哲学者、美学者、評論家。明治16年8月27日、山形県飽海(あくみ)郡山寺村(現、酒田(さかた)市)の江戸前期以来代々名主格の旧家に生まれる。第一高等学校時代に斎藤茂吉(さいとうもきち)、安部能成(あべよししげ)、岩波茂雄などと交わり、東京帝国大学哲学科を卒業後、夏目漱石(なつめそうせき)の作品批評によって評価を受ける。漱石門下で小宮豊隆(こみやとよたか)らと親しみ、1911年(明治44)その合著『影と声』を出版して反自然主義の論陣を張る。1914年(大正3)に思索と精神的苦悩を基調とした自己省察の記録『三太郎の日記』を刊行、独自の理想主義を確立した。やがてそれは「人格主義」へと展開し、論壇の左右両翼から攻撃を受けるが、同書は大正教養主義の代表作として、学生・青年層にとって近代的自我覚醒(かくせい)のための必読書となった。また東北帝国大学美学教授として、リップスやニーチェの紹介に努め、連歌俳諧研究をはじめ日本文化の研究に業績をあげた。1954年(昭和29)私財を投じて阿部日本文化研究所(のちに東北大学文学部付属日本文化研究施設分館、ついで阿部次郎記念館となる)を設立した。学士院会員。昭和34年10月20日死去。主著に『徳川時代の芸術と社会』(1931)、『世界文化と日本文化』(1934)、訳書にゲーテの『ファウスト』などがある。
[原田隆吉 2016年8月19日]
『『阿部次郎全集』全17巻(1960~1966・角川書店)』
大正・昭和期の哲学者,美学者,評論家 東北帝国大学教授。
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哲学者,評論家。山形県の生れ。一高を経て,1907年東大哲学科を卒業。在学中から《校友会雑誌》《帝国文学》に執筆。また,《朝日新聞》の,夏目漱石主宰による〈朝日文芸欄〉などにも執筆し,安倍能成らとの合著《影と声》(1911)につづき,内的生活の記録である《三太郎の日記》(1914),《三太郎の日記第弐》(1915)によって読者に広く迎えられた。T.リップスの強い影響のもとに,《倫理学の根本問題》(1916)を考究し,《人格主義》(1922)に至って,人格を人間存在の統一原理としての生命と見る思想を確立。大正教養主義の代表者である。22-23年ヨーロッパ留学後,東北帝大教授となり,ゲーテの翻訳や著作,阿部日本文化研究所の設立などの業績もある。
執筆者:助川 徳是
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1883.8.27~1959.10.20
明治~昭和期の哲学者。山形県出身。東大卒。夏目漱石の門下。1922年(大正11)文部省在外研究員として渡欧,翌年帰国して東北帝国大学教授となり,45年(昭和20)の定年退官まで美学を担当した。18年に刊行した「三太郎の日記」によって大正教養主義を代表した。昭和期に入って「徳川時代の芸術と社会」「世界文化と日本文化」で日本の文化を論じた。
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… ダンテの作品は,約言すれば,政治と文学との激しい葛藤のなかで生み出された。日本においては,明治時代から《新生》と《神曲》を中心に,かなりの翻訳と紹介が行われてきたが,その傾向を大別すると,第1は上田敏を頂点とする純文学的動機によるもの,第2は内村鑑三,正宗白鳥ら宗教的関心に基づくもの,第3は阿部次郎が築こうとした哲学的・倫理的傾向のもの,そして第4にダンテの文学を政治と文学の葛藤の角度から(とくに第2次世界大戦下の日本の状況と照らし合わせて)とらえようとしたもの(矢内原忠雄,花田清輝,杉浦明平ら)となる。《神曲》の翻訳としては,文章表現と文体に問題は残るが,最も原文に忠実で正確なものとして,山川丙三郎訳を挙げねばならない(1984年現在)。…
※「阿部次郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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