狂言伝書。全5巻。江戸時代初期の狂言師大蔵虎明(おおくらとらあきら)(1597-1662)の著。初め父虎清(とらきよ)の教訓を主に89段から成る《昔語(むかしがたり)》を1651年(慶安4)に著したが,次いで,それに抄,すなわち注釈を加えた《狂言昔語抄(きようげんむかしがたりしよう)》を編集し,さらに,これを改稿して60年(万治3)に完成したのが《わらんべ草》である。内容は89の段,および巻末の系図等から成り,能・狂言における芸道の理念,演能前後の心構えや態度,狂言の性格・内容の概観,狂言指導の心得,演能や楽屋での作法・故実,《翁》の歴史や故実など,能・狂言の基本的な事柄を広範囲にわたって説く。その根底に,虎明の狂言論の中心ともいうべき〈狂言は能のくづし,真と草也〉の立場が貫かれており,巻ごとの分類は多分に便宜的なもので,内容は必ずしも1巻ずつにまとめられているわけではなく,記事の配列や構成も雑然とした体裁になっている。
虎明の言説には大蔵流の正統性を主張するあまり,自流に対立する鷺流(さぎりゆう)に対しては不当に厳しい批判を浴びせるなど排他的な面も見え,ときに公正を欠く意見も少なくない。また,芸術論としても世阿弥の能楽論には及ぶべくもないが,数少ない狂言伝書の中では最古にして最大の伝書であり,江戸時代初期の狂言および能界の状況を知るうえでの史料的価値は高い。
執筆者:中村 格
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狂言の伝書。江戸前期の大蔵(おおくら)流13世家元、弥右衛門虎明(やえもんとらあきら)の著。1651年(慶安4)に完成した『昔語(むかしがたり)』の各段について自ら注解を加えたもので、全編89段(6段・88段欠)に家之系図、自伝などを加えたもので、1660年(万治3)の奥書がある。狂言にかかわる作法・心得、能楽一般の故事など、内容は広範にわたり、衒学(げんがく)的臭みも感じさせるが、当代的写実性の強かった新興の鷺(さぎ)流を批判の対象とし、古典芸能としての狂言の芸統確立に賭(か)けた情熱が一貫している。数少ない狂言伝書中、もっとも内容の充実した書。
[小林 責]
『笹野堅編『わらんべ草』(岩波文庫)』▽『西尾実他編『国語国文学研究史大成8――謡曲 狂言』(1961・三省堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その芸態は羯鼓(かつこ),大鼓,鉦(かね),笛等を用いたこと以外はよくわかっていない。松囃子という名義からは松に関するめでたい詞章があったと想像されるが,《申楽談儀(さるがくだんぎ)》に1430年(永享2)室町御所で演ぜられたと思われる松囃子の詞章が伝えられ,《わらんべ草》には〈松はやしの事〉として,やはり室町御所で観世大夫が演じた際の詞章が一部記載されているのがわずかな現存例である。その他の大名家の若党や声聞師,地下の村人たちが演じた松囃子の詞章については現存の資料は皆無である。…
※「わらんべ草」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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