(読み)ヲ

デジタル大辞泉の解説

を[五十音]

五十音図ワ行の第5の仮名。現在は、五十音図ア行第5の仮名「お」と発音上の区別がなく、現代仮名遣いでは、助詞「を」以外には、この仮名を用いない。しかし、歴史的仮名遣いでは「お」と区別している。
平仮名「を」は「遠」の草体から。片仮名「ヲ」は「乎」の初3画から変形したもの。
[補説]「を」は、古くは[wo]の音で、「お」(発音[o])と発音上も区別があったが、のち、両者は同じ音となり、中世末期には[wo]、近世以降は[o]となった。

を[格助・接助・間助]

[格助]名詞、名詞に準じる語に付く。
動作・作用の目標・対象を表す。「家建てる」「寒いのがまんする」「水飲みたい」
「ただ月―見てぞ、西東をば知りける」〈土佐
移動の意を表す動詞に応じて、動作の出発点・分離点を示す。…から。「東京離れる」「席立つ」
「さびしさに宿―立ち出でてながむればいづくも同じ秋の夕暮」〈後拾遺・秋上〉
移動の意を表す動詞に応じて、動作の経由する場所を示す。…を通って。「山道行く」「廊下走る」「山越す」
「また住吉のわたり―こぎゆく」〈土佐
動作・作用の持続する時間を示す。「長い年月過ごす」「日々送る」
「足引の山鳥の尾のしだり尾のながながし夜―独りかも寝む」〈拾遺・恋三〉
(「香(か)をにほふ」「寝(い)を寝(ぬ)」「音(ね)を泣く」などの形で)同類の意をもつ名詞と動詞の間に置かれ、慣用句を作る。
「夜はも夜のことごと昼はも日のことごと音(ね)のみ―泣きつつありてや」〈・一五五〉
遭遇や別離の対象を表す。…に。
「逢坂(あふさか)にて人―別れける時に詠める」〈古今・離別・詞書〉
[補説]1の「水を飲みたい」などは、「を」の代わりに「が」を用いることもある。格助詞「を」は、の間投助詞から生じたといわれる。
[接助]活用語の連体形、まれに名詞に付く。
逆接の確定条件を表す。…けれども。…のに。
「亡き人の来る夜とて魂(たま)まつるわざは、このごろ都にはなき―、東(あづま)の方には、なほする事にてありしこそあはれなりしか」〈徒然・一九〉
原因・理由を表す。…ので。…(だ)から。
「ししこらかしつる時は、うたて侍る―、とくこそ試みさせ給はめ」〈・若紫〉
[間助]名詞、動詞型活用語の連体形・命令形、形容詞・形容動詞型活用語の連用形、助詞などに付く。
(文中・文末で)感動・詠嘆・強調を表す。…(だ)なあ。…ね。…よ。
「我妹子(わぎもこ)は釧(くしろ)にあらなむ左手の我が奥の手に巻きて去(い)なまし―」〈・一七六六〉
「萩が花散るらむ小野の露霜にぬれて―ゆかむ小夜(さよ)は更(ふ)くとも」〈古今・秋上〉
(文中で名詞に付き、下に形容詞語幹に接尾語「み」の付いたものを伴って)理由・原因を表す句の中で、上の名詞を特に取り立てて強調する意を表す。…が…ので。…の…さに。
「若の浦に潮満ち来れば潟(かた)―なみ葦辺(あしへ)をさして鶴(たづ)鳴き渡る」〈・九一九〉
[補説]主に上代の用法で、中古でもみられるが、鎌倉時代以後は和歌以外にはほとんどみられなくなる。この用法が格助詞・接続助詞に発達したという。なお、1の文末用法を終助詞、2格助詞とする説もある。

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大辞林 第三版の解説

五十音図ワ行第五段の仮名。現在は「お」と発音上区別がなく、現代仮名遣いでは、助詞「を」以外には、この仮名を用いない。しかし、歴史的仮名遣いでは「お」と区別して用いる。
平仮名「を」は「遠」の草体。片仮名「ヲ」は「乎」の初三画の変形。 〔「を」は古くは「お」と発音上区別があったが、のち、両者は発音上の区別がなくなった〕

