に関する多数国間条約である〈経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約〉を国連総会で採択,1976年1月発効した。日本では〈社会権規約〉と略称される。同時に採択された〈市民的及び政治的権利に関する国際規約〉(自由権規約,B規約)に対してA規約とも呼ばれ,両規約およびその選択議定書をあわせて国際人権規約とされる。社会権規約は賛成105反対0で採択された。日本は両規約とも1978年に署名,1979年批准,同年9月に発効した。
→関連項目日本国憲法

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改訂新版 世界大百科事典 「社会権」の意味・わかりやすい解説

社会権 (しゃかいけん)
Sozialrechte[ドイツ]
droits sociaux[フランス]

国家が個人の生存の維持・発展に必要な諸条件の確保に責任を負う社会国家において,社会保障施策などを要求しうる国民の権利をいう。社会的基本権または生存権的基本権ともいう。資本主義経済の発達によって生みだされた富の偏在,労働者の貧困,失業などの社会問題を克服し,伝統的自由権が形式化することを防ぎ,実質的な自由と平等を保障するために登場した,新しい型の基本権である。ワイマール憲法(1919)の〈経済生活の秩序は,すべての者に人間に値する生存を保障する目的をもつ正義の原則に適合しなければならない〉(151条)という規定はその先駆である。日本国憲法の保障する社会権には,生存権(25条),教育を受ける権利(26条),勤労の権利(27条)および労働基本権(28条)がある。社会権は国家権力の積極的関与により社会的・経済的弱者の生存の維持をはかるものであり,その実現には立法による具体化が先決である。
基本的人権
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「社会権」の意味・わかりやすい解説

社会権
しゃかいけん

個人が社会のなかで生存し,人間らしい生活を維持,発展させるために,自由な社会に特有な弱肉強食の弊害を除去することを国家に対して求める権利の総称。生存権的基本権とも社会権的基本権ともいわれる。日本国憲法の保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」 (いわゆる生存権。 25条1項) ,教育を受ける権利 (26条) ,勤労の権利 (27条) ,労働基本権 (28条) などがこれに属するものとされている。自由権中心の 18~19世紀人権保障体系に対して,資本主義体制の生み出した問題状況に対処すべく,社会,経済的弱者の保護を意図して形成されてきたもので,20世紀の人権保障体系において自由権と並んでもう一つの支柱をなす権利である。社会権は,自由権と違って,国家に対して積極的行為 (作為) を要求することを内実とすることから,その法的性格につきそれはいわば努力目標にすぎないというプログラム規定説が主張され,その主張をめぐって各種の議論がある。

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世界大百科事典(旧版)内の社会権の言及

【基本的人権】より

…19世紀に入ると,人権の保障は成文憲法の構成部分となって,世界各国に普及するが,ドイツや日本のように市民革命を経験せずに上からの近代化が進められたところでは,基本的人権も欽定憲法のなかで君主より恩恵的に与えられた国民の権利であって,国家以前の人権ではありえなかった。
[自由権から社会権へ]
 18世紀に成立し,19世紀に普及した古典的人権は,信教の自由,言論・出版の自由,住居の不可侵,財産権の不可侵のように,本質的に個人の〈国家からの自由〉をその内容とする自由権であった。それは,市民革命が市民の自由に対する国家の介入と抑圧の排除を目的としておこったこと,および市民階級の最大の要求が自由と財産権の保障であったことから理解される。…

※「社会権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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