袈裟(読み)ケサ(その他表記)kashāya[サンスクリツト]

デジタル大辞泉 「袈裟」の意味・読み・例文・類語

けさ【××裟】

《〈梵〉kasṣayaの音写赤褐色の意で、染衣せんえ壊色えしきなどと訳す》
インドで制定された僧侶衣服。青・黄・赤・白・黒の正色を避けて濁色の布を用いたところからの名。縫い合わせた布の数により、五条、七条、九~二五条の3種がある。中国・日本と伝えられる間に仏教標幟ひょうじとしての法衣にかわり、衣の上に左肩から右脇下にかけてまとう長方形の布となり、華美で装飾的なものとなった。宗派によって種々のものがある。功徳衣くどくい福田衣無垢衣むくい
袈裟懸け」の略。「袈裟に切る」
[類語]法衣

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精選版 日本国語大辞典 「袈裟」の意味・読み・例文・類語

けさ【袈裟】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( [梵語] kaṣāya の音訳。「濁」の意で、不正色、壊色(えしき)などの意 ) 仏語。僧が出家者の標識として着る法衣。青、黒または木蘭(もくらん)色の三種の濁った色で染めるところから、その名がある。製法は細長の布を縦に一定数縫い合わせて横長の形にし、それを縫い合わせる枚数によって、五条、七条、九条ないし二五条などの別がある。左肩から右の腋(わき)下に斜めに懸けてつける。後、中国、日本などではまったく形式的な上衣として華麗なものに変容し、各種の形ができ、各宗派によっても種々のものがつくられるに至った。解脱幢相衣。無垢衣。功徳衣。忍辱鎧。けさぎぬ。
    1. 袈裟<b>①</b>〈春日権現験記絵〉
      袈裟〈春日権現験記絵〉
    2. [初出の実例]「髯髪(ひけ)を剔除(そ)りて袈裟(ケサ)を披着(き)つ」(出典:日本書紀(720)孝徳即位前(北野本南北朝時代訓))
    3. 「我暫く頭を剃て袈裟の中に弓を隠して木の下に居たらむ」(出典:観智院本三宝絵(984)上)
    4. [その他の文献]〔釈氏要覧‐上〕
  3. けさがけ(袈裟懸)」の略。
    1. [初出の実例]「抜き打に、老女が細首けさに切って切り下げ」(出典:浄瑠璃・国性爺後日合戦(1717)二)

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改訂新版 世界大百科事典 「袈裟」の意味・わかりやすい解説

袈裟 (けさ)
kashāya[サンスクリツト]

もともとは色名で,壊色(えしき),濁色(じよくしよく)などと訳される。インドの仏教僧団で,不用になったり,捨てられた長短の布片を縫い合わせて,僧尼の着用すべきものとして制定された3種類の衣(三衣(さんえ))を袈裟と称した。すなわち僧伽梨(そうぎやり),鬱多羅僧うつたらそう)と安陀会(あんだえ)の三つである。僧伽梨は大衣,重衣ともいわれ正装衣に,鬱多羅僧は上衣として礼仏や説法聴聞に着用し,安陀会は内衣と称して日常の作業や肌着用に用いられた。仏教の北方流布とともに,規定の三衣のみでは身体の保温がたもてないために,下着を着用することになり,これは後に法衣(ほうえ)となった。インドの僧団生活で必需品であったこれらの三衣は,中国,日本では法衣の上に着用し,僧尼の身分を象徴するものとして,装飾化され,法会儀式や集会などに着用されるに至った。元来ぼろ布を利用するなど,質素なものであったのが,のちには華美に流れていった。黄土色をした三衣は風土気候の相違と,僧尼の官僚国家体制への従属化によって,中国,日本では,律部の経典の規定をふまえながら,華美なものが創作された。大衣といわれる僧伽梨からは九条から二十五条袈裟が,鬱多羅から七条袈裟が,安陀会からは五条袈裟が生まれ,さらに小五条,輪袈裟,畳五条(折五条),絡子鈴懸(すずかけ)といった変形的な袈裟が生まれた。普通には鬱多羅僧を七条,僧伽梨を九条袈裟と称しているが,平(ひら)袈裟,衲(のう)袈裟,紫甲(しこう)袈裟,遠山(とおやま)袈裟などの種別があり,僧階によりその着用が規制されている。例えば唐代では紫衣(しえ)と称し,紫色の袈裟と法衣は天子下賜のものとして重視された。735年(天平7)に帰国した僧玄昉は,入唐留学中に玄宗皇帝より三品に准ずるとして紫袈裟を賜ったが,帰国後に聖武天皇からも,紫袈裟をおくられ,僧正に任ぜられた。近世においては,後水尾天皇の紫衣勅許につき朝幕が衝突した紫衣事件は有名な史実でもある。
衣帯(えたい)
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「袈裟」の意味・わかりやすい解説