( 格助 )
体言またはそれに準ずる語に付く。
動作・作用の対象を表す。 「本-読む」 「講演-終わる」 「太刀が緒もいまだ解かずて襲おすひ-もいまだ解かねば/古事記
使役表現において動作の主体を表す。 「子供-泣かせないようにして下さい」 「今年こそ美しい花-咲かせよう」
移動性の動作の経過する場所を表す。 「いつもの道-通る」 「大空-飛ぶ」 「新治筑波-過ぎて幾夜か寝つる/古事記
動作・作用の行われる時間・期間を表す。 「この一年-無事に生きてきた」 「今-盛りに咲く」 「朝日照る佐田の岡辺に鳴く鳥の夜泣き反らふこの年ころ-/万葉集 192
動作の出発点・分離点を表す。 「毎朝九時に家-出ます」 「バス-降りてから五分ほど歩く」 「故郷-離れる」 「たらちねの母-別れてまこと我旅の仮廬かりほに安く寝むかも/万葉集 4348
希望・好悪などの心情の向けられる対象を表す。現代語では「が」も用いられる。 「水-飲みたい」 「君-好きな人はずいぶんいるよ」 「身-惜しとも思ひたらず/徒然 9
(サ変動詞とともに用いられて)「…を…として」「…を…にする」「…を…にして」など、さまざまな表現のしかたをつくる。 「首相-はじめとして、大臣がずらりと並ぶ」 「ひとの失敗-他山の石とする」
動詞と同じような意味をもつ名詞に付いて、一種の慣用句をつくる。 「白真弓斐太ひだの細江の菅鳥の妹に恋ふれか眠-寝かねつる/万葉集 3092」 「しのび音-のみ泣きて、その年もかへりぬ/更級」
( 接助 )
活用語の連体形に接続する。
逆接の場合。前件と後件とが内容上相応しないような関係で、前後を結び付ける。…のに。 「今はとてまかる-、何事もいささかなることもえせで遣はすこと/伊勢 16
順接の場合。前件が後件の原因・理由であるような関係で、前後を結び付ける。…ので。…だから。 「たえて宮仕つかうまつるべくもあらず侍る-、もてわづらひ侍り/竹取」
単純な接続の場合。…したところ。 「この殿、大将にても、先を追はれける-、土御門相国つちみかどのしようこく、…と申されければ/徒然 196
( 間投助 )
文末にあって、活用語の連体形や言い切りの形、または体言を受け、詠嘆の気持ちを表す。 「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣-/古事記 」 「宇治川を舟渡せ-と呼ばへども聞えずあらし梶の音もせず/万葉集 1138」 「老いらくの来むと知りせば門さしてなしと答へて逢はざらまし-/古今 雑上
文中用法。
意志・希望・命令の文中にあって、詠嘆の気持ちをこめて、語調を整える。 「生ける者遂にも死ぬるものにあればこの世なる間は楽しく-あらな/万葉集 349」 「恋ひしくは下に-思へ紫のねずりの衣色にいづなゆめ/古今 恋三
情意の対象を詠嘆的に指示する。 「紫のにほへる妹-憎くあらば人妻ゆゑに我あれ恋ひめやも/万葉集 21
〔「…を…み」の形で〕 原因・理由を表す句をつくる。…が…ので。…が…さに。 「若の浦に潮満ち来れば潟かた-なみ葦辺あしへをさして鶴たづ鳴き渡る/万葉集 919」 「しののめの別れ-惜しみ我ぞまづ鳥より先に鳴き始めつる/古今 恋三」 〔上代からある語で、
の間投助詞としての用法が最も古いもの。格助詞・接続助詞としての用法は、それぞれ
から転化してできたもの。ただし、間投助詞としての用法は中世前期以降次第に行われなくなり、接続助詞としての用法も近世に入るとほとんど行われなくなる。格助詞としての用法のみが現代にまで及んでいる〕

