金剛蔵王菩薩ともいう。修験道の開祖役行者(えんのぎようじや)が金峰山(きんぷせん)の頂上で衆生済度のため祈請して感得したと伝える魔障降伏の菩薩で,釈迦仏の教令輪身。胎蔵界曼荼羅虚空蔵院の金剛蔵王(こんごうぞうおう)菩薩とは別体。形像は一面三目二臂(ひ),身色青黒の忿怒形(ふんぬぎよう)で,左手は剣印を結んで腰につけ,右手は三鈷杵(さんこしよ)を奉持して頭上高く掲げ,左足は磐石を踏み,右足は空中に躍らす。役行者の祈請により山上湧出岩から躍り出たそのときの姿を表したものとされる。経軌(きようき)には見えず,日本の山岳信仰の中で生まれた独自の権現で,磐境(いわさか)の巨石信仰に由来すると思われる。《本朝法華験記》に,849年(嘉祥2)に没した僧転乗が生前金峰山の金剛蔵王宝前に参詣した話を載せているので,平安初期に奉斎されていたことは確実である。平安中期に弥勒(みろく)信仰が盛んになり,金峰山は弥勒浄土の兜率(とそつ)内院に擬せられ,金剛蔵王は弥勒の化身とされた。これによって御嶽詣(みたけもうで)するものが多く,金峰山は天下第一の霊験所,蔵王は日域(日本)無二の化主とまでいわれた。修験道の隆盛,普及にともない,その本尊として諸国の霊山に勧請,奉斎された。最古の像は東京都総持寺(西新井大師)所蔵の毛彫鏡像(国宝)で,1001年(長保3)の作である。
執筆者:鈴木 昭英
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奈良時代の呪術者(じゅじゅつしゃ)役小角(えんのおづぬ)が、奈良県金峰山(きんぶせん)上で難行苦行ののち、感得したと伝える悪魔降伏(ごうぶく)の忿怒(ふんぬ)相の像。三目の顔で怒髪(どはつ)天をつき、右手は三鈷杵(さんこしょ)を握って高く振り上げ、左手は剣印を結んで腰部に当て、右足を振り上げ、左足のみにて岩石上に立つ形をとる。奈良県吉野の金峯山寺(きんぷせんじ)蔵王堂の本尊のほか、この系統の修験道(しゅげんどう)が全国に伝播(でんぱ)したこととともに、各地の寺院に存在するが、それらを通してみて、この像の成立は、役小角のころでなく、平安中期とみられている。修験道では険峻(けんしゅん)な山で忍苦の行(ぎょう)をし、心中の悪魔を降伏して験力を得ようとするが、そのようななかから生み出されたものであり、経軌(きょうき)(経典や儀軌)によるものではない。
[鎌田純一]
…前ジテは木守(こもり)明神の化身。後ジテは蔵王権現。勅命を受けた廷臣(ワキ)が,嵐山の桜の開花の様子を見に赴く。…
…また,役行者は孝養の心厚く,父母の供養につとめたり,母を鉢に乗せてともに唐に飛んで行ったという説話も生まれ,当麻(たいま)寺の四天王像は役行者の祈禱によって百済から飛んで来たという話をはじめ,当麻寺との密接な関係を説く説話も多い。鎌倉時代中期の《沙石集》には,役行者が金峰山の山上で,蔵王権現を感得したことが記されているが,修験道の本尊としてまつられるようになった蔵王権現を祈り出した役行者は,修験道の開祖とされるようになり,金峰山の山上ヶ岳山頂の蔵王堂の開創者と信じられることになった。山伏が語って歩いたため,役行者の伝説は各地にあるが,鎌倉時代中期の舞楽書《教訓抄》には,役行者は笛に巧みで,その音色をめでた山の神が舞を伝えたという話も見える。…
…奈良県中部,吉野の金峰山は修験道発祥の山として知られ,全国に分布する金峰山やそこにまつられる蔵王権現は,この吉野金峰山を模倣し勧請したものである。金峰山の境域は明確ではなく,およそ吉野山から大峰山にかけての山々を指すが,本来は青根ヶ峰(858m)を主峰とし,その信仰も神奈備(かんなび)信仰に発したと思われる。…
…この時期の肖像彫刻はむしろこの様風に近いともいえ,箱根神社の万巻上人像や神応寺の行教律師像の例があげられる。また古来の山岳信仰が育てた神格のうち,金峯山の神格が蔵王権現の姿をかりて全国的な規模で信仰をあつめるようになったのもこの時期である。長保3年(1001)の刻銘をもつ鋳銅刻画蔵王権現像(総持寺)はその姿を示す代表的な遺品であり,その他木像,銅製,丸彫,線描など多種多様な表現で,中世までその製作は絶えず行われた。…
※「蔵王権現」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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