アメリカの宇宙物理学者。ニューヨーク市生まれ。マサチューセッツ工科大学で物理学の学士号を、1992年にカリフォルニア工科大学で物理学の博士号を取得した。1992年にアリゾナ大学で博士研究員としてキャリアをスタート。1994年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校に移り助教授、準教授を経て2000年に教授に就任した。
ゲズは当初、連星の観測に興味をもち、赤外線スペックル・イメージングの技術を駆使して研究を始めた。このイメージング技術は、とらえる天体を非常に短い時間、露光して多くの画像を撮影し、それを処理するもので、大気のゆらぎによる望遠鏡の分解能(解像度)の低下を防ぎ、単一星しか見えない連星をくっきりと観察することができた。1995年からは、ハワイ島のマウナケア山頂にあるケック天文台の直径10メートルの分割鏡をもつ光学近赤外線望遠鏡2基を駆使して、天の川銀河中心のいて座の方向にある謎(なぞ)の天体「Sgr A*(サジエースター)」(いて座A*)の観測を開始した。この天体は、太陽系から2万6000光年離れたところにあり、明るく輝く非常に小さな電波源が発見され、巨大なブラック・ホールの可能性が指摘されていた。当時、ブラック・ホールの存在は数学的に証明されていたが、だれも観測には成功していなかった。
ゲズは、大気のゆらぎや、乱流を補正する補償光学、赤外線スペックル・イメージングなどの分解能を向上させる技術を使い、Sgr A*周辺の星の軌道を鮮明な画像で観測し続けた。ケック天文台の望遠鏡は、世界最大の分割鏡で、2枚の鏡それぞれがハチの巣のような六角形のセグメント36枚で構成され、かすかな星からの光をとらえるのにも適していた。長年の観測の結果、Sgr A*の周りを周回する星が多数見つかり、そのなかで、楕円(だえん)軌道を描く星S2を確認した。
ゲズらとは別に、ドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所所長のラインハルト・ゲンツェルらの研究チームも、1992年からチリのラ・シア天文台にある光学望遠鏡の「新技術望遠鏡」(NTT:New Technology Telescope)や「超大型望遠鏡」(VLT:Very Large Telescope)を駆使して、天の川銀河中心にある無数の星について長年、観測を続けていた。
ゲズは、2000年代初め、Sgr A*を周回する星の軌道から、Sgr A*の質量が、太陽の約400万倍であることを発表したが、このデータは、ゲンツェルらがほぼ同じ時期に発表したデータと一致。この二つのグループが、ブラック・ホールの存在を間接的にではあるが、それぞれ約30年間継続した観測によって世界で初めて証明した。
この発表が契機となりブラック・ホールを直接観測する機運が盛り上がり、Sgr A*の探索も始まった。日米欧国際共同チームが多数の電波望遠鏡を連携させて、あたかも地球サイズの口径をもつ望遠鏡で観測する「イベント・ホライズン・テレスコープEvent Horizon Telescope(EHT)」によって、2017年、Sgr A*と同時に観測していたM87銀河の中心にあるブラック・ホールの撮影に成功。これら複数の望遠鏡で観測したデータを緻密(ちみつ)に合成し、その解析・検証を経て、画像が2019年に発表された。ブラック・ホールも直接観測する時代が訪れ、宇宙創成の謎解明の研究が加速すると期待されている。
ゲズは、1998年ニュートン・レイシ―・ピアス賞を受賞、2008年マッカーサー・フェローに選出され、2012年クラフォード賞を受けた。2012年スウェーデン王立科学アカデミー会員となり、2015年イギリス王立協会ベイカー・メダルなどを授与された。2020年、長年の観測を通じた「天の川銀河の中心に巨大なブラック・ホール発見」の業績が評価され、ゲンツェルとともにノーベル物理学賞を受賞した。数学的な手法を用いて「一般相対性理論を基にブラック・ホールが形成されることを証明した」ロジャー・ペンローズとの同時受賞であった。
[玉村 治 2021年2月17日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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