改訂新版 世界大百科事典 「ラグランジュ関数」の意味・わかりやすい解説
ラグランジュ関数 (ラグランジュかんすう)
Lagrangian function
一般に物理的な体系が時間または空間的に変化する法則は変分原理によって表現されることが多いが,その場合対象となる系の物理量を含む汎関数でその積分が変分汎関数となるものをラグランジュ関数と呼び,一般にLで表す(ここで物理量の汎関数とは,物理量自体時空変数の関数として表されるので関数の関数という意味で用いられる用語である)。以下,質点の力学の場合について具体的に説明しよう。物理量x(t)(x1(t),……,xn(t))に関する時間tの2階常微分方程式,
\(\frac{d^2x}{dt^2}\)=f(x,t) ……(1)
として運動法則が表される場合,適当な関数L(x,ẋ,t)が定められて,変分汎関数,
の停留条件(変分原理),
を満たすx(t)のみが上の運動法則に従うとなっているならば,先の運動法則(1)は変分原理(2)で置き換えられたことになる。その結果,運動法則を個々の場合に応じて(1)の形に述べる代りに変分原理(2)によって統一的に示すことができるという利点が生ずるわけである。変分原理(2)から運動法則(1)が導かれるような関数L(x,ẋ,t)が,運動方程式(1)のラグランジュ関数と呼ばれるものであり,変分法の一般論からその場合の運動方程式はオイラーの方程式,
である。J.L.ラグランジュは最初いわゆる等周問題についてこの方程式を考察し,次いでニュートンの運動方程式に適用して解析力学の基礎を築いた。すなわちポテンシャルU(x)のもとで運動する質点(質量m)に対しては,
を用いることによりオイラーの方程式(1′)がニュートンの方程式,
に一致することがわかる。一般にq1,……,qfの関数としてのポテンシャルU(q,t)のもとで運動する力学系では,速度qiの正値二次形式として運動エネルギーTが与えられるならば,
L(q,q,t)=T(q,q)-U(q,t)
であって,この場合の変分原理(2)は力学法則を変分原理で表す先駆となった仮想変位の原理またはダランベールの原理と等価なものであることが知られる。ラグランジュ関数は座標qの一次までの微係数を含むスカラー関数であるから,変数の変換により座標系を変更して取り扱うのに便利である。実際オイラーの方程式(1′)は座標の選び方によらぬ形式である(これに対しLを用いない運動方程式を直接変数変換すると,多くの場合非常に複雑となる)。
さて,解析力学に現れる上述のラグランジュ関数の場合,積分は作用積分の名で呼ばれ,運動方程式の解である軌道に沿っての積分ならば,積分結果は作用S(x(t),t)の両端値の差S(x(t2),t2)-S(x(t1),t1)に等しい。20世紀に至って量子力学が誕生し,波動関数とこの作用積分との関係が永く論ぜられているが,1948年R.P.ファインマンは経路積分を導入して波動関数を古典力学の軌道群によって表現することを提案した。その経路積分には,
の形式で作用積分が登場する(ℏはプランク定数を2πで割ったもの,またi2=-1である)。
執筆者:長谷川 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報