改訂新版 世界大百科事典 「カーシ族」の意味・わかりやすい解説
カーシ族 (カーシぞく)
Khasi
インドの現在のメガラヤ州,アッサム西部のカーシ丘陵(ガロ丘陵の東)に住み,アウストロアジア語系諸族に属する。かつてはアッサム,ベンガル,東部ヒマラヤにアウストロアジア語系諸族が広く分布していたと思われるが,現在アッサムではカーシ諸族のみがアウストロアジア語系に属する。カーシ,シンテ,ワー,ボーイ,リングンガムの諸部族から成り,カーシは人口29万5224(1951)。伝承によれば,東あるいは北から移住して来たらしい。この丘陵の東部にはジェインティア王国があったが,18世紀初頭アホム族によって滅ぼされた。形質は中頭,短身,中鼻。皮膚は暗褐色から黄褐色の間。黒色直毛または波状毛で体毛は少ない。だいたいにおいてパレオ(古)モンゴロイド型に属すると見てよいが,著しい蒙古ヒダの特徴をもつ者も少なくない。彼らは杭上家屋ではなく,平地家屋に住む。壁は石または木でつくられるが,四囲ともに石壁をめぐらし,家屋建築に釘を用いることはタブーである。有肩の鉄製鍬や2本の柄のある鉄剣をもち,鉈(なた),鎌などの農具とともに,すべて村の鍛冶屋がつくる。東ヒマラヤからアッサムに一般的な亀甲形雨具をもつ。男はそでなしシャツ,腰布,ターバンを着用,女は下衣と胸あてをつける。丘陵の頂から少し下ったところ,あるいは低地に定着村落を営む。山腹にイネ,トウモロコシ,アワ,マメ,ワタを焼畑耕作し,低地には水稲をも栽培する。
居住地は多くの行政地区に分かれ,それぞれ世襲あるいは選挙による酋長(しゆうちよう)をもつ。身分的には,王族,司祭者,貴族,平民があるが,その間に通婚上の制約はない。婚姻規制の主要単位は外婚母系氏族であって,各氏族は分裂細分する傾向が著しい。しかし,従来考えられていたような典型的な〈母権社会〉ではなく,親族名称などからみて,双系大家族組織から転化したものらしい。居住規制は母処婚,あるいは初めは母処婚で,子どもが生まれると,夫婦は独立の家をかまえる。また一部には訪婚もある。離婚はきわめて容易である。相続は母系を通じて行われ,末女相続。しかし酋長の地位は同母弟または長姉の長男によって相続され,政治生活は男子の領域に属する。祖先崇拝が発達し,創造者あるいは創造女神の観念もある。死者は火葬され,灰は氏族共同墓地に葬られる。カーシ族はアッサムにおける巨石文化の中心的な担い手で,メンヒル,ドルメン,石壇などが存するが,一般に男女の祖先の記念碑である。カーシ族の巨石文化は,明らかに他の東南アジアの巨石文化,ことに同じアッサム内部では,ナーガ諸族のそれと密接な関係をもっており,牛類の供犠と関係している。また中部インドのムンダ諸族の巨石文化とも関係があろう。かつてはカーシ族においてはヘビに対する人身供犠も存したと伝えられる。
→ナガ族 →ムンダ族
執筆者:大林 太良
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