インドラ(読み)いんどら(その他表記)Indra

翻訳|Indra

デジタル大辞泉 「インドラ」の意味・読み・例文・類語

インドラ(〈梵〉Indra)

インド神話の軍神。暴風雨をつかさどり、火の神アグニとともにバラモン教の中心。仏教に入って帝釈天たいしゃくてんとなる。因陀羅いんだら

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精選版 日本国語大辞典 「インドラ」の意味・読み・例文・類語

いんどら

  1. いんだら(因陀羅)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「インドラ」の意味・わかりやすい解説

インドラ
いんどら
Indra

古代インドの武勇神、英雄神。古くはイラン、小アジア、メソポタミアにも知られ、もとは雷霆(らいてい)神であったものがしだいに擬人化された。イラン高原からインドへ侵入したアーリア人は、この神をアーリア戦士の理想像とし、また『リグ・ベーダ』における全賛歌の約4分の1はこの神をたたえたもので、ベーダ神話のなかでももっとも重要な神である。頭髪や髭(ひげ)をはじめ全身が茶褐色で、その偉大な体躯(たいく)は宇宙を威圧し、暴風神マルト神群を従えて空中を馳(は)せ巡る。神酒ソーマを飲んで鋭気を養い、手には武器バジェラ(金剛杵(こんごうしょ)、雷撃)を持つが、これを投擲(とうてき)して蛇形の悪魔ブリトラを退治し、人間界に待望の水と光明をもたらした偉業は、数ある神話のなかでもとくに有名である。またこの神にまつわる神話は『ブラーフマナ』(祭儀書)以降伝えられ、ヒンドゥー教神話において、より人間的、個性的に描かれる。妻はシャチー、息子はジャシタで、神都アマラーバテティー(アマラバティ)に君臨し御者マータリが愛車ビーマナを駆る。彼の乗るゾウはアイラーバタといわれる。その庭園ナンダナには如意樹(にょいじゅ)パーリジャータがあり、天人ガンダルバの音楽にあわせて天女アプサラスが踊っているが、彼は戦場で名誉の戦死を遂げた勇士をここに迎えると信じられていた。しかし、しだいに神界の長としての地位は名目的となりしばしば敵軍アスラに敗北しては奇計や策略を用いてかろうじて苦境を脱した。その豪放性からバラモン殺害や仙人の妻の誘惑などの大罪も犯すが、一方諧謔(かいぎゃく)性のために、悲壮感を伴わない伝説や物語の主人公となっている。護天八神の一つとなって東方の守護に任じた彼は、仏教に入ると釈提桓因(しゃくだいかんいん)、あるいは帝釈天(たいしゃくてん)とよばれて仏法の守護神となった。

[原 實]

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改訂新版 世界大百科事典 「インドラ」の意味・わかりやすい解説

インドラ
Indra

インド最古の文献である《リグ・ベーダ》賛歌における最大の神。全賛歌の約4分の1が彼に捧げられている。元来,雷霆(らいてい)神の性格が顕著で,ギリシアゼウス北欧神話トールに比較しうるが,《リグ・ベーダ》においては,暴風神マルト神群を従えてアーリヤ人の敵を征服する,理想的なアーリヤ戦士として描かれている。中でも,工巧神トバシュトリの作った武器バジュラ(金剛杵)を投じて,水をせき止める悪竜ブリトラを殺す彼の武勲は繰り返したたえられている。彼はブリトラハン(ブリトラを殺す者)と呼ばれているが,ブリトラハンはイランの勝利の神ウルスラグナに対応する。しかしインドラの地位は後代になるにつれて下落する。彼は名目上は依然として神々の王とみなされるが,相対的に弱い神となり,世界守護神(ローカパーラ)の一つとして東方を守護するとみなされるようになった。仏教にも取り入れられ,仏法の守護神とされ,帝釈天と漢訳された。
インド神話
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百科事典マイペディア 「インドラ」の意味・わかりやすい解説

インドラ

インドのベーダ神話の最高神。《リグ・ベーダ》の約4分の1が同神の賛歌である。自然現象の神としては雷に結びつけられ,ギリシア神話ゼウスや北欧神話のトールに比しうるが,擬人化されて武勇神・英雄神ともされる。悪竜ブリトラ退治が特に知られ,ブリトラハン(ブリトラを殺す者)との別称はこれに由来する。仏教では帝釈天(たいしゃくてん)と呼ばれる。
→関連項目バージャーバーユプルシャ梵天

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インドラ」の意味・わかりやすい解説

インドラ
Indra

インド神話における英雄神。帝釈天,釈提桓因と漢訳される。インドラ賛歌は『リグ・ベーダ』の4分の1を占めている。雷霆 (らいてい) 神としての性格が強く,全身茶褐色で,巨大なからだによって宇宙を圧し,2頭の名馬の引く戦車で天空を駆けめぐる。アーリヤ戦士の理想像として崇拝された。神酒ソーマで英気を養い,バジュラ vajra (金剛杵) で敵を粉砕する。悪竜ブリトラ退治は最も有名である。信者に対しては非常な恩恵を与える反面,ウシャスの車を破壊し,スーリヤの車輪を奪ったりして,神界の平和を破る。インドラは神々 (デーバ) の代表者であった。

