ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラブカン」の意味・わかりやすい解説
ラブカン
Ruvkun, Gary
ゲーリー・ラブカン。アメリカ合衆国の分子生物学者,遺伝学者。遺伝子発現に必須の機能を果たす小さなリボ核酸 RNA分子であるマイクロRNA(miRNA)と RNA干渉(RNAi)に関する革新的な研究,ならびに老化や長寿の研究でも知られ,特に遺伝子調節の基本的プロセスや成長過程における細胞機構において重要な洞察を示した。miRNAの発見およびその遺伝子活性への役割に対する研究成果が認められ,2024年にアメリカの発生生物学者,分子生物学者のビクター・アンブロスとともにノーベル生理学・医学賞(→ノーベル賞)を受賞した。
当初,天文学や無線通信に興味をもち,カリフォルニア大学バークリー校では電気工学を専攻したが,途中,生物物理学に変更し,1973年に学位を取得。その後,オレゴン州に移り,ユージーン近郊の協同組合で短期間,植樹作業を手伝った。さらにそののちの 1年間,南アメリカを旅した。帰国後,カリフォルニア大学サンフランシスコ校で核医学技術者として 1年間勤務し,1976年にハーバード大学の大学院課程で,細菌細胞における遺伝子制御のメカニズムの研究を始めた。1982年に博士号を取得後,マサチューセッツ工科大学 MITのノーベル賞受賞者 H.ロバート・ホルビッツの研究室で博士研究員となる。そこで出会ったアンブロスとともに,線虫類のカエノラブディティス・エレガンス Caenorhabditis elegans(C. elegans)の成長過程における突然変異の原因遺伝子とみられる,lin-4 と lin-14 の研究を進めた。
1985年にマサチューセッツ総合病院とハーバード大学医学部に籍を置き,教職を務めるかたわら,C. elegans の成長過程と遺伝子との関係を探る研究を続けた。lin-14 遺伝子のクローニングに成功し,さらにアンブロスが lin-4 が非常に短い RNA,マイクロRNA(miRNA)を産出するのを観察したことをうけて,二人は1993年,lin-4 RNAの配列が lin-14メッセンジャーRNA(mRNA)の一部を相補していることを明らかにした。さらに,lin-4の miRNAが lin-14 mRNAと結合することで,lin-14蛋白質の産生が阻害されていることも示した。二人の画期的な発見は当初,他の種にはあてはまらないものと考えられていたが,2000年にラブカンの研究室が線虫 C. elegans の遺伝子 let-7 によってコード化された新たな miRNAを発見,この遺伝子がさまざまな種に存在していることがわかった。以来,数多くの miRNAが多くの生命体において発見された。
その後も C. elegans の代謝と寿命にかかわる遺伝経路を調べ,最終的に代謝や老化に関与する遺伝子の目録を作成した。また火星の生命体探査にも興味をもち,火星の土壌から古いリボソームRNA(rRNA)の遺伝子配列の痕跡を検出する方法の開発を目指した。
2004年ローゼンスティール賞(アンブロス,アンドルー・Z.ファイアー,クレイグ・C.メロと共同受賞),2008年ラスカー賞(アンブロス,デービッド・ボールカムと共同受賞),ガードナー国際賞(アンブロスらと共同受賞),2014年ウルフ賞(アンブロス,ネイハム・ソネンバーグと共同受賞)など受賞多数。2008年全米科学アカデミー会員,2009年アメリカ芸術科学アカデミー会員。
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