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精選版 日本国語大辞典の解説

[1] 〘間投助〙
[一] 文末にあって活用語の連体形または体言を受け、詠嘆をこめて確認する。
※古事記(712)上・歌謡「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣(ヲ)
※源氏(1001‐14頃)真木柱「いとかうきはぎはしうとしも思はで、たゆめられたる妬さ
[二] 文中用法。
① 意志・希望・命令の文中にあって連用の文節を受け、指示強調する。
万葉(8C後)三・三四九「生(いける)者遂にも死ぬるものにあれば今(こ)の世なる間は楽(たのしく)(ヲ)あらな」
※古今(905‐914)恋三・六三〇「人はいさ我はなき名のをしければ昔も今もしらずといはむ〈在原元方〉」
② 情意の対象を詠嘆的に指示する。→補注(1)(ハ)。
※万葉(8C後)一・二一「紫草(むらさき)のにほへる妹(ヲ)憎くあらば人妻ゆゑに吾れ恋ひめやも」
③ 「…を…み」の形で対象を提示する。…が…なので。→補注(1)(ハ)。
※古事記(712)下・歌謡「梯立の 倉梯山(ヲ)(さが)しみと 岩懸きかねて 我が手取らすも」
[2] 〘格助〙
① 働きかけの対象となる物や事柄を表わす。
(イ) 状態を変化させる動作の対象となる物や事柄を表わす。
※古事記(712)上・歌謡「太刀が緒も いまだ解かずて 襲(おすひ)(ヲ)も いまだ解かねば」
※徒然草(1331頃)六〇「よきいもがしらを選びて、ことに多く食て、万の病いやしけり」
※好人物の夫婦(1917)〈志賀直哉〉「細君は〈略〉、糸断り、針針差しに差して仕事片付け始めた」
(ロ) 第一の対象を第二の対象に取り付けたり、そこから取り除いたりする動作の、第一の対象となる物を表わす。
※万葉(8C後)一七・三九一〇「珠に貫く楝(あふち)(ヲ)家に植ゑたらば山霍公鳥(ほととぎす)(か)れず来むかも」
※平家(13C前)二「解脱幢相の法衣ぬぎ捨て、忽に甲冑よろひ、弓箭帯しましまさん事」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)日光「髪剃て墨染にさまをかえ」
(ハ) 空間的な位置を変化させる動作の対象となる物を表わす。
※万葉(8C後)一六・三八四八「あらき田の鹿猪田(ししだ)の稲(ヲ)倉に上げてあなひねひねし吾が恋ふらくは」
※源氏(1001‐14頃)葵「御硯の箱御帳の内にさし入れておはしにけり」
(ニ) 接触の対象となる物を表わす。
※万葉(8C後)一四・三四五九「稲つけばかかる我が手(ヲ)今夜(こよひ)もか殿の若子が取りて嘆かむ」
※俳諧・炭俵(1694)下「盆の月ねたかと門たたきけり〈野坡〉」
(ホ) ある動作によって作り出される物を表わす。
※万葉(8C後)一・三八「高殿(ヲ) 高知りまして 登り立ち 国見をせせば たたなにはる 青垣山」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)出羽三山「此国の鍛冶、霊水を撰て、爰に潔斎して剣(うち)
(ヘ) 表現したり感じたりすることによって出現する抽象物を表わす。
※万葉(8C後)一八・四〇九四「遠き代にかかりしこと(ヲ)(わ)が御世に顕はしてあれば」
※徒然草(1331頃)六七「若かりける時、常に百首の歌よみて」
② 働きかけの対象となる人を表わす。
(イ) 物理的な状態の変化や空間的な位置の変化を引き起こす動作の対象となる人を表わす。
※万葉(8C後)五・八九一「一世にはふたたび見えぬ父母(ヲ)置きてや長く吾(あ)が別れなむ」
※浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)二「彼娘の親、〈略〉、彼子取かへし」
(ロ) 心理的な状態の変化を引き起こす動作の対象となる人を表わす。
※万葉(8C後)四・七四〇「言のみを後も逢はむとねもころにわれ(ヲ)頼めて逢はざらむかも」
※徒然草(1331頃)一二九「人くるしめ、物をしへたくる事」