袈裟
けさ

僧の着用する衣。サンスクリット語のカシャーヤkāāya(赤褐色の意味)の音訳。もとは色名で、衣の名称ではなかったが、比丘(びく)の衣が不正色(ふせいじき)(濁色)であったところから衣の名となった。『十誦律(じゅうじゅりつ)』巻27によると、インド、マガダ国のビンビサーラ王が仏を礼拝(らいはい)しようとしたところ外道(げどう)(異教者)であった。そのため、王は仏および仏弟子と外道を区別できる衣服を願い、仏には袈裟(けさ)を着ることを制定した。形は、田の畦畔(けいはん)が整然としているのを見て、長い布と短い布をつなぎ合わせてつくることを指示した。袈裟の条相が田の畦(あぜ)をかたどっており、田に種を播(ま)けば秋に収穫があるように、仏を供養(くよう)すればかならず諸々(もろもろ)の福報を受けるという意味から、袈裟は福田衣(ふくでんえ)ともいわれる。ほかに、掃きだめなどから拾った布を使用することから弊衣(へいえ)、糞掃衣(ふんぞうえ)、小さく切った布片を何枚も縫い合わせたことから割截衣(かっせつえ)、衲衣(のうえ)ともいう。衣財は、綿、麻、絹、樹皮、毛などなんでもよく、色は青、黒、木蘭(もくらん)の濁った壊色(えじき)にする。大きさは、各人の身長に応じてつくられ、縦三肘(ちゅう)、横五肘の幅の局量法(こくりょうほう)と、衣財を直接体に当てて全体の長さを測る度量法がある。種類は、縫い合わせた布片の数により、五条(安陀会(あんだえ))、七条(鬱多羅僧衣(うったらそうえ))、九条~二十五条(僧伽梨衣(そうぎゃりえ))の3種があり、それらはいずれも奇数条である。奇数は陽の数として発展化育のもととなり、仏の教えは、永遠に割り切ることができないものであるからである。しかし、仏教が中国に伝播(でんぱ)するにつれて、生活資具の衣から仏教の標幟(ひょうし)となり、華麗な装飾的なものへと変遷していった。

[川口高風]

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普及版 字通 「袈裟」の読み・字形・画数・意味

【袈裟】けさ

僧の法衣。清・黄遵憲〔石川鴻斎英、僧と偕に来(きた)りて張副使に謁す。余此れを賦して以てを解く〕詩 先生昨(きのふ)、策を杖(つ)きて來る 兩三の老衲、共に聯袂す 袖、將(は)た同じきこと毋(なか)らんや 只だ袈裟と念珠を少(か)くのみ

字通「袈」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「袈裟」の意味・わかりやすい解説

袈裟【けさ】

サンスクリットkasaya(カサーヤ)の音写。出家法衣で,欲心を離れ他と区別する意で,華美でない濁った色,拾った布を綴(つづ)るのを原則とし,大・上・下の三衣各1枚の四角な布と制せられた。法衣が変遷し神聖視され,日本では衣(ころも)の上に着ける華麗な儀式用のものになった。七条・五条袈裟から禅宗の絡子(らくす),真宗,真言宗などの輪袈裟など略用まで各宗に種類が多い。
→関連項目奈良晒

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「袈裟」の意味・わかりやすい解説

袈裟
けさ

サンスクリット語 kaṣāya (「色の濁った」「よごれた」の意) の音写。仏教の僧侶のまとう衣の一つ。インドの仏教では赤,白などの色で染められた衣を禁じ,種々の色の溶け合った色を用いたので,その色からこのように名づけられた。元来,出家修行者はチーバラと称する三衣 (さんえ) を用いたが,仏教の諸国への伝播とともに変化し,中国,日本などでは種々の形のものがみられる。日本では僧の標識として衣服の上から着用され装飾化している。法会の際は錦綾,金襴,金紗などの織物を細長く裁断し,これを継ぎ合せた五条,七条,九条などの袈裟を着用し,平素は五条袈裟を変形した簡単な袈裟を用いる。また禅宗の絡子 (らくす) ,天台,真言宗の輪袈裟,修験者の結袈裟 (ゆいげさ) などはさらに簡略化された形式。

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世界大百科事典(旧版)内の袈裟の言及

【衣鉢】より

…日本で,茶道その他の諸芸の奥義を意味するのは,その転化である。インド仏教の戒律で,僧伽梨衣(普段着),鬱多羅僧(上衣),安陀衣(下着)という3種の袈裟(けさ)と,一つの鉢多羅,すなわち鉢盂(はつう)を所持することを認めたのが原義で,中国の禅宗では,五祖の法をつぐ神秀(じんしゆう)と慧能(えのう)がその衣鉢を争ったとされる。【柳田 聖山】。…

【衣帯】より

…衣帯は宗・派により名称,形状,用途が異なることが多いので,ここでは共通する事項についてのみ述べる。衣帯の基本は法衣(ほうえ)(いわゆる衣(ころも))と袈裟(けさ)で,それに被(かぶ)り物,履き物,持ち物等の付属品が加わる。衣帯を着けるには,下着として通常,白小袖(しろこそで)を着用し,その上に袴(はかま)の類をはき,法衣を着け,袈裟を掛けるが,袴類を用いない衣帯もある。…

【三衣一鉢】より

…僧伽梨(そうぎやり))のことで,これらはいずれも形や大きさ,色,縫製法,着用法などが定められていた。三衣を総称して〈袈裟(けさ)〉ともいうが,これはその色にちなんだ名称である。初期の出家者は質素な生活を旨としていたので,実際に私物として所有を許されたのはこの三衣一鉢と座具(ざぐ),漉水囊(ろくすいのう)の〈六物(ろくもつ)〉だけであった。…

【仏教美術】より

… 仏具は元来仏教教団の生活用具であったが,仏教が発展するにつれて儀式化し,工芸の粋を集めた多彩な優品が製作されるようになる。僧具のうち袈裟(けさ)はインドでは僧侶の生活着であったが,中国や日本では衣の上に,右肩から左腋下にかけて覆う儀式化したものとなる。横に布を継ぎ合わせた長方形の五条,七条,九条袈裟などがつくられ,奈良時代のものが正倉院や法隆寺献納宝物に遺存する。…

【結袈裟】より

…九条袈裟を山岳修行用に簡略化した修験道独自の袈裟。胸前左右に二つ梵天(房)の付いた二条,背の中央にも二つ梵天の一条を垂らし,その末端を威儀線の紐で固定するのが天台系の本山派の結袈裟で,梵天の色は,元来白か黒であったのが,現在は修験者の位階に応じて種々の色を用いる。…

※「袈裟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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