赤旗事件(読み)あかはたじけん

精選版 日本国語大辞典 「赤旗事件」の意味・読み・例文・類語

あかはた‐じけん【赤旗事件】

明治四一年(一九〇八)六月二二日、東京神田錦輝館での社会主義者山口義三出獄歓迎会に際し、大杉栄らが「無政府共産」と書いた赤旗をひるがえし、逮捕された事件錦輝館事件

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デジタル大辞泉 「赤旗事件」の意味・読み・例文・類語

あかはた‐じけん【赤旗事件】

明治41年(1908)6月、東京神田の錦輝館きんきかんで、社会主義者山口義三の出獄歓迎会を開いた際、荒畑寒村大杉栄らが「無政府共産」と書いた赤旗を掲げて屋外行進をしようとして検挙された事件。錦輝館事件。

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改訂新版 世界大百科事典 「赤旗事件」の意味・わかりやすい解説

赤旗事件 (あかはたじけん)

(1)1908年6月22日東京神田の錦輝館での山口孤剣(義三)出獄歓迎会終了後に起こった社会主義者と警官隊との衝突事件。当時社会主義勢力は,大杉栄らの直接行動派(硬派)と片山潜らの議会政策派(軟派)の二派に大きく分かれていた。筆禍事件で入獄していた山口は直接分派問題に関係がなかったこともあり,久しぶりに両派一堂に会して盛大な歓迎会を開いた。会の終了後,革命歌を歌いながら荒畑寒村らが準備した〈無政府共産〉〈無政府〉と白文字を縫いつけた赤旗を振り回したため,これを阻止しようとする警官隊と路上でもみあいとなった。格闘の末,大杉,荒畑,森岡栄治,佐藤悟などと管野スガら婦人4名,さらになだめ役だった堺利彦山川均も含め14名が検挙された。学生らの弥次馬が多かったためその中から別に2名の逮捕者も出た。この事件は大杉,荒畑らが軟派への示威にしたまったくのいたずらにすぎなかったが,当局はこの事件を重視し官吏抗告罪および治安警察法違反で,大杉に懲役2年6月,堺,山川に2年,荒畑に1年6月の重科を科した。社会主義に比較的寛大だった西園寺公望内閣は7月に総辞職し第2次桂太郎内閣に代わり,反動性を強めていく。また,赤旗事件当時高知にいた幸徳秋水は,急いで上京し,社会主義運動の立直しを図り,しだいに無政府主義者がその主流になっていった。
大逆事件
(2)1920年11月30日早朝,京都友愛会前会長高山義三の除隊歓迎で警官と衝突した事件。京都赤旗事件ともいう。高山の短期志願兵(1年志願兵)の満期退営に際し,出迎えに行った鍋山貞親ら有志50余名は,〈祝高山義三君出獄〉などと書かれた赤旗数本を押し立て,それを阻止しようとした警官と衝突した。その場は一応収拾したが,同日夕方警察は関係者を逮捕し,止め役の荒畑寒村をはじめ,鍋山,三野啓逸ら7名が公務執行妨害,傷害,治安警察法違反で起訴され,2~6月の禁錮に処された。高山はこの事件を契機に社会主義運動から手を引いた。
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百科事典マイペディア 「赤旗事件」の意味・わかりやすい解説

赤旗事件【あかはたじけん】

1908年6月,東京神田の錦輝館で当時の社会主義運動活動家が集まって山口孤剣(義三)出獄歓迎会を催した後,荒畑寒村らが用意した〈無政府共産〉〈無政府〉と白文字を縫いつけた赤旗を振りまわしたため,阻止しようとした警察官ともみ合いとなり,大杉栄堺利彦山川均,荒畑らが逮捕された事件。以後社会主義運動の弾圧が強まった。なお1920年京都友愛会前会長高山義三(ぎぞう)の除隊歓迎で鍋山貞親らが赤旗数本を押立て阻止しようとした警察官と衝突,のちに逮捕者を出した事件も京都赤旗事件,赤旗事件などという。
→関連項目管野スガ大逆事件

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤旗事件」の意味・わかりやすい解説

赤旗事件
あかはたじけん

明治後期の社会主義者に対する弾圧事件。錦輝館(きんきかん)事件ともいう。1908年(明治41)6月22日東京・神田の錦輝館における山口義三(ぎぞう)出獄歓迎会の終了まぎわ、幸徳秋水(こうとくしゅうすい)の直接行動論を支持する大杉栄(おおすぎさかえ)、荒畑寒村(あらはたかんそん)ら一派の者が、議会政策派への示威のため「無政府共産」「無政府」の文字を白テープで縫い付けた2本の赤旗を翻し、革命歌を歌い、無政府主義万歳を叫び、場外に出たところ、旗を巻けと命ずる警官隊との間で乱闘となった。結局、大杉、荒畑、堺利彦(さかいとしひこ)、山川均(ひとし)、管野(かんの)スガら16人が検挙された(うち2人は即時釈放)。山県有朋(やまがたありとも)系勢力はこれを大事件につくりあげ、社会主義取締りに比較的寛大であった第一次西園寺公望(さいおんじきんもち)内閣を辞職に追い込み(7月)、第二次桂(かつら)太郎内閣は社会主義取締りを強化する態度を打ち出した。8月29日東京控訴院は検挙者のうち10人に重禁錮2年半以下の重い実刑判決を下した。そしてこれが契機となり直接行動派内にテロリズムの傾向を生み、大逆(たいぎゃく)事件の遠因をなした。

[阿部恒久]

『荒畑寒村著『寒村自伝』(岩波文庫)』『吉川守國著『荊逆星霜史』(『資料日本社会運動思想史 第6巻』所収・1968・青木書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「赤旗事件」の意味・わかりやすい解説

赤旗事件
あかはたじけん

1908年6月 22日に起った,日本社会主義運動に対する弾圧事件。東京神田の錦輝館で開かれた山口義三の出獄歓迎会の閉会まぎわに,大杉栄ら無政府主義の青年グループが革命歌を歌いつつ会場外へデモ行進を始めたところ,そこへ警戒中の警官隊が襲いかかり,乱闘の末,大杉栄,堺利彦山川均荒畑寒村らが逮捕された。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「赤旗事件」の解説

赤旗事件
あかはたじけん

1908年(明治41)6月東京神田でおこった社会主義者と警官隊との衝突事件。当時の社会主義運動は直接行動派と議会政策派が対立していたが,筆禍事件で入獄中の山口孤剣(こけん)は分裂に無関係だったため,出獄歓迎会には両派が出席。錦輝館での会終了後,直接行動派が赤旗を振り回して警官隊と衝突。大杉栄・荒畑寒村やなだめ役の堺利彦・山川均(ひとし)ら16人が検挙された。当局は事件を重大視,関係者を重科に処し,社会主義者弾圧を加速して,大逆事件に至った。

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旺文社日本史事典 三訂版 「赤旗事件」の解説

赤旗事件
あかはたじけん

明治後期におこった社会主義運動弾圧事件
1908年6月,大杉栄・荒畑寒村ら社会主義者が,東京神田の錦輝館での同志の出獄歓迎会終了後「無政府共産」と書いた赤旗をかかげたので,堺利彦・大杉ら十数名が検挙され,うち10名が禁錮刑に処せられた。以後弾圧は強化され大逆事件に至る。

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