(ハ) 社会的な状態の変化を引き起こす動作の対象となる人を表わす。
※万葉(8C後)四・四九四「吾妹子(ヲ)相知らしめし人をこそ恋のまされば恨めしみ思へ」
※平家(13C前)二「次男宗盛大納言の右大将にておはしけるをこえさせて、徳大寺左大将にぞなされける」
(ニ) 呼びかけや誘いかけの対象となる人を表わす。
※万葉(8C後)一八・四〇九四「しかれども 吾が大君の 諸人(もろひと)(ヲ) 誘ひたまひ よきことを 始めたまひて」
※浮世草子・好色一代男(1682)一「袖垣のまばらなるかたより、女よび懸」
③ 所有の対象や所有関係の変更の対象を表わす。
(イ) 授受・貸借の対象を表わす。
※万葉(8C後)一四・三四七二「人妻とあぜかそを言はむしからばか隣の衣(ヲ)借りて着なはも」
※平家(13C前)三「此疵治しつべし。但五十斤の金あたへば治せんといふ」
(ロ) 入手の対象や手放す対象を表わす。
※万葉(8C後)七・一一四五「妹がため貝(ヲ)拾ふと茅渟(ちぬ)の海に濡れにし袖は干せど乾かず」
※俳諧・冬の日(1684)「烹る事をゆるしてはぜ放ける〈杜国〉 声よき念仏藪をへだつる〈荷兮〉」
④ ある意図のもとに行なわれる動作の対象を表わす。
(イ) ある人・場所に接近しようとする態度で行なわれる動作の対象を表わす。
※竹取(9C末‐10C初)「かぐや姫必逢はんまうけして」
※土左(935頃)承平四年一二月二七日「大津より浦戸さしてこぎいづ」
※金の棺(1947)〈網野菊〉「けい子は〈略〉彼等の新居訪れたことがある」
(ロ) ある人・場所・物事から離れようとする態度で行なわれる動作の対象を表わす。
※万葉(8C後)二〇・四三四八「たらちねの母(ヲ)別れてまことわれ旅の仮廬(かりほ)に安く寝むかも」
※源氏(1001‐14頃)明石「つひに后の御諫め背きて、ゆるされ給ふべき定め出で来ぬ」
※金閣寺(1956)〈三島由紀夫〉三「木の株(よ)けながら登った」
(ハ) ある物を、相手に提示しようとする動作の対象を表わす。
※万葉(8C後)五・八一三「斎ひたまひし 真珠なす 二つの石(ヲ) 世の人に 示したまひて」
※浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)一「就夫(それにつき)上書に、一作者と、くだんの小判出せば、さてもかる口なる御事と、見てまはせば」
(ニ) ある人や物を他の働きかけから守ろうとする動作の対象を表わす。
※源氏(1001‐14頃)東屋「今はわが姫君、思ふやうにて見奉らばや、と、明け暮れまもりて、撫でかしづくこと限りなし」
※灰色の月(1946)〈志賀直哉〉「若者は自分の荷(かば)ふやうにして」
(ホ) 問いただしたり、調べたりする動作の対象を表わす。
※古事記(712)下・歌謡「大坂に 遇ふや嬢子(をとめ)(ヲ) 道問へば 直(ただ)には告(の)らず 当芸麻道(たぎまち)を告る」
※風船(1955)〈大仏次郎〉父親「新しく売り出した会社の製品の批評聞いたり、売れ行きの様子調べるのが目的であった」
(ヘ) ある物事を描写・表現しようとする動作の対象を表わす。
※源氏(1001‐14頃)絵合「年の内の節会どものおもしろく興ある、昔の上手どものとりどりにかけるに、延喜の御手づから、事の心かかせ給へるに」
※俳諧・続猿蓑(1698)下「かつは展重陽のためしなきにしもあらねば、なを秋菊詠じて人々をすすめられける事になりぬ」
(ト) 崇拝する気持で行なわれる動作の対象を表わす。
※万葉(8C後)六・九二〇「天地の 神(ヲ)ぞ祈る かしこかれども」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)黒羽「そこにまねかれて、行者堂拝す」
(チ) ある特定の態度で行なわれる動作の対象を表わす。
※万葉(8C後)一・一三「古も しかにあれこそ うつせみも 妻(ヲ) 争ふらしき」
※平家(13C前)三「保元平治よりこのかた、度々の朝敵たひらげて、勧賞身にあまり」
※少年(1911)〈谷崎潤一郎〉「毎日のやうに年下の子供いぢめて居る名代の餓鬼大将だから」
⑤ 認知活動や言語活動の対象やその内容を表わす。