インドラ
Indra, Alois

[生]1921.3.17. コシツェ,メドゼフ
[没]1990.8.2. プラハ
チェコスロバキアの政治家。労働者の家庭に生れ,鉄道員となり,1937年共産党に入党。党地方機関で働き,62年党中央委員,63~67年運輸相。保守派として 68年の改革に抵抗,ソ連などの軍事介入後脚光を浴びた。 69年行政組織担当党中央委員会書記,71年以降党幹部会員兼連邦議会議長に就任。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「インドラ」の解説

インドラ
Indra

インドの神。『リグ・ヴェーダ』において最も多くの讃歌がささげられている。神々の王としてアーリヤ人の敵を征服する英雄的な神。神々の飲み物ソーマを飲み,水や牛を囲い込む悪竜ヴリトラなどを,稲妻の武器ヴァジュラで殺す神話が最も有名。宇宙創造,秩序の回復の神話と解釈される。のちのヒンドゥー教では東の方角をつかさどる神となる。仏教に取り入れられ,帝釈天(たいしゃくてん)として知られる。インドラの座は天界の代表で,現在の民間伝承にも登場する。

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旺文社世界史事典 三訂版 「インドラ」の解説

インドラ
Indra

インドの『リグ−ヴェーダ』に出てくる神
雷を擬人化したもので,アーリア人戦士の理想的武勇神とされ,最も豊富な神話をもつ。神酒 (みき) ソーマを好み,マルトという21の神々を従えていた。仏教では帝釈 (たいしやく) 天と呼ばれる。

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世界大百科事典(旧版)内のインドラの言及

【雨】より

…その原型の一つを成したと思われるのは,怒りが洪水や干ばつの原因となると信じられて恐れられた,メソポタミアの雷神アダドで,その性格はヒッタイトのテシュブや,旧約聖書に登場するフェニキアのバアルなどに,はっきり継承されており,バアルとの習合を通して,イスラエルの神ヤハウェにも部分的に受け継がれている。インド神話の神々の王インドラも,これらと酷似した勇猛な雷神で,雨水をせき止めて干ばつを起こす悪竜ブルトラを,雷を投げつけて殺し,河川に水をあふれさせ,乾いた大地を潤す。素戔嗚尊(すさのおのみこと)が八岐大蛇(やまたのおろち)を退治して,奇稲田姫(くしなだひめ)の生命を救うと同時に,大蛇の尾の中から〈天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)〉を得たという日本神話も,雷神的武神の戦闘によって,雨雲が解放され,田畑が涸渇から救われることを物語った,類話の一つと認められよう。…

【インド神話】より


【《リグ・ベーダ》の神話】
 前1500年から前900年ごろに作られた,最古のベーダ文献である《リグ・ベーダ本集》には,一貫した筋の神話は見いだされないが,事実上の作者である聖仙(リシ,カビ)たちは,当時のインド・アーリヤ人が持っていたなんらかの神話を前提として詩作したと思われる。特に,《リグ・ベーダ》において最高神的地位にあるインドラ(帝釈天)を中心とする神話の存在がうかがわれ,実に全賛歌の約4分の1が彼に捧げられている。インドラは元来,雷霆(らいてい)神の性格が顕著で,ギリシアのゼウスや北欧のトールに比較されるが,《リグ・ベーダ》においては,暴風神マルトMarut神群を従えてアーリヤ人の敵を征服する,理想的なアーリヤ戦士として描かれている。…

【ウマ(馬)】より

…すぐ思い出されるのはギリシア神話で,天馬があけぼのの女神エオスの車を引き,ファエトンが太陽神ヘリオスの二輪車を御し,天神ゼウスによってうたれる物語であろう。《リグ・ベーダ》でも,英雄神であるインドラは,2頭の名馬の引く戦車に乗って空を駆け,火の神,かつ太陽神であるアグニも輝く車に乗っている。あかつきの女神ウシャスも馬に引かせた車に乗って1日のうちに万物のまわりを巡回している。…

【ソーマ】より

…同名の植物を板上で両手に持った石器または臼で砕き,圧搾した液を羊毛の濾布でこし,木椀に入れ,水,牛乳等を混ぜて作られた。神々,特にインドラはこれを好み,これにより敵に打ち勝つ力を増大させ,また人間は詩的霊感を得たとされる。この祭式と特殊な供物の重要さは,《リグ・ベーダ》第9巻の全体が〈自身を浄化するソーマ〉の賛歌よりなっていることからもうかがわれる。…

【腹】より

… 腹に子が宿るものであれば,聖人や偉大な神は汚れた産道を通過せずに生まれなければならない。ヒンドゥーの神インドラは,通常分娩(ぶんべん)を願う母の願いを拒否してわき腹から生まれ出た(《リグ・ベーダ》)。釈迦は母の摩耶夫人(まやぶにん)が無憂樹の枝を折ろうと右手をあげたときに右のわき腹から生まれた(《今昔物語集》天竺部)。…

【ヒンドゥー教】より

…また時代によっても変遷がある。たとえば,《リグ・ベーダ》の時代に有力であり,人々に最も愛好された武勇神インドラ(仏教に入って帝釈天となる)や人々に恐れられた司法神バルナ(仏教に入って水天となる)などは,次の時代には勢力を失った。今日のヒンドゥー教で,インド全域にわたって崇拝されている神はビシュヌシバとである。…

※「インドラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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