(イ) 視覚・聴覚・嗅覚など感性的な知覚活動の対象を表わす。
※万葉(8C後)一九・四一八〇「さ夜中に 鳴く霍公鳥(ほととぎす) 初声(はつこゑ)(ヲ) 聞けばなつかし」
※古今(905‐914)夏・一三九「さつきまつ花たちばなのかかげば昔の人の袖のかぞする〈よみ人しらず〉」
※芋粥(1916)〈芥川龍之介〉「彼は飲んでしまった後の椀しげしげと眺めながら」
(ロ) 抽象的な認識の思考活動の対象やその内容を表わす。
※万葉(8C後)九・一八〇七「遠き代に ありけること(ヲ) 昨日しも 見けむがごとも 思ほゆるかも」
※平家(13C前)一「天下のみだれむ事さとらずして、民間の愁(うれふ)る所しらざっしかば」
(ハ) 発見の対象やその内容を表わす。
※源氏(1001‐14頃)胡蝶「兵部卿宮の、ほどなく焦られがましきわび言どもをかき集めたまへる御文御覧じつけて、こまやかに笑ひ給ふ」
(ニ) 話す・聞く・書く・読むなどの言語活動の対象やその内容を表わす。
※万葉(8C後)一・一「しきなべて われこそ座(ま)せ われこそば 告らめ 家(ヲ)も名(を)も」
※徒然草(1331頃)六〇「いもがしら〈略〉大きなる鉢にうづだかく盛りて膝元に置きつつ、食ひながら文も読みけり」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)市振「年老たるおのこの声も交て物語するきけば」
⑥ 物事に対するある態度や活動の対象、またその内容を表わす。
(イ) 感情や評価の対象を表わす。
※万葉(8C後)四・七二一「あしひきの山にしをれば風流(みやび)なみ我がするわざ(ヲ)とがめたまふな」
※方丈記(1212)「富める家のとなりに居るものは、朝夕すぼき姿恥ぢて」
※走れメロス(1940)〈太宰治〉「私は王の卑劣憎んだ」
(ロ) 希望の対象を表わす。→補注(2)(ロ)。
※徒然草(1331頃)二三八「紫の朱うばふことを悪むと云文御覧ぜられたき事ありて」
※どちりなきりしたん(一六〇〇年版)(1600)四「くんねんなしたくは」
※帰郷(1948)〈大仏次郎〉孔雀「ほんたうに自分で画描きたくなってゐるのを知って」
(ハ) 意志的行為や要求的行為の対象となる内容を表わす。
※万葉(8C後)四・五四八「今夜(こよひ)の早く明けなばすべをなみ秋の百夜(ももよ)(ヲ)願ひつるかも」
※平家(13C前)一「いかにもして平家をほろぼし、本望とげむ」
(ニ) 経験する物事の内容を表わす。
※万葉(8C後)九・一七八七「布留の里に 紐解かず 丸寝(ヲ)すれば 吾が着たる 衣はなれぬ」
※徒然草(1331頃)六九「恨しく我をば煮て、からき目見するものかな」
(ホ) (下の動詞と同意の体言をのせて) 動作・作用の内容を表わす。
※万葉(8C後)一四・三四一四「伊香保ろの八尺(やさか)の堰塞(ゐで)に立つ虹(のじ)の顕はろまでもさ寝(ヲ)さ寝てば」
※源氏(1001‐14頃)柏木「そこはかとなく物を心細く思て、ねのみ時々泣き給」
⑦ 移動動作が成り立つ空間的な状況や周りの状況を表わす。
(イ) 移動動作が行なわれる範囲を表わす。
※万葉(8C後)一七・三九四四「をみなへし咲きたる野辺(ヲ)行きめぐり君を思ひ出たもとほり来ぬ」
※方丈記(1212)「羽なければ空も飛ぶべからず」
※草枕(1906)〈夏目漱石〉一「山路登りながら、かう考へた」
(ロ) 通過する場所を表わす。
※古事記(712)中・歌謡「新治 筑波(ヲ)過ぎて 幾夜か寝つる」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)尿前の関「関守にあやしめられて、漸として関こす」
(ハ) 出発する場所を表わす。
※万葉(8C後)一五・三六八八「大和(ヲ)も 遠く離(さか)りて 石(いは)が根の 荒き島根に 宿りする君」
※平家(13C前)四「七日、福原いでさせ給ふに」
(ニ) 動作が行なわれる周りの状況を表わす。
※万葉(8C後)八・八四六「霞立つ長き春日(ヲ)かざせれどいやなつかしき梅の花かも」
⑧ 動作が行なわれる時間を表わす。
※万葉(8C後)一〇・二一三九「ぬばたまの夜渡る雁はおほほしく幾夜(ヲ)経てかおのが名を告る」
※読本・雨月物語(1776)浅茅が宿「寺院遠ければ贈号を求むる方もなくて、五とせ過し侍るなり」
※秋(1920)〈芥川龍之介〉二「大阪やその近郊の遊覧地へ気散じな一日暮しに行った」
⑨ 主体の変化がどんな側面で起こるかを表わす。→補注(2)(ハ)。
※天草本伊曾保(1593)獅子と鼠の事「ネズミワ アマノ inochiuo (イノチ)タスカッテ」
[3] 〘接助〙 活用語の連体形を受けて句と句を接続する。逆接的な関係での接続が最も多いが、順接の場合もあり、また因果関係のない場合もある。→補注(3)(イ)。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「おのづからかろき方にも見えし、この御子生まれ給ひて後はいと心ことにおもほしおきてたれば」
※今昔(1120頃か)五「羸(つか)れ極(こう)じて我が命も可絶き〈略〉山野に罷出たらむ間、此の子共を師子に預け師子に預奉らむ」
※徒然草(1331頃)一八「孫晨は冬月に衾なくて、藁一束ありける、夕にはこれにふし、朝にはをさめけり」
※日葡辞書(1603‐04)「ソナタエ mairǒzuruuo (マイラウズル)」
[補注](1)(間投助詞について) (イ)語源については「否も(を)も欲しきまにまに赦(ゆる)すべき皃(かたち)は見ゆや我れも依りなむ」〔万葉‐三七九六〕のような感動詞「を」から出たものといわれる。ただし間投助詞「を」は格助詞「を」から派生したものとする説もある。(ロ)鎌倉時代以後、間投助詞の用法は文語化したらしく、和歌を除いてほとんど見られなくなる。(ハ)(一)(二)②および③の用法の場合、「を」によって主格が表示されていると考えて、格助詞とする説もある。格助詞であるとすれば、(一)(二)②の用法は(二)⑥(イ)の感情的態度を表わす用法であるということになる。なお、原因・理由を表わす「[名詞]を…み」の形と並んで、「を」のない「[名詞]…み」の形も奈良時代からある。→
(2)(格助詞について) (イ)(二)の用法は、感動の対象を提示する(一)の用法から転じたものとするのが通説である。用例を見ても詠嘆的気分の強いものがあり、(一)(二)いずれの用法とも決しがたい場合がある。(ロ)(二)⑥(ロ)の用法は(一)(二)②の用法と本質的に大きく異なるものではないが、間投助詞が口語として用いられなくなった時代には、格助詞の一用法として意識されたものと思われる。なお、「…を…したい」という言い方と並んで「…が…たい」という言い方もある。→が。(ハ)(二)⑨は自動詞に「を」が用いられたものであるが、述語の表わす変化が主語のどういう属性についてのものであるかを明らかにするものなので、格助詞と考えた。ただし、主格を表わすものと見ることもできる。
(3)(接続助詞について) (イ)(三)の用法は活用語の連体形を受けた格助詞「を」からの派生といわれるが、間投助詞「を」からの派生も考えなければならない。「今こそは我鳥にあらめ 後は 汝鳥にあらむ(ヲ) 命は な死せ給ひそ」〔古事記‐上・歌謡〕のような「を」は間投助詞であるが、そこには逆説的な意味をもって下に続く趣が感じられる。このようなところからも接続助詞化したと考えられる。(ロ)接続助詞としての成立期に関して、奈良時代からすでに用いられていたとする説、鎌倉時代以後用いられるようになったとする説がある。(一)(二)(三)それぞれの間には、形式・意味いずれの面からも明らかな境界が引けないため、同一例に対する解釈の揺れることが多いが、接続助詞と指摘される平安時代以前の例は、ほとんどすべて間投助詞あるいは格助詞としても解し得るものである。(ハ)接続助詞としての用法の中には「白露の色は一ついかにして秋の木の葉をちぢにそむらん〈藤原敏行〉」〔古今‐秋下〕、「忘れては打ち歎かるる夕べかな我のみしりて過ぐる月日〈式子内親王〉」〔新古今‐恋一〕のように体言を受けるものもある、とする説があるが、これらはやはり間投助詞とすべきか